私がひよこやになるまでー好きなことだけ、それで充分ー vol.2 長谷川栞

こんにちは。ライター塾8期生の長谷川 栞です。
前回(第一話)をお読みいただいた皆さま、ありがとうございました。
連載がスタートした朝、私はどうにも落ち着かず、ドキドキ!ソワソワ…。
こんなに緊張するの、いつぶりだろう?と思うほど。笑

すると、ライター塾の先輩でもあり
ライターズマルシェで和菓子にまつわるお話を書かれている
西胤真澄さんから「連載おめでとう〜!」とメッセージが届いて
ガチガチだった私の心をほぐしてくれました。
柔らかくなった心のままに、続きを綴っていこうと思います。

今回は、私の卒業制作についてのお話です。
菓子型を手に入れて、テンションが上がりまくっていた私。
しかし、周囲の人にはなかなか理解されず…?
さてさて、どうなるのでしょうか〜

お時間がありましたら、是非お付き合いいただけたら嬉しいです。

▲昔は和菓子を作っていた木型。今は陶土のひよこを作っています。私の大事な相方です。

菓子型をゲットした私は嬉しさのあまり、友人や先生、バイト仲間など色々な人に
「見て見て!これいいでしょう〜!和菓子屋さんで使われていた道具なんですよ!」
と見せてまわりました。

ところが…周囲の反応は、私の想像と違い熱量の低いものでした。
「へぇ〜…珍しいね。」
「栞ちゃんこれ何に使うの?」
「なんかボロボロだね…。」

などなど。型の魅力をあれこれ言葉にしてみるも、なかなか伝わりません。

実はこの「感動を伝えられない」モヤモヤを、私は幼少期から度々感じていました。
子どもの頃、石やどんぐりを拾い集めることが好きだったのですが
(今でも好きでついつい拾ってしまいます)
母には「外で拾ったものを持って帰ってきちゃダメ!」と叱られました。
その時も、自分にとってはその石がすごく大事で魅力的なのに
それを伝えることができなかったのです。

そのうちに、私は母に隠れて石を集めるようになり、いつしかそれは
「価値観の違う人とは、無理に付き合わない。自分ひとりで楽しめばいいや〜!」
という、私の性格の根底に(今もまだ)あるものを作り上げたような気がします。

▲石拾いは今でも好きで、海や川に行くと必ず拾います。
これは昨年、家族旅行で行った九州の海で拾ってきた石たち。

型に対する周囲と自分の感動の温度差に気づいた時そんな幼少期の記憶が蘇ってきて
「これって私がずっと解決できていない問題なのかも?」と思いました。

【価値観の違う人に、自分が素敵!と思ったものの魅力を伝えるには?】

いつの間にか諦めてしまっていたこの問題こそ、卒制にするべきなのでは?
これぞ、私にしかできないテーマではないのか、と。

そんな経緯で、私は「菓子型の魅力を可視化する」(ちょっとダジャレ…笑)
を卒制のテーマに掲げることにしました。

■テーマの解像度を上げる

テーマが決まって、まず取りかかったのは「型の魅力」の因数分解です。
これによって、自分がこの型の「何」に魅力を感じているのかを明確にしていきます。
今まで人に上手く伝わらなかったのは、この作業をすっ飛ばして
「これすごくいいでしょ〜!」と個人的な感覚を情熱だけで伝えていたから。
これでは、伝わるはずがありません。


▲当時の制作ノートを再現して描いてみました。こんなふうに、一人で脳内会議をするのが結構好きなのです。

因数分解の結果、私は「型が道具として働いてきた時間(歴史)」に魅力を感じていることがわかりました。
ツルツル、ピカピカの新品の型では意味がない。
何年も、ひょっとしたら何十年、何百年と和菓子を作るために
毎日毎日働いて、ところどころ擦れていて、傷が刻まれ、木の色が経年変化している。
物言わぬ型に刻まれたその時間の積み重なりが、私が最も尊いと感じるポイントだったのです。

つまり、私はその「時間」を可視化する必要があるということ。テーマの解像度がぐんと上がりました。

▲私は「時間」の積み重なりやストーリーを感じるものに惹かれてしまいます。
家具も新品よりも古いものが好きです。
この引き出しは鎌倉の古家具屋さんで見つけたもの。制作に使う道具が種類別に収まってます。

 

言葉に頼らない表現で

次は、表現方法の模索です。
「型が道具として働いた時間」の価値を、誰もが実感できるにはどうするか。
なるべく言葉には頼らないで、シンプルで且つダイナミックな表現をしたい!
さまざまな素材や技法で試作を繰り返しながら、作品の完成図をイメージしていきます。
この過程が本当に楽しかった…!

絵のないパズルのピースを見つけて、少しずつ完成に近いていく、そんな感覚でした。

▲ひよこ以外の型でも試作をしました。
様々なモチーフがありましたが、今回見せたいのは「時間」なので、一番シンプルなひよこの型を使うことに。

夏の終わり、私は最後のピースを探す旅に出ました。行き先は京都。
京菓子資料館や事前に取材許可をいただいたいくつかの和菓子屋さんへ行き
実際に型を使って和菓子を作る現場を見学させてもらいました。
営業中にも関わらず皆さんとても親切に対応してくださいました。
あれは学生の特権だったなぁと思います。

取材の中で、全ての和菓子屋さんに
「ひとつの型で、年間何個くらいお菓子を作るのですか」と質問をしてみました。
型によって作るお菓子の種類が違うので一概には言えないものの、
ひよこ型の大きさであればおそらく平均3000個程度ではないか、と教えていただきました。
(もちろん、使われていた時代やお店によって変わります。)

これが、私の知りたかった最後のピースでした。
「1年」でひよこ型は「3000個」のひよこを作る…。

帰り道。深夜バスに揺られながら、私は作品のイメージを完成させました。
あとは実制作のみです。
ここから半年ほどかけて(ある時はT先生に「全然良くない」と一喝され、
またある時はS先生に「いいぞ!」と励まされながら)私はついに卒制を完成させました。

▲美味しい和菓子もたくさん食べられて、大満足な旅でした。

こうして改めて綴ってみると、不思議なことに
当時はぼんやりとしか見えていなかったことが鮮明になります。

子どもの頃、自分の「これが好き!」が周囲に伝わらなかったり
流行りのものを、なんだか好きになれなかったり。

「人に伝わらなくても、一人で楽しめばいいや〜。」と割り切って、気にしていないと思っていましたが
本当は、ちょっぴり寂しく思っていたこと。
だからこそ、私はいつも情熱だけで「これいいでしょ〜!」と伝えてしまっていたんだということ。

【価値観の違う人に、自分が素敵!と思ったものの魅力を伝えるには?】

という問題を掲げ、あんなにも必死に卒業制作に取り組んでいたのは、
「分かってもらえなくてもいいもん!」とふてくされていた幼い日の自分に
「こんなふうに伝えてみたら?」と、答えを手渡したかったからなのかもしれません。

次回は…
ちょっと恥ずかしい気持ちもありますが(笑)、私の卒業制作をお見せしちゃいます。
私は「菓子型が道具として働いてきた時間」をどう表現したのでしょうか?
どうぞお楽しみに〜。

 

 

つづく

長谷川栞さんのHP「陶ノ鳥ひよこや」はこちら。

 

 


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