エヌ・ワンハンドレッド 大井幸衣さん No1

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私の持っているセーターのおそらく70%ぐらいは、
エヌ・ワンハンドレッドのものだと思います。
「もう、カシミヤだけしかいらない」
と2008年に大井幸衣さんが、橋本靖代さんとともに立ち上げたブランドです。

「当時、私が必要だと思ったものには、みんな「N」がついたの。

なくてはならないもの。
ないとこまるもの。

それまでアパレルで働いてきて、
私自身が本当に欲しいものを作ろうと思ったんですよね。
だから、100年たっても欲しいものを、というコンセプトで
『エヌ・ワンハンドレッド』という名前にしました。
私が欲しいなと思った上質なカシミヤが中心。
ウールは、かさばるし、重いし、もう着ない!
着ないものは作りません!っていう自己チュウなブランドです(笑)」

大井さんは、「オンワード樫山」を経て「マーガレットハウエル」へ。
イギリスのマーガレットさんの自宅まで出かけて、彼女の素晴らしさに触れ
ウイメンズ分野では、まだまだ知られていなかったこのブランドの
コンセプトを明確にし、どう伝えたらいいかを考え、
プレスからデザイナーまでを勤めた方でもあります。

私は、いつも大井さんにお会いすると
帰りの電車の中でスマホのメモに
大井語録を書き留めます。
毎回、ハッとする
自分を総点検したくなるような言葉を投げかけてくださって、
展示会中や、ご飯をご一緒している最中に
まさかメモるわけにはいかないので、
ああ、あの言葉、忘れないうちに……
とひとりになった電車の中で、メモをしたくなるのです。

それは、大井さんの言葉がものすごく的確だから。
つまり、ご自身のことを説明する言葉をちゃんと持っていらっしゃる。

言葉を持っているということは、
自分の中が整理整頓され、何をやってきたか、何をやりたいか、
がきちんと見えているってこと。

たったふたりでブランドを立ち上げる。
しかも、高価だと思われていたカシミヤをデイリーに年間を通して着ることを提案する。
こうして生まれた「エヌ・ワンハンドレッド」は
たちまち評判になりました。

これまで、「大人になったら着たい服」などで
おしゃれに関するお話を聞いたことはあったけれど、
今回は、「ビジネス」という切り口で
大井さんにお話を伺ってみました。

 

「実はね、私39歳まで、貯金っていうものをしたことがなかったのよ」
そんな驚きの告白からインタビューは始まりました。

「それまで、何も考えていなかったから、あるものは使う。
という状態でした。
まあ、バブル全盛の時代だったこともあるし
ずっと会社員だったから
そこそこのお給料をもらっていました。
ほんとに将来のこととか、お金のこととかな〜んにも考えていなかった。
私ね、引越し大好きなんですよ。
引越しをするたびにそこそこ大きなお金が必要になって
結局弟を頼って……」

と笑います。

確かに大井さんは引っ越し魔で、
私が知っているだけでも3回!
今回は、鎌倉の一軒家から昨年引っ越してきたばかりという
表参道の古いマンションに初めて伺いました。

「ここの物件が大好きで、事務所として入っている知人に
『眺めのいい側の部屋が空いたら教えて』って言っておいたんです。
そうしたら『今日の午後これますか?』っていうメールがきた。
すぐに飛んできましたよ。それで翌日には契約したんです。
もうひとり、見たいと言ってた人がいたらしく、
すぐに来なかったら住めなかったでしょうね」

 

ここにも大井さんの明確なる「好き」と、決断の早さと、
行動力が現れています。
当時鎌倉の一戸建てに住んでおられて、
そこから都内への引越しを、一瞬で決断されたんですから!

でも、おそらく、そんな「電光石火の決断」の影には、
「こうしたいかも」という種が芽生え、それをしたらどうなるか
とシュミレーションを重ねた日々があったはず。

私はそんな大井さんの

好き→妄想→構想→実現

というプロセスにずっと興味を持っていたのでした。

次回はいよいよ20代で新卒で入った会社のお話から
伺っていきたいと思います。

 


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