人間ドッグの待ち時間に、也哉子さんの言葉を読む

昨日の東京は気温が20度もあって、春一番が吹きました。
今日の朝も風がゴ〜ゴ〜。
空気は暖かいのに、「さむっ」と首を縮めながら、ウォーキングに行ってまいりました。

みなさま、いかがお過ごしでしょうか?

さて。
ちょうど去年の今頃、私は大腸ポリープの除去手術で、
初めての入院をしたのでした。

あの時、私は命について真剣に考え、
今を味わうことの尊さを知り、
感謝して毎日を送ることを、あんなにも切実に感じたのに……。

たった1年経っただけで、
そんな思いは少しずつ薄れ、
ちょっとしたことでイライラしたり、
相変わらず「もっともっと」と欲張りだったり……。

そんな中、先日人間ドックに行ってきました。
そして、1年ぶりの大腸の内視鏡検査も。

病院で、ひとり下剤を2リットル飲みながら
「ああ、そうだったんだよなあ」
と1年前のことを、ようやく思い出しました。
人って元気な時には、健康であることのありがたさをすっかり忘れてしまうものですね……。
あれから1年、私は元気で過ごすことができて、本当によかった……。
さて、これからはどうだろう?
と一抹の不安を抱えながら、検査を受けたのでした。

そんな待ち時間の間に、本を読みました。
それが、内田也哉子さんの「BLANK PAGE」(文藝春秋)
ずっと読もう、読もうと思いながら、
仕事で読まなくてはいけない本がたくさんあって、
やっと手にできた1冊。

病院で、ぽっこりと2時間の待ち時間ができたので、
一気に読み切りました。
そして、この本をここに持ってきた自分を褒めてあげたくなりました。
「空っぽを満たす旅」という副題がついたこの1冊は、
一抹の不安と、命に向き合う病院の空間と、この1年を振り返る今の私に
まさにぴったりでした。

樹木希林さんと内田裕也さん。
ご両親を立て続けに亡くされた也哉子さんが、
そのすぐ後から始まった「週刊文春Woman」で連載されたものをまとめた1冊。
ぽっかりと空いたご自身の心のブラックホールを埋めたいと
いろいろな方に会いに行ってインタビューをされ、
それをご自身の言葉で綴った本です。

谷川俊太郎さん、小泉今日子さん、坂本龍一さん、横尾忠則さん……
と出てくるのは、すごい方ばかり。
お話を聞くときには、也哉子さんは、編集者の同行を断り
たったひとりで向かったそうです。
すごいなあ〜。

そして、綴られているのは「インタビュー記事」ではなく、
也哉子さんのご自身の中から出てきた言葉でした。

「ちょっと過酷な覚悟みたいなものがある人には、魅力があるのよ。
そして、そういう人って、なぜか過剰な上昇志向を持っていなくて、
逆に独特のゆとりみたいなものがあるの」 小泉今日子さんの言葉

「他人と共に生きるということの、ある種のやりきれなさと、
その関わりを続けることの未曾有の面白さは、どちらが欠けてもつまらない」 坂本龍一さんに話を聞いての也哉子さんの言葉

「このかけがえのないひとときの終わりに、清々しい面持ちでマリさんが呟いた。
『なんか、生まれてきたから、生きていいんだ……、ヘぇ〜って感じ』
この軽やかな希望と、鮮明な探究心と、人間に限らず生物に対する
(たとえば自宅でおびただしい数を育てているカブトムシにも!)
溢れんばかりのシンパシーと、当たり前の孤独と共に生きる佇まいこそが、
ヤマザキマリという人なのだ」   ヤマザキマリさんのページ

ひとりひとりの方の中から也哉子さんが掘り出した言葉の数々の力強いこと!

そして、何より私は、そこに綴られている文章から伝わってくる、
どんなエラい人に会っても
堂々としていらっしゃる也哉子さんの在り方に深く感銘を受けたのでした。

私も今までいろんな人にインタビューをさせていただいたけれど、
どうしても、「相手を立てて」話を聞いて
相手の色に自分を染めてしまうところがありました。

でも、也哉子さんは坂本龍一さんの前でも、マツコデラックスさんの前でも
いつでも、どんな時でも也哉子さんでいる……。

でも、決して偉そうなわけではなく、
凛としたその文章の奥には、謙虚な心持ちがきちんと潜んでいるのです。

すごいなあ〜。
文章って、その人そのままが滲み出てしまうのだなあと思いました。

堂々と生きるってどういうことだろう?
自分の足できちんと立って、
誰と会っても、正面から相手をきちんと見つめ
自分のまんまで話を聞いて
でも、謙虚に相手の言葉を受け取って、
そうやって「自分の穴」を埋めていく……。

そんな也哉子さんの生き様までを見せていただいたような1冊でした。

 

そして、「あとがき」の文章にまたズキュンとやられました。

「独りで歩く自分の足腰を強くしてくれたのは、他ならぬ人なのだ」

「今一度、大切なものを失った寂しさと、そもそも出会えた幸福をじっと見つめ、
そっと寝かせてみる。急ぐことなく、嵐のあとの静寂に耳を澄ますように」

よかったら読んでみてください。

みなさま、今日もいい1日を


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