私がひよこやになるまで  ー好きなことだけ、それで充分。ー vol.4  長谷川栞

こんにちは。ライター塾8期生の長谷川 栞です。
前回から間が空いてしまいました。皆さま、お元気ですか?

この頃は、ツバメの姿をよく見かけます。
今朝も、散歩の道中に巣作りに励むつがいを見つけ、ほっこりしていたのですが
安全な場所を見つけて、あちこちから材料を集めて自分たちで巣を作り、
そこで卵を温めて…。
よくよく考えてみると、それってすごいことだよなぁ〜と感心します。
かわいいヒナが見られるのが、今からとても楽しみです。

ひよこやのツバメ。毎年春になると作ります。

さて、この連載も第4回目となりました。
前回までは、私がひよこ型と出会うきっかけとなった
「卒業制作」について綴ってきました。
今回は、卒業制作と時を同じくして私が挑んでいた「就活」のエピソードです。

ちょうど今、ご自身やご家族が就活中です!という方もいらっしゃるかもしれません。
就活中は、自分が社会に受け入れてもらえるのか?と不安になったり
早く内定をもらいたい!という気持ちから、
妙に肩に力が入ってしまうことがありますよね。

当初は、私にもそんな気持ちがありました。
でも「好きなことだけやりたい!」私には、真面目な就活は向いていなくて(笑)。

そこで、一般的な就活とはちょっと変わった
「私が楽しいやり方」を模索していったのです。
さて、それはどんな方法だったのでしょう?
ご興味があれば、ぜひお付き合いください。

好きな会社で働きたい!

自由な雰囲気の美大でも、4年生になるとキャンパスライフの終わりが見えはじめ、
多くの学生はリクルートスーツを身にまとい、就職活動に励みます。

私も最初は「真面目に就活をしよう!」と試みました。
3年生の後半から、いくつか「会社説明会」なるものにも参加しましたし、
「採用につながる!エントリーシートの書き方講座」みたいなものも受講しました。

ところが…これが全然ワクワクしなくて(笑)。
大学内にある「就活サポートセンター」という施設でも
デザイン事務所、出版社、制作会社など、さまざまな分野の求人情報を調べましたが
当時の私は生意気にも「な〜んか全然ピンと来ない!」と思っていたのです。

そこで、視点を変えてみることにしました。

「どの業界で就活するか」「どの業種に就くか」ではなく
【私はどんなふうに働きたい?】と。

就職したら、一日のうち多くの時間を仕事をして過ごすことになる。
だったら「好きな会社」で絶対楽しく働きたい!
選ぶ基準を「業界」「職種」ではなく【好きかどうか】に。
外に向いていたベクトルをくるりと自分に向けてみました。

すると…アイディアが舞い降りてきたのです。

愛のお手紙作戦

私が実践した就活方法、名付けて【愛のお手紙作戦】!
その手順は以下のような感じです。

【愛のお手紙作戦♡】
①自分が好きな商品やサービスをリストアップ
②それを生み出している会社をリサーチ。
ビビッときたら、ホームページの【採用情報】をチェック。
③募集の有無に関わらず、自分でデザインした履歴書と簡単なポートフォリオ、
その会社(商品・サービス)のことがどんなに好きか!という想いを手紙に綴り
最後に「近日中にお電話にてご連絡させていただきます。
お時間をいただけるかを是非ご検討いただけますと幸いです!」と書いて郵送する。
④電話をかける(OKをもらったら会いに行く日程を先方と決める)
⑤会いに行く(本格的なポートフォリオと名刺を持って伺う)
⑥面接…というより雑談をさせていただく
⑦返事をいただく
⑧採用 / 不採用に関わらず、お礼の手紙を書く

ポイントは、③の「募集の有無に関わらず」というところ。
実は、当時私がリストアップした会社さんの多くは採用を行なっていませんでした。
でも、そこで諦めてしまったら何も起こらない…と思った私は
断られる前提で「手紙だけでも送ってみよう!気持ちだけでも伝えてみよう!」と
行動に移していったのでした。

もちろん、電話の時点で断られることもありましたが、
意外なことに、多くの会社さんが時間を作ってくださったのです。
こんな無謀な就活をしている田舎の学生を、面白がってくれたのかもしれません。
忙しい中、皆さん少なくない時間を割いてくださいました。
これがもう、本当に楽しくて…!!
ある日は東京、次の日は大阪…と、夜行バスであちこち駆け巡り、
まるで旅をしているようでした。

一番の思い出は、私が最も憧れている「サン・アド」の葛西薫さん
(「虎や」などのアートディレクションを手がけておられます)にお会いできたこと!
まさかご本人に時間を作っていただけるとは思わず、体が震えるほど緊張しましたが
2時間ほど、私のポートフォリオについて丁寧にコメントをいただきました。
最後には「うちでは雇用は難しいですが、
きっとあなたを必要としている人がいますよ。頑張って。」
とおしゃってくださいました。この時のことは私の「人生の宝」となりました。

帰りに「記念にどうぞ。」と頂いた、葛西さんデザインのカレンダー。
葛西さんはとてもダンディな方で、私は終始トキメキっぱなしでした。

ところが…
この作戦は、間違いなく 就活の「必楽法(絶対楽しい方法)」ではあるのですが
「必勝法」ではなかったのでした。
結局、大学4年生の11月末時点で内定はゼロ。
同級生からは「現実見なよ。」と呆れられ
大学からは「そろそろ真面目に就活しなさい!」と指導される始末…。

そんな時、運命の出会いがやってきます。
通学バスの中で、何気なく見ていたFaceBookに流れてきた「デザイナー募集」の文字。それが、後に私が入社することになる「iichi(いいち)」という会社でした。

iichiとの出会い

iichiは、ハンドメイド作家とお客さまを繋ぐプラットフォームサービスです。
「WEB版のクラフトフェア」というイメージを持っていただけると
分かりやすいと思います。

当時はinstagramなどが登場して、誰もが発信できるようなったことで
それまで世に知られることがなかった
「個人の作り手の作品」が注目され始めていました。
また、さまざまな分野でECサイトやプラットフォームサービスが作られ
「ネットでお買い物」がどんどん身近になっていた時期でもありました。
そんな時代の流れを感じ取った 社長が発起人となり、集まった数人のメンバーで
iichiはサービスをスタートしました。

以前からiichiのサービスを「いいなぁ」と思っていた私は、
Facebookをフォローしていて
偶然デザイナー募集の投稿を見つけた、というわけです。

【手仕事の作り手と使い手を繋ぐ、iichiです。】
これが、当時のiichiのサイトに掲げられているキャッチコピーでした。
その時ちょうど、来る日も来る日もひよこを作っていた私。
自らの手で作品を作り出す楽しさに夢中になっていたこともあり、
「ハンドメイドの作家さんを応援する仕事!私にピッタリ〜!」と
勝手にノリノリになり(笑)
早速「愛のお手紙作戦」を決行しました。

ですが…
iichiのデザイナーの応募要件は「実務経験3年以上」でした。
つまりは新卒不可。
会社として立ち上がったばかりで、チームメンバーは少数精鋭。
当時のiichiに、何も知らない新卒を教育することは難しい状況。
当然の採用条件でした。

そんな大人の事情を知る由もない当時の私は、
空気を読まず(読めず…笑)作戦を続行。
後日、ディレクターのSさんから電話がかかってきました。

Sさん「井上さん、この度はご応募ありがとうございました。履歴書面白いですね!
あんな熱いお手紙もらえて、みんな感激してます。
だけどごめんね、今回新卒は対象じゃないんです…。」(申し訳なさそうにするSさん)私「はい。知ってます!」
Sさん「え?知ってたの?知ってたのに、送ってくれたんだ。井上さん面白いね〜!」
私「ありがとうございます!面白がってもらえただけでも送った甲斐がありました。」
……(沈黙)
Sさん「実は年末に、iichiを利用してくれてる作家さんに
年賀状を書く会があるんだけど……。
よかったら遊びに来る?作家さん全員に手書きのメッセージを書くから、
人手が増えると嬉しいんだけど。」
私「私、手紙を書くのめちゃめちゃ得意です!行きます〜!」

という流れで、採用の話はどこへやら?
年賀状を書く要員として、年末に4泊5日でiichiがある鎌倉へ行くことになりました。
この時、私は「採用に繋がるか」ということはあまり気にしていませんでした。
なぜなら、今までの「愛のお手紙作戦」も採用には至らなかったけれど、
それ以上に得たものがたくさんあったからです。
私はただただ、ワクワクしていました。

年の瀬のビッグサプライズ!

2012年12月末。私は北鎌倉駅に降り立ちました。
迎えにきてくれたスタッフの方に連れられ、
当時iichiがオフィスとして利用していた古民家へ。
鎌倉の情緒ある景色がとても美しかったことを覚えています。
iichiのみなさんは「井上さん、ようこそ!遠いのによく来たね〜!」
と温かく迎え入れてくれました。

それから4日間は、寝ても覚めても年賀状を書く日々です。
当時の登録作家さん全員に向けて、個別にメッセージを書きます。
定型文でない、というところが この年賀状プロジェクトのすごいところ!
作家さんひとりひとりに寄り添い、「こんなところが素敵です!」
「この作品が好きです!」等、
作家さんが読んで嬉しい気持ちになる文章を心がけます。

「ひとりひとりにこんなに時間をかけるんですね…!」と驚く私に
「そうだよ〜毎年大変!だけど、作家さんたちがすごく喜んでくれるから。
iichiはネットのサービスだから、
こうやってリアルに繋がる感覚もちゃんとあることが
すごく大事だと思ってる。」と社長が教えてくれました。

チームメンバーの作家さんたちへの愛情を肌で感じて
私はますますiichiのサービスが好きになっていったのでした。
食事をみんなで作って食べたりしながら、
わいわいと合宿のような雰囲気で過ごす中
メンバーと色々な話をしたり、息抜きには一緒に観光をさせてもらったり。
本当に楽しくて、あっという間に時間が過ぎていきました。

江ノ電の車窓から見た海が、とても綺麗でした。

そして、最終日。
私は年賀状を無事に書き終え、達成感と幸福感に満ちていました。
「あぁ〜今回も楽しかったなぁ〜!卒業までに就職できなかったら、
来年アルバイトしながらもう一回就活するのもいいかも〜♡」
なんて思っていたのですが…

奇跡は起こりました。

最後の挨拶をしようと部屋に戻ると、皆さんが勢揃いで私を待っていてくれました。
そして、社長がこう言ったのです。
「栞さん、4日間本当にありがとう!一緒に過ごせてすごく楽しかったです。
それで、みんなで話し合ったんだけど、
よかったら4月からiichiで一緒に働きませんか?」

一瞬、何が起こったのか分からず呆然とする私。
え、4月から?一緒に?働く?ということは……採用〜〜〜〜〜!!!!!

驚きと嬉しさで思わず涙。
「やったね〜!」「就職おめでとう!」とチームの皆が一緒に喜んでくれました。
こうして、思いもよらぬサプライズで私の就活は終わりを迎えたのでした。

就職後、鎌倉で迎えた初めての春。若宮通りの桜がとても綺麗でした。

大学卒業後から3年間、
私はiichiのディレクター兼デザイナーとして働くことになります。
これが本当に人生のターニングポイントとなりました。

きっと違う会社に就職していたら、
私は「作家として生きていこう」とは思わなかったと思います。
iichiでのお仕事、そして、生き生きとものづくりをされる
作家さんたちとの出会いが
私をハンドメイド作家の世界に導いてくれました。

次回は…
大好きな会社に就職して、全エネルギーを注いでお仕事をした日々について
書いていこうと思います。どうぞお楽しみに〜。

 

つづく


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