ライターズマルシェの新しい参加者をご紹介します。
私のライター塾に参加してくれて、その後ライター塾サロンにも入ってくだれた長谷川栞さん。
作陶家として活躍されていて、上の写真は、私が購入させてもらった栞さんの作品です。
詳しくは、ご本人の自己紹介を読んでみてくださいね。
この「私がひよこやになるまで〜 好きなことだけ、それで充分--」
という連載は、サロン内で、栞さんが書き綴ってくれていたものです。
それがあまりにも面白くて……。
何が面白いって、
優等生体質で、「人にどう見られるか」を常に気にして、「うまくやろう」としてしまう私に対して
栞さんは、とにかく
「自分が好きなことしかできません〜〜!!」っていう人なのです。
その「好きなことしかしない」っぷりが、力強くて、明るくて、楽しそうで!
でも、時に悩んだり、
「あれ、これ好きなことだっけ?」と立ち止まることもあり……。
そのプロセスを読む度にワクワク!
そこで、少し加筆修正していただき、このライターズマルシェでご紹介することにしました。
楽しんで、読んでいただけたら嬉しいです。
▲現在のアトリエ。やすりや釉薬がけをするので、半分は土間になっています。
皆さま、はじめまして。
一田憲子さんのライター塾8期生の長谷川 栞と申します。
現在、愛知県で夫と二人の息子たち(4歳&1歳)と暮らしています。
子育てをしながら、「陶ノ鳥ひよこや」という屋号で作陶家としても活動しています。
…と少し格好つけて自己紹介をしてしまいましたが(笑)
私はたぶん、どこにでもいる普通の主婦で、普通のお母さんです。
作陶家といっても有名なわけではないし、星の数ほどいる中の一人に過ぎません。
そんな私がひとつ誇れることがあるとすれば、
人生の様々な場面で、心の真ん中にある「つくることが好き!」という気持ちに素直に、
自分が楽しい方を選んできたこと。
「自分の心に素直に」なんて、とっても聞こえがいいですが
「好きなことしかしない」ということは、
裏を返せば「好きじゃないことができない」ということでもあります。
実は、私は料理が苦手です。
結婚して何がびっくりしたかって、毎日嫌でもご飯を作らなきゃいけないってこと。
子どもを産んで「お母さん」になってからはなおさらでした。
脳内で「好きなことだけしたい私」と「苦手なこともちゃんとしたい私」がぶつかることが増えました。
でも、やっぱりできない…。
結婚して5年になりますが、今でも夕飯の時間が近づくと憂鬱だし、
作り終えた後はどっと疲れてしまいます。毎日やっていても、なかなか「好き」になれません。
「あ〜!もう今日は無理だぁ〜!」となって、レトルトの商品に頼ったり、
夫に「今日はご飯作り休みます!」と宣言してしまうこともあります…。
こうして、今は日々悩みながらも、負の側面も受け入れて「好きなこと」を選ぼうとしています。
人から見たら、あんまりいいお母さんじゃないかもしれない。
でも、そうやって歩んできたおかげで
「今までの人生はどうでしたか?」と聞かれれば、やっぱり「楽しかった〜!」と答えることができます。
この連載は、そんな私が「ひよこや」という生き方を見つけるまでの歩みを綴ったものです。
尊敬する一田さんのサイトで書かせていただくのは嬉しくもあり、恥ずかしくもあるのですが(笑)
皆さまに面白がっていただけたら嬉しいです。
そして、「好きなことで生きていきたい」「やりたいことはあるけれど、勇気が持てない」という人が
最初の一歩を踏み出すきっかけになれたらいいなぁ…という希望も込めて。
■ 改めて、「陶ノ鳥ひよこや」とは。
和菓子屋さんで使われていた古いひよこ饅頭の木型を使って、瀬戸物の小さな鳥(オブジェ)をつくっています。
つくり始めてから、あっという間にもう10年以上。
一時は会社員をしながら兼業して、7年前に独立しました。
▲こちらは春鳥の「ツバメ」。
型抜き→乾燥(7〜10日間)→素焼き→やすりがけ→絵付け→釉薬かけ→本焼きという工程を経て完成します。
全ての工程が手作業です。
材料となる土は、私の生まれ故郷である愛知県瀬戸市のもの。
……と言うと「あぁ!瀬戸出身だから焼き物をやっているんですね!」とよく言われるのですが、
実家が窯業を営んでいるわけでもなく、
幼い頃は転勤族で日本全国を転々としていたので、瀬戸に住んでいたのは中学2年生〜大学卒業まで。
だから、今こうして陶芸を仕事にしていることを自分でも不思議に思います。これもご縁なのでしょうか。
現在は、自分で運営しているオンラインストアを中心に作品を販売しています。
▲子どもが産まれてからは、オンラインストアが主な活動場所になりました。
子育てが落ち着いたら、リアルイベントにたくさん出展することを夢見てます。
10年も鳥を作り続けている…と言うと、相当な鳥好きと思われるかもしれません。でも実はそうではないのです。
私が魅了されたのは、道具となる「木型」の方でした。
■はじまりは、大学4年生の春。
今から11年前、2012年の春。
当時、私は地元の美大に通っていました。
「デザイン学科 /視覚伝達デザイン科」という、主にグラフィックデザインを学ぶための学科に所属していました。
私は多分、かなり偏屈な学生だったと思います。
というのも、視覚伝達デザイン科はポスターやロゴなど、平面の作品を想定した課題が多い学科です。
パソコンのデザインソフトを巧みに使いこなして作品をつくる学生が多い中、
私はいつも一人 キャンパスから離れた工房で木工や鋳造、陶芸など …手作業で立体物ばかり作っていました。
(そのおかげで、4年も通って友達が3人しかできないという残念な結果に…涙)
毎日朝一のバスで大学に行き、消灯ギリギリまで工房にいたので
「井上(私の旧姓)が工房に住みついているのでは?」とあらぬ疑いをかけられたこともあります。笑
▲課外授業で制作した「お魚ヘルメット」。
建築用の断熱材をカットしてヤスリをかけ、塗って組み立てる。
こんなものばかり作っていた4年間でした。教授たちは頭を抱えていたに違いありません。
美術系の大学では、4年生になると全員が「卒業制作」に取り組みます。
一般の大学でいう「卒業論文」のようなもので、自分自身で問題提起し、
それをデザインの力で解決する(=作品を作る)まさに4年間の集大成のような制作です。
4年生は基本的に他に授業がないので、1年間という時間をかけて完成を目指します。
そう、ひよこは私の「卒業制作」だったのです。
■「学生の強み」とは?
4年生になって所属するゼミも決まり、いよいよ卒業制作が始まりました。
まず誰もがつまづく第一関門!「テーマ決め」です。
社会問題を取り上げる人もいれば、
架空のブランドを設計してロゴや商品のデザインをする人もいれば、
自由に写真を撮る人もいる。
なんでもありなのですが、それが逆に難しい…。私もかなり悩んでいました。
そして何より、私が入ったゼミの教授は、
一年前にデザイン業界の最前線から赴任してきたバリキャリの女性教授!T先生でした。
先生は常に冷静で、中途半端な作品を作ろうものならコテンパンに突っ込まれます。
とても厳しい先生だったのです。
でも、だからこそ私は「絶対この人のゼミで卒業制作をやりたい!」と思っていました。
迎えたゼミ初日。
T先生は開口一番に「学生の強みってなんだと思う?」と私たちに問いかけました。
静まり返る教室。ゼミ生は8人いましたが、誰も何も言えず…。
そんな私たちに先生はこう続けました。
「学生の強みは、プロじゃないってこと。
プロのマネしてもつまんないから。今しか作れないものを作りなさい。」
この言葉は当時の私にとても響きました。
3〜4年生になると、多くの学生は就活に向けてポートフォリオ(作品集)を制作します。
就活では【コンセプトが明確で、デザインの質が高い作品】が好まれることが多いのですが、
謎の物体ばかり作っていた私は
「どうしよう、ポートファリオに載せる作品がない…これは卒制で軌道修正するしかないのか…?」
と内心焦っていたのです。
でも、先生の一言で「やっぱり自分らしい作品を作ろう!」と決心することができました。
▲いつもつなぎ姿で、木粉や土だらけで作品をつくっていました。
■運命の出会い
でも、今しか作れないもの、私らしい作品って何だろう?
テーマ案を考えるため図書館でネタを探したり、美術館をふらふらしてみたり。
ああでもない、こうでもないとひたすら考える日々。
運命の出会いは当然やってきました。
ある日、工房から大学へ戻る途中に「お〜い!井上〜!」と誰かに呼ばれました。
助手のS先生でした。
S先生は助手でありながら、なぜか工房に引きこもることを許されていて(?)
私が作るものをいつも一緒に面白がってくれるオッチャンでした。
先ほどの「お魚ヘルメット」もS先生とゲラゲラ笑いながら作った作品です。
笑 気は優しいのに、強面で声が大きいので一部の学生からは怖がられていましたが、
私はS先生が大好きでした。
私にとっては、学生と先生という関係性を超えて、親友のような存在だったのです。
「お前に見せたいものがある!」
と言われてついて行くと、そこには大きな衣装ケースが。中には、木の塊がゴロゴロ入っていました。
「わぁ〜!なにこれ?!」
それは、大小さまざまな形の和菓子の木型でした。
「すごい!綺麗…!」と興奮する私をみて「そうだろ〜いいだろ〜!」とご満悦なS先生。
知り合いづてに、廃業した和菓子屋さんが譲ってくれたというのです。
私は一瞬にして木型の虜になりました。
鯛、鶴、菊の花、だるま……。
さまざまな造形の美しい彫り、木の経年変化、擦れや傷など使った人の痕跡。
「和菓子型」というものの魅力に圧倒されました。
そんな私の感動が伝わったのか、S先生は「欲しいものがあったら持ってっていいぞ。」と言ってくれました。
私はひとつひとつ吟味しながら選んで、4個の木型を譲ってもらうことに。
そのひとつが、ひよこ型でした。
でも、この時はまだ「これで卒業制作を作ろう!」と考えていたわけではありません。
とても素敵な、大事な宝ものを譲ってもらった。ただただ、それが嬉しかったのです。
▲ひよこ饅頭の菓子型
つづく
長谷川さんの「陶ノ鳥ひよこや」の詳細はこちらへ。