女優、前田敦子さんを毎月撮影! の驚き  写真と文・七緒さん vol.2

前回は「何者かになりたい」と切望してきた七緒さんのこれまでについてご紹介しました。
自分にどうしても自信が持てなくて……。
そんな七緒さんがやっとのことで一歩を踏み出したのが、かわいい女の子の写真を撮ること。

どうして女の子だったんですか? と聞いてみました。

「きっかけは、20代になったばかりの頃、AKB48の『涙サプライズ』という
ミュージックビデオを見たことです。
めっちゃかわいいなあ〜とすっかりハマってしまって……。
アイドルって、葛藤とか、自分の本音を見せてくれるんですよね。
私はもともと『情熱大陸』とか『セブンルール』のようなドキュメンタリー番組が好きで、
自分とあまり年齢の変わらない女の子たちの、
裏側に秘められた『本当の姿』に、ぐっと惹かれたのだと思います」。

もともと写真が好きで、大学生の頃に初めて自分のデジカメを買って、
友達や花などを撮り始めたそう。
社会人になって初任給で、初めての一眼レフを手に入れました。
出版社勤務時代には、写真のワークショップに参加したことも。

カメラマンになる、という選択肢はなかったのでしょうか?

「あまりにも自信がなくて、『私にクリエイティブなことができるはずない』。
と思っていましたね」

公務員時代には、写真家さんのツイッターで週末だけのアシスタント募集を見つけて
応募して、ロケアシスタントに行ったり、事務作業のお手伝いをしたことも。

「自信がない」と言いながら、
この辺りの七緒さんの行動力には驚くばかり。
出版社を辞めることも、公務員への転職も、そしてインスタグラムへの朝時間の投稿も、
「違う」と感じたらすぐに踵を返し、「これかも」と思えば、とりあえず動いてみる……。

よく「自信がないから行動できない」と言いますが、
ここが、七緒さんが普通の人と、ちょっと違ったところなのかもしれません。
その力となったのが、「行動せずにはいられない」という切羽詰まった焦りや不安だったのかも。

そして……。
「公務員2年目のゴールデンウィークに、女の子の友人を誘って、千葉の小湊鉄道に一緒に撮影に行ったんです。
今までいろんな紆余曲折があったけれど、
彼女を撮っている瞬間が最高に楽しくて、
まるで『ゾーン』に入っているみたいでした。『私はこれだな』って思ったんです」
と教えてくれました。

その時のことをこんな風に語ります。

「編集者になっても公務員になってもしっくりこない。
フルマラソンを走ってもしっくりこない。
そんな「しっくりこなさ」みたいなものが、すべてチャラになったというか……。
そこまではプロローグみたいな感じで、
ようやく人生をかけてやっていきたい、ということが見つかった感じだったんです」。

さらに、今度はイベントで知り合った女の子を誘ってグアムへ。
そこで撮影した写真をまとめて、写真展を開催したといいますから、すごい!

▲公務員2年目に初めて出した写真集。グアムで撮影したもの


▲上の写真集の中の1枚(撮影/七緒)


▲台湾で撮影した写真をまとめて「ambivalence」という写真集に。(撮影/七緒)

こうして、公務員3年目で退職し、「フォトグラファー/ライター」という肩書きで独立したのだと言います。

独立したからといって、すぐにやりたい仕事のオファーがある、
とは限らないのがフリーランスの難しいところ……。

「インスタや私のウェブサイトを見て、女性誌や旅雑誌などから、
3か月に一度ぐらいは仕事がきていたんですが、継続しなくて……。
今でこそ、笑ってこういうことも話せるようになったけれど、
当時は、憧れの媒体でコンスタントに仕事をしているカメラマンが羨ましかったですね〜」

こんな風に七緒さんの、ご自身の「暗い時代」のことも、隠すことなく
「本当のこと」を語ってくれるところが、私は大好きです。

そんな中で、「北欧、暮らしの道具店」の店長、佐藤友子さんに月1回ぐらいの頻度で、
ホームページのレビューを直接送り、
その結果、「クラシコムジャーナル」で写真と記事を担当できるようになったと言いますから
そのパワーにはびっくり!

「この『クラシコムジャーナル』での仕事をきっかけに
『インタビューもできます』と言い始めたら、
撮影と執筆の仕事が増えてきました。
当時の私は、写真家として成り上がりたい!という気持ちがずっと強かったので、
どちらかというと、文章を書くのは、写真が一人前じゃないから……という感覚もありました。
でも今振り返ると、写真と文章、両方をやることが、私には合っていたんだと思います」

自分が何者にもなっていない時期、
「何者」とは、いったいどんな姿なのか、
それを知りたい、と切望するものです。
でも、もしかしたら塗り絵のように、縁取られた形の中に色を塗っていくだけでは、
いつまでも、自分の絵を描くことはできないのかも。

まずは、鉛筆を持って、こうでもない、ああでもない、と
スケッチを始めてみるしかない……。
七緒さんは、一歩ずつ、そちらの方向へ歩き出したようにも見えました。


▲ 前田敦子さんを定期的に撮影し、撮り溜めた写真で作った写真集「前田敦子の”月月”」

そんなある日、女の子を撮るきっかけとなった、女優の前田敦子さんが、事務所から独立する、
というニュースを耳にしました。
その時すかさずとった七緒さんの行動がすごい!

「ニュースを知った瞬間に、インスタグラムからダイレクトメールを送りました。
『私に写真を撮らせてくれませんか』って。
そうしたら、その夜に連絡がきて、『一度お話しましょう』と言ってもらえて
飛び上がるほど嬉しかったですね〜」

なんとなんと!

「私はあっちゃんの生き様が好きなんです。
悲しい時には悲しい表情をするし、
辛い時は辛い表情を。笑う時には笑う。
自分のことを隠さないし、裏も表もないんです。
それが人としてすごく好き。
そういう歩みを毎月撮らせてもらったら面白いだろうなあと思って
『毎月、撮らせてください』っていったら『どうぞ』って……。
今でも毎月撮りに行くんですよ」

この毎月の撮影に、お金は一切絡んでいないのだとか。
あっちゃんの仕事場にお邪魔して、仕事と仕事の隙間時間に撮らせてもらい、
あっちゃんへのギャラもなし、七緒さんのギャラもなし。

なんてピュアな仕事の仕方なのだろう!
と、いわゆる「出版業界」にいる私は、ただただ驚いたのでした。

「師匠もいなくて、ずっと根無し草みたいな気持ちだったんですけど、
自分の原点といえる人の写真を毎月撮らせてもらっていることで、
ひとつ根っこができたな、という思いが生まれましたね」と七緒さん。

こうして、撮り溜めた写真をまとめ、昨年渋谷パルコで写真展も開催したそう。
ところが……。
ここでまた、七緒さんはつまずいてしまいます。

この続きは次回に。

七緒さんが、独立前からずっと大事にしている仕事が「It’s me」。
一人ひとりの想いを紐解き、写真と文章で形にする、というサービスです。

2016年に初めて女の子を撮った写真をインスタに投稿すると
「私も撮ってほしい」というダイレクトメールがたくさんきたそう。
撮影は自分を受け入れ、前に進むきっかけになる、と立ち上げました。

ずっと悩み、もがき続けた彼女だから、
人のいちばん柔らかな、弱い部分に心を重ねることができる……。
そして、その弱さがあるからこそ、輝くその人だけの光を撮ることができる。

七緒さんの「It’s me」というプロジェクトに興味がある方は、こちらからどうぞ!

七緒さんのホームページはこちら
インスタグラム naotadachi
七緒さんが前田敦子さんを毎月撮り下ろした”月月”はこちら

 

撮影/黒川ひろみ

このコンテンツ「私を見つけて」プロジェクトにご興味がある方は、こちらをご覧ください。

 


特集・連載一覧へ