私がひよこやになるまで ー好きなことだけ,それで充分ー vol.3

こんにちは。ライター塾8期生の長谷川栞です。
愛知県はすっかり春の陽気で、ふっくらした蕾をつけた木々を目にするようになりました。
皆さま、いかがお過ごしでしょうか?

前回までをお読みいただいた皆さま、ありがとうございます。
読者の方からコメントもいただき、とても嬉しかったです!
少し間が空いてしまいましたが、続きを綴っていこうと思います。

前回は、卒業制作をつくるにあたり
【価値観の違う人に、自分が素敵!と思ったものの魅力を伝えるには?】
という問題を掲げ、たくさんの方々の協力や助言を得ながら
自分が一番魅力に感じた「菓子型が道具として働いた時間」を表現する
試行錯誤の過程を書かせていただきました。

今回は、10年の時を経て(笑)
この場をお借りして、私の卒業制作をお見せしちゃいます。
ぜひ、美術館に訪れたような気持ちでご覧いただけたら嬉しく思います。

ー卒業制作:菓子型録(カシカタログ)

ひとつの型が作る和菓子の数は、一年で約3000個。
型が道具として働いた「時間」を可視化しました。

美術館のホールに4メートル四方の台を設置し、その上に3000個の白いひよこを並べました。
これがひよこ型の働いた「一年」という時間です。
作品の前方には、コンセプトや制作過程などを解説したコーナーをつくり、
後方には、和菓子屋で型が働く風景を再現しました。

今回見せたかったのは「時間」。
そのスケールに注目してもらうため、ひよこは全て白い素焼き(陶土)の状態で展示しました。

後方には、和菓子屋さんを取材した際に見た工房の風景を再現しました。
そこから3000個のひよこを眺めることで、小さな型に刻まれた時間の壮大さを感じられるように
空間全体をひとつの作品と考えて作りあげました。

こだわったのは、言葉がなくても伝わること。
3000個のひよこを作るという 型の一年の働きを、私自身が追体験し
ひとつの空間にずらりと並べることで、そのスケールを可視化するという
一番シンプルな方法で表現しました。

この景色は、作り手の私自身も実際に展示するまで見えなかったものでした。
搬入作業が終わり、作品の全貌を目にした時は
「やりきった…!これが見たかった!」という達成感が満ちていました。

そして、何より嬉しかったのは、作品を見てくださった方々から
自然に溢れる「わぁ〜!」「すごい…!」という感嘆の声。
あぁ、やっと伝えることができたんだ…!という気持ちが込み上げてきて、胸が熱くなりました。

教授たちの間では「すごいアートだ!」と絶賛してくださった方もいれば
「これは社会的に意味がない」とバッサリ酷評してくださる方もいて
賛否両論が飛び交った問題作だったそうです。笑
教授たちの激論のおかげで、この作品は「選抜優秀作品」のひとつに選ばれたのでした。

ーお礼のひよこ

2013年2月。
卒業制作の展示を終えた4年生は、卒業式までの間はお休みです。
多くの学生はこの期間に卒業旅行に行ったり、就活のラストスパートをかけたり、バイトに明け暮れたり。
大学に来る4年生はほとんど(単位がやばい人以外は。笑)いません。

しかし…私はまたしても工房にいました。お礼の品を作るためです。

私の卒業制作は3000匹のひよこを白い素焼き状態で展示したものでした。
写真では分かりづらいのですが、実はあのひよこたち
ぜ〜んぶツルツルにヤスリがかかっているのです!

ツルツルにヤスリがかかったひよこたち。

「白いひよこ」というシンプルなものを並べるにあたり、その質感にはこだわりたかった私。
土を型から抜いたそのままでは、表面がガサガサとしていて美しくないので
どうしてもヤスリをかけて仕上げたかったのです。
でも、時間的にも体力的にも、一人で3000個のひよこにヤスリまでかけるのは難しい…。

そこで、大学内で「お手伝いさん募集!」を呼びかけることにしました。
デザイン学科の1〜3年生のありとあらゆる授業に顔を出し、手書きのパネルを持って
「卒制のお手伝いしてくれる子を探しています!興味ある人は連絡くださ〜い!」
と宣伝して回りました。

でも、バイト代を支払えるわけでもないし、ヤスリなんて地味な作業やりたい人がいるのかな〜
と私は内心不安でした。
しかし、そんな不安はなんのその、たくさんの後輩たちがお手伝いに立候補してくれました。
その数、総勢40人!中には、初対面の子もいて驚きました。そして、本当に嬉しかった…!

後から聞いた話ですが、ゼミの先生であるT先生が
「先輩の卒制を手伝うのは勉強になるから。バイトよりよっぽど価値があると思うよ。」
と後輩たちに言ってくれていたそうなのです…!T先生〜惚れてまうやろ〜!(当時の私の心の叫び)

そんなわけで、私はこの「卒制お手伝いチーム」を「ひよこや」と名付けました。
これが今のブランド名「陶ノ鳥ひよこや」の起源です。

後輩ちゃんたちは、授業の合間やお昼休み、バイトまでの間など
それぞれが時間を見つけては工房に足を運んでくれて
せっせとひよこにヤスリをかけてくれたのでした。
彼らがいなかったら、私の卒業制作は完成しなかったと思います。
感謝しかありません!

卒制を終えた後、私はその感謝の気持ちをひよこに託すことにしたのです。
手伝ってくれた後輩ちゃんたち一人一人をイメージした絵付けをひよこに施し
小さなロゴ入りの箱に入れて、卒業式までに手渡しました。


お礼のひよこ。箱詰め作業の様子

みんなとても喜んでくれて、中にはお手紙をくれた子もいました。
卒業式以上に、後輩ちゃんたちからの
「ありがとうございました!ひよこや楽しかったです!」
という言葉に感動しました。

▲後輩ちゃんたちからの手紙。私の宝ものです。
ひよこの形をした付箋を手作りして、そこにメッセージを書いてくれました。さすが美大生!

こうして、私の大学生活は幕を下ろしました。
全力で楽しんで、自分が作りたいものを作った、最高の4年間だった!
と今でも胸をはって言えます。

ですがこの時の私はまだ、将来ひよこやを生業にすることになるとは…
微塵も思っていなかったのです。

現在の制作風景。全てが今に繋がっています。

当時は、ただただ夢中になってやっていたのですが、
卒業制作チームの「ひよこや」という名前がブランド名の起源となり
後輩のみんなに作った「お礼のひよこ」が作品の原点であったことが
こうして振り返ると分かります。

普段、アトリエにこもって一人で作品を作っていると
ついつい自分一人でやっていると錯覚してしまいがちですが
たくさんの人たちのおかげで、ここまで来られたんだなぁと
この連載を書かせていただくたびに実感しています。本当にありがたいです。

次回は…

私の就活のエピソードについて書こうと思います。
当時の私が編み出した「就活が絶対に楽しくなる方法」をご紹介します♪
ちょうど就活が始まるシーズンなので、大学生の方には
ひょっとしたら、参考になる…かも? どうぞお楽しみに〜!

つづく

長谷川栞さんのHP「陶ノ鳥ひよこや」はこちら。


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