もう私は「誰か」にならなくていい。写真と文・七緒さん vol.3

前回は、今は「写真と文」という肩書きで活躍する七緒さんが、
女優の前田敦子さんの写真を月に1度撮り続けて
渋谷パルコで写真展を開催した、ということまで書きました。

きっと大勢の人が来てくれるはず。
そう思ったのですが……。

「私って、まだまだだな、と思い知りました」。

でも、同時にこの時、七緒さんは何より大事なことを見つけたよう。

「気がついたら、『誰かに認めてもらいたい』というあの切実な気持ちが
薄くなった感じがして……。
認められることを追い求めると、いつまでもお腹が空いた動物みたいに
満たされることがないんですよね。
誰かの評価や人の視線がすべての軸になってしまう……。
渋谷パルコの展示で、写真を見ながら涙を流す人がたくさんいました。
その姿を見て、
「見て見て、私すごいでしょう!」と差し出すのはもう終わりかなと思ったんです。
これからは、健全な承認欲求は持ちつつも、
写真を撮ること、文章を書くことを、
求めてくれる人のために使って、役に立ちたいって思っています」。

実はこの展示会の少し前に、七緒さんは「忠地七緒」という本名から「七緒」に改名しました。
さらに、「フォトグラファー/ライター」という肩書きは「写真と文」に。

改名の発表時、七緒さんはこんな風に綴っています。

光と影をあわせもつ人のいきざまを
写真と文でやわらかく届けることで
清々しく生きる人が増えていく。

写真にまつわること、文にまつわること、写真と文にまつわるあれこれを
丁寧に真剣にやっていきたい

▲渋谷パルコで開催した前田敦子の”月月”展

ずっと「何者か」になることを探し続けてきた七緒さんですが、
2年前にお子さんを出産しました。

子供を産んでみてどうでしたか?
と聞いてみると……。

「本当に素晴らしいです!
子供ってひたすらピュアで、
一生懸命ご飯を食べたり、泣いたり、甘えたり……。
その姿を見ていると『じゃあ、私は本当に何がしたい?』と気付かされることばかりです」。

そして、子供が生まれたことで、「よりたくさん」ではなく、
ひとつひとつの仕事と丁寧に向き合うようになりました。
あんなに、パワー全開で働きたい!と思ってきたのに……。

「今、やらせていただいている仕事は、純度100%でやりたい仕事だけ、なんです。
以前は、『私がやらなくてもいいかも。でも収入になるし受けてみよう』
みたいな感じもありました。
子供を産んだことで『そういうのは私じゃなくていい」と割り切れるようになりました。
落ち葉だけをずっと積み重ねて遊んでいられたり、
道ゆく人に笑顔で手を振っていたり。
人間が生まれて育っていく姿をすぐ間近で見て、
人は一人ひとり素晴らしいって、再確認しています。
もともと子供はいないくてもいい、って思っていたので、
自分の変わりように自分でも驚いているんです」

そして、昨年末に七緒さんの中で小さな変化が起こりました。

「毎年、年末年始に振り返りをしながら、憧れの人をノートに書き出すんですが、
今年は思い浮かびませんでした。
その時、私は私でしかないから、他の誰かのようにならなくてもいいなって思ったんです。
私は、私が大事にしている写真を撮ることや、文章を書くことで
生きていけばいいんだって。
自分がちゃんと写真や文章を書く技術を磨いていけば、
行き着くところにちゃんと着くだろう、って思えるようになりました」

それは、ずっと「自分に自信がない」と言い続けてきた七緒さんにが、
自信が持てたということなのでしょうか?

「自信がない部分もまだまだ残っているんですけれど、そういう自分を責めなくなりましたね」

今回、ご自宅に伺ってお茶を飲みながら話を聞かせてくれた七緒さんは
とても穏やかでした。
でも、私は4年前に会った、あの「何者かになりたい!」とギラギラしていた彼女も大好きです。
最初から、すべてを悟り、自分らしさを知り、身の丈に生きている人よりも、
ジェットコースターのように気持ちがコロコロと変わり、
時に自分にがっかりし、何もできないと自信をなくし、
なのに、その裏側には「私はここにいるって、誰か見つけて!」と叫んでいる……。
そんな人は、つらい時間を過ごしたからこそ
人を受け入れる懐の深さと、誰かに思いを重ねる優しさと、
へこたれてもまた立ち上がる筋肉みたいなものを蓄えていると思うから……。

でも、ずっと乱気流に乗ったままでは自分を消耗してしまうのも事実です。
なんとか落とし前をつけようともがいてきた末に、ようやく手に入れた穏やかさ。
だからこそ、七緒さんは
何かを内に抱えている人の写真を撮り、その人だけの物語を綴ることができる……。

これからも、七緒さんは出会った人と自分をリンクさせ、
時に揺れて、時に迷い、自分を変換し続けていくんだろうなあと思います。
そうやって「自分を変える」という力こそが、
七緒さんの才能なんだと思いました。

七緒さんが、独立前からずっと大切にしている仕事が「It’s me」。
一歩踏み出したいとき、本来の自分を見つけたいとき、自分らしさを一緒に紐解き、
写真と文章で形にする、というサービスです。

下記は、It’s meのHPからの引用です。

いつも自信が持てなくて、私らしさに悩み続けてきました。

そんな自分を変えたくて、手探りではじめたのが、自分と向き合うこと。

10年以上向き合った結果、
“らしさ”は、いつか見つかるものではなく、内側にすでにある、と気づき
「私はわたしでいいんだ」と心底、生きやすくなったのを覚えています。

It’s me!は一人ひとりに寄り添って
対話を通して自身を紐解き、写真と文でかたちにします。

その過程や結果的にもたらされる、「私はわたしでいい」という実感は
自身を深い安堵で満たし、前へ進むたしかな一助となるでしょう。

それは表面的な見栄えや変わりゆくトレンドとは異なる
本質的で、オリジナルなもの。

「私はわたし」と清々しく前を向く人のために。

 

この「It’s me」というプロジェクトに興味がある方は、こちらからどうぞ!

七緒さんのホームページはこちら
インスタグラム naotadachi
七緒さんが前田敦子さんを毎月撮り下ろした”月月”はこちら

 

撮影/黒川ひろみ

このコンテンツ「私を見つけて」プロジェクトにご興味がある方は、こちらをご覧ください。

 

 

 


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