【モヤモヤ女の読書日記】私に効く本、いただきます「旅のお供の選び方」梅津奏

10年くらい、国内出張の多い仕事をしています。もともと出不精なたちなのですが、仕事は別。どんどん出かけて行って、お客さんと顔を合わせて話をしたいと思っています。そして出不精とはいえ、地元の仙台に帰省するときとか、友人に会いにちょっと遠出するとか、プチ旅行する機会はちょこちょこあります。

先日出張で、瀬戸内に行ってきました。

 

Kindleを使い始めるまでは、「旅行にどの本を持っていくか」がいつも大きな課題でした。

紙の本はかさばるので、多くて2冊が限度。選び方は3つあります。

①「積読(つんどく)になってしまっている本を、旅行中に集中して読むぞ!」

例)昨年直木賞を受賞した小川哲さんの『地図と拳』。買ったはいいけど、あまりの分厚さにそのままになってしまっている……。これを機に、移動中やホテルで読むぞ~!

②「旅先や旅行のテーマに合わせた本で、気分を上げよう」

例)初めてのフランス旅行。美術館巡りが楽しみだな~。原田マハさんの『ロマンシエ』を読んで、パリ気分・アート気分を盛り上げよう!(旅行ガイドブックなんかもここに含まれます)

③「旅行気分を邪魔しない、でも間違いなく面白い短編小説やエッセイ」

私はこのパターンで本を選ぶことが多いです。特に出張の場合は、旅の目的はお仕事なのであまり気分を散らしたくない。「わーい!北海道だ!」みたいにワクワクしすぎてしまうと、仕事に集中できないので……。これは私が気が小さいからかもしれませんが。

また、旅行中って周囲になるべくアンテナを張っていたいし、寄り道も楽しみたいですよね。物語の世界に心が持っていかれてしまうと、「早く続きを読まねば」とそわそわしてしまいそう。

前置きが長くなってしまいましたが、私がおすすめする「旅のお供本(これが鉄板!)」はこちらです。

小心者なので、フライト時間からだいぶ余裕をもって空港に来るのが習慣です。

いわしバターを自分で』(平松洋子/文春文庫)。

エッセイストの平松洋子さんによる、週刊文春の大人気連載をまとめたもの。書籍化されてシリーズになっており、こちらは7冊目です。これまでのラインナップを並べてみると……。

サンドウィッチは銀座で
ステーキを下町で
かきバターを神田で
あじフライを有楽町で
すき焼きを浅草で
肉まんを新大阪で

どうですか。タイトルだけでお腹がすいてきませんか?

おいしいもの大好き(お料理も好き)な平松さんの真骨頂、食べ物エッセイの金字塔だと私は思っています。「このシリーズは絶対にハズレがない」と確信しているので、新刊が出たらすぐに購入。この「ハズレがない」安心は、持ち歩ける本に限りがある旅行にぴったりの要素です。旅先で開いた本がイマイチだったときのがっかり感といったら……ですからね。

1章ずつ、おいしい食べ物をちょっとしたトリビアと共に。食いしん坊な平松さんだからこその緻密な味の描写に、いちいちうっとり。読書家としても有名な平松さん(書評本も多数執筆)の文章は、お揚げさんについて書くときもカレーについて書くときも、軽妙で洒脱。気持ちよく読んで、いい気分のまますぐ現実に戻ってこられます。

最新刊の『いわしバターを自分で』では、タイトルから分かる通り連載途中からコロナ禍に突入。買占めがニュースになっていた時期の八百屋さんでの出来事、ステイホームの気晴らしに作ったふきのとうの春巻き、ご近所のテイクアウト事情、某議員の料理動画にハマったわけ……。「わかるわかる」「おいしそう!」が交互にやってきて、「どんな状況でも、たくましくおいしく食べよう」と、心がちょっと強くなる一冊(そして過去シリーズ本と同じく、強烈におなかがすく)。

本を読んでいると、書いてあるレシピをどうしても試してみたくなることも……。

オイルサーディン缶を買ってきて、コッペパンに挟むだけ。旅先の無味乾燥ななビジネスホテルでも再現率100%。
「いまも、オイルサーディンの缶詰を見ると、F君がパンを頬張る姿がちらっと蘇ってにやりとする。四角い缶のなかで身を横たえるいわしにしても、けなげで、実直で、律儀で、感謝の気持ちでいっぱいになる。」--『いわしバターを自分で』より

 

日常を舞台にした食べ物・料理エッセイにこめられているのは、ささやかな好奇心・食欲、そして工夫。あ、「好奇心と食欲と工夫」って、旅先で必要なものではないですか? 電車の中でも、待ち時間でも、ホテルで寝る前のひとときにも、どんなシチュエーションにもぴったりだと思います。

みなさんの、旅のお供はどんな本でしょうか。もし悩んでいる方がいれば、私のおすすめもぜひ試してみてください。


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