【モヤモヤ女の読書日記】私に効く本、いただきます「私の外付け良心」梅津奏

「お姉ちゃんは悪い人じゃないよ。たいしていい人でもないけど」

10年前に弟からかけられた言葉を、ときたまふと思い出します。

この子は(子と言ってももう30代ですが)弟ならではの遠慮斟酌の無さで、ときに鋭く姉の真実をつくのです。そうね、私って悪い人じゃないんだけど、そんなにいい人でもないのよね……。

私は割と自己肯定感はあるタイプ。過剰に卑下してみせたり、自虐することはあまりないはず。そして、働き盛りの30代特有の「社会人的無双ゾーン」に片足を突っ込んでいる自覚があります。それなりに成功体験を積んできているので、「私は間違ってない」「私が考えた通りに進めたい」願望が年々(どころか日に日に)強くなっているような気がするんですよね。

そのせいで、「あれ私、今無理やり自分を通そうとしなかった?」とひやりとすることが。そんなとき、頭をよぎるのが冒頭に書いた弟の箴言です。だめだめ、あまり自分を過信してはいけないよ。私はたいしていい人でもないんだから……。

 

普段弟に思い入れがなさ過ぎて、写真がない。ので、思い入れがありまくる甥(弟の息子)の写真を。

「自分を信じない」というとネガティブに聞こえるかもしれませんが、自分を客観視して自制するためには必要なこと。「信じない」だけだと自己嫌悪の沼に沈み込んでしまいそうなので、私が心がけているのは「外付け良心」を持つことです。

パソコンの容量不足を補うために使用する外付けハードディスクってありますよね。あれの「良心」バージョンと言えば伝わりますでしょうか。人間にはキャパシティの限界があるので、それを外部に補ってもらおうという発想です。良心以外にもセンスとか知識とか計算機とか記憶力とか、いろいろな種類の「外付け●●」を私は持っています。

私にとっての「外付け良心」は、人と本。

ここ数年私の「外付け良心」役を担ってくれているのは職場の先輩。とにかく穏やかで良心的で、どんなときも取り乱さない寛容な人。私は陰でこっそり、「天使」と呼んでいます。仕事上の心配ごとがあるとき、いらいらモヤモヤするときに先輩のところに行って話をすると、すーっととげとげした感情が引いていき、もともと想定していたものより一段落ち着いた落としどころが見えてくるんです。

そして「外付け良心」本。こちらに関してはいくつも蔵書がありますが、どんな精神状態でも効果がある、イブクイック頭痛薬のような一冊がこちら。

 

読んでいるとページに光が差すようです。

飛ぶ教室』(エーリッヒ・ケストナー著・池内紀訳/新潮文庫)。

ドイツの詩人・小説家であるエーリッヒ・ケストナーによる、児童文学。代表作は、『エミールと探偵たち』、『ふたりのロッテ』など。子どもの頃に読んだことがあるな~という方もいらっしゃるでしょうか。

私もケストナー作品のファンで、なかでも一番大切なのが本書。最初に読んだのは小学校の図書室で、以来20年以上定期的に読み返しています。

舞台は、クリスマスシーズンを迎えたドイツのギムナジウム。ギムナジウムとは、日本でいうところの中学生~高校生が学ぶ教育機関です。寄宿舎で集団生活を送る少年たちが、クリスマス劇の発表会に向けた準備をしているところから物語ははじまります。

優等生で正義感あふれるマルティン、劇の原作者であり文才のあるジョニー、大食いで力自慢のマティアス、ちょっと気の弱いウーリ……。個性あふれる少年たちが、友人の苦境、ライバル学校との喧嘩、上級生とのトラブルなどに力を合わせて立ち向かいます。そして彼らの試行錯誤を見守り、ときに導く大人たち。

 

「願わくば消えてほしくないいまのこの時に、きみたちに要望したい。幼いころを忘れるな!(略)」――『飛ぶ教室』より

少年たちの尊敬を集める舎監先生「道理さん」が、少年たちにかける言葉。

まだまだ未熟なところもあるけれど、優しさと正義感が彼らの武器。苦しむ相手にはまっすぐ手を差し出し、話を聞く。仲間と頭を突き合わせて、自分たちに何ができるかを考える。間違ったことをしてしまったら、素直に反省して謝罪する。シンプルな行動原理で動く彼らのことが、なんともまぶしい。そして私も、昔はこんな風だったはず。考えすぎて何もできなかったり、つい冷笑的になったりしてしまう今の自分をかえりみて、「幼いころを忘れるな!」と言って聞かせたくなりました。

 

自分がどんなタイプか、何が足りないのかを自覚することって大事ですよね。
そうすることで、自分を助け、育ててくれる「外付け●●」を探す嗅覚が育っていくような気がします。そして、「あ、見つけた!」となったらなりふり構わず取りに行かないと。皆さんも、そんな「外付け●●」をお持ちですか?


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