「何者かになりたい!」という気持ちが人一倍強かった。 写真と文・七緒さん vol.1

 

4年ほど前、取材で我が家に来てくれたのが、当時フォトグラファー/ライターという肩書きで、
忠地七緒という本名で仕事をしていた彼女でした。
写真を撮るのがメインだけれど、ライターとしても活動していて、
その取材は、ご自身で写真を撮り文章も書いてくださいました。

その後しばらくして、「一田さんのサイトで記事を書かせていただけませんか?」
と連絡がありました。
その時は、残念ながら実現しませんでしたが、
やりたいことを直球で「やってみたい」「トライしたい」と、
まっすぐな目で相手に伝える、ピュアさ、熱意のようなものに、
驚いたことを覚えています。

あれから月日が経ち、昨年「七緒」という名前に改名し
肩書きも「写真と文」とする、とご自身で決めたそう。

でも……。
私がこのサイトで彼女を紹介することで、
「写真と文」という仕事のオファーが増えるだろうか?
彼女にとって、このプロジェクトで得になることはあるだろうか?
とちょっと心配になりました。

とりあえず、お話だけでも伺ってみよう、と最初はzoomで。
次にご自宅に伺って、彼女の思いに耳を傾けました。
その結果、私はぐいぐいと、七緒さんが七緒さんになるまでの物語に
引き込まれていました。
そして、悩み、落ち込み、それでも……と前を向く彼女の足跡を、みなさんに読んでいただくだけで、
同じように、もがいて、先が見えない人が救われるんじゃないか……
と、この「私を見つけてプロジェクト」にはぴったりなのかも、と思ったのでした。

特に胸に刺さったのが、この言葉でした。

「高校生、大学生の頃から、自分が『何者かになりたい』という気持ちが
人一倍強かったんです。
でも、『何』になったらいいかわからない。
とことん自分に自信がない。
その『何者かになりたい気持ち』と『ものすごい自信のなさ』が共存して、
とにかく苦しかったんですよね」

ああ、わかるわあ〜。と思いました。
私も駆け出しのフリーライターの頃、ずっと「いいライターになりたい!」
と強烈に思い、でも、その「なり方」がわからず、
仕事をしても、しても、自信が持てず
「いったいいつになったら、私は自信が持てるんだろう?」
と毎日布団に潜り込むたびに、絶望していたものです。

大学卒業後、どうしても雑誌の編集者になりたかったという彼女が
採用されたのが、公務員向けの書籍を作っている出版社でした。

「でも、向いていなかったんです」と七緒さん。

「憧れだけで志したところがあって、
自分が本当にやりたいことではなかったんだと思います」。

そして、なんと公務員試験を受けて、市役所に転職したといいますから驚きです。
どうして公務員だったのですか? と聞いてみました。

「逃げだったんだと思いますね。
『編集者は向いていない』とわかったものの、
それでも『私はこんなものじゃない』という思いが強くて、
『ここは私の居場所じゃない。でも、どうすればわからない。だからとりあえず次の道へ』
と考えたんだと思います」

ご自身のことを語ってくれる七緒さんの飾らない、正直さに
ああ、この人は、その瞬間瞬間を、とても一生懸命に生きてきたのだなあと感じさせられました。

なのに……。
入庁式の日には、「何かが違う。全然自分がやりたいこととは違う場所にきてしまった」
と感じていたのだとか。

それでも、なんとか2年間勤め、その間に結婚もしました。

この「結婚式の準備」が、七緒さんに転機をもたらします。

「自分が好きな色のお花を選ぶとか、好きなデザインの席次表を作るとか、
ドレスを選ぶとか……。
全部自分の『好きなこと』をやり切れた気がしたんです。
そして、それをいろんな人に見てもらったのが、すっごく楽しくて……。
初めて思い通りに、自分の世界観や感性をアウトプットした経験でした。
あ、こんな感じだったら何かができるかもしれない、って思ったんです」。

出版社をやめてからもずっと「自分って何者なんだろう?」
ということを探し続け、
海外に一人旅に出かけてみたり、富士山に登ってみたり、フルマラソンを走ってみたり。
それをブログに綴っていたそう。
「あわよくば、誰かの目に留まってくれたら、と思っていたけれど、
反応はなかったですね。でも、単純に書くことが楽しかったんです」

やがて、インスタグラムが普及し始めた頃、
朝の暮らし方のコツを投稿すると、少しずつフォロワーが増え始めました。
「出勤前にちょっとベランダに出て、夫婦でコーヒーを飲むとか……。
でも、半年ぐらいしたら、だんだんネタ切れになってきちゃって」

どうしよう?と考えていた時に、思い出したのが、
ずっと好きだったアイドルのことでした。
「私ね、かわいい女の子の写真を撮りたいって思っていたんですよ」と七緒さん。

えっ?
アイドル?
かわいい女の子?

予想もしない展開に、呆気に取られてしまいました。
いったい七緒さんは、どっちへ向いて走り出したのだろう?

次回は、そんな「かわいい女の子」についてのお話をご紹介します。

七緒さんが、独立前からずっと大事にしている仕事が「It’s me」。
一人ひとりの想いを紐解き、写真と文章で形にする、というサービスです。

2016年からたくさんの人に向き合い続け、撮らせてもらった方からは
「私はわたし、と思えるようになりました」
「自分を好きになれました」
という声をもらうようになったのだとか。

ずっと悩み、もがき続けた彼女だから、
人のいちばん柔らかな、弱い部分に心を重ねることができる……。
そして、その弱さがあるからこそ、輝くその人だけの光を撮ることができる。

七緒さんの「It’s me」というプロジェクトに興味がある方は、こちらからどうぞ!

七緒さんのホームページはこちら
インスタグラム naotadachi

 

 

撮影/黒川ひろみ

 


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