「見えていることは書かないで」

昨日の東京の豪雨はすごかったですね〜。
私は、ちょうど展示会に向かう途中で、
傘はさしていたけれど、パンツがベチョベチョになってしまいました。
午前中は快晴だったのに……。
そういえば朝、ウォーキングに出かけると、絵に描いたような空の端から端へ渡る虹が見えました。

さて!
暮らしの中に「書く」という時間を取り入れれば、
「わからない」を「わかる」にひっくり返す快感を味わえるはず。
と始めたコンテンツ「書く暮らし」。

今日は、私が駆け出しのライターになった頃のお話を書いてみようかと思います。
ガイドブックなどの仕事はしていたものの、
インテリアや暮らし周りの記事が書いてみたい!と思った私は、
本屋さんで、どんな雑誌があるかをチェック。
今から30年以上前、インテリア詩と言えば、
「美しい部屋」か「私の部屋」ぐらいしかありませんでした。
その2誌を買って帰り、
いちばん後ろのページに載っていた編集部の電話番号を見て、
ドキドキしながら電話をかけました。

「御社の雑誌に記事を書かせていただきたいんですけど」って。
幸い2誌ともすぐに会ってくださることになり、
まだワンレンボディコン時代を引きずり、ソバージュのロングヘアだった私は
いそいそと編集部に向かったのでした(笑)

お話を伺い、自分の話もして、
「じゃあ、ちょっと企画を考えてみてくれる?」
と言われ、
「企画ってなに?」と皆目わからなかったけれど、
一生懸命考えたテーマをファックスで送りました。
数日後、編集部より電話があり、「1本企画をやってみてください」
と言われたときの嬉しかったこと!
それが「美しい部屋」の編集部です。

その後「私の部屋」からも連絡をいただきましたが、
同じようなインテリア誌ふたつで仕事をすることは御法度で、
そちらは泣く泣くお断りしました。
もし、最初に「私の部屋」の編集部から連絡をもらったら、私の人生はまったく違うものになっていたと思います。

最初にもらったテーマは「子ども部屋」でした。
取材先を探すところから始まって、
初めての撮影、初めてのポジ写真の切り出し、レイアウト入れ。
たくさんのプロセスを経て、やっと原稿を書くことになりました。

当時は原稿用紙に書いた原稿を編集部まで持っていくスタイル。
そこで編集者に読んでもらい、
赤字が入ったところを修正します。

初めて原稿をアップしてみてもらったときに言われたことを、今でも覚えています。
それが、
「見えていることは書かないで」
ということでした。

私は、一生懸命部屋の説明をし、学習机の説明をし、本棚の説明をしていたのでした。
でも、それはぜ〜ん部写真を見ればわかる……。

この写真に写っていない、この子ども部屋をつくったお母さんの思いや、
初めて部屋を作ってもらった子どものワクワク……。
そんな写真の裏側につながる物語を書いて……。
ということだったのだと思います。

この「見えていることは書かない」という30年前の一言は、
その後ずっと私が雑誌に原稿を書く上で、心がけている
まさに「座右の銘」になりました。

「暮らしのおへそ」で「習慣」について書くときも、
これまでその人がどんな人生を送ってきて、
だから今、この「習慣」を大事に続けている……
というプロセスを。

「大人になったら着たい服」で「おしゃれ」について書くときも、
若い時から、何が好きで、どんな人になりたくて、
だから今「この服」を選んでいる、というストーリーを。

「今、ここにあるもの」「今、見えているもの」は、
その人の人生のほんの先っぽにすぎません。
その「先っぽ」の奥には、その人が暮らしてきた時間がつながっています。
すべての物語を書き綴ることはできないけれど、
ほんの少しでも、そのルーツに触れることは、
「今」の描写に欠かせません。

ライター塾で参加者のみなさんにエッセイを書いてもらうとき、
私がよく赤字を入れるのは、
「こう思ったきっかけは何ですか?」
「それを始めたのはどうしてですか?」
ということ。

英語を習い始めた人は、「どうして英語」だったのか?
筋トレを10年間続けているという人なら、
10年前に、何が起こって筋トレをスタートすることになったのか?

どんな人にも、その人だけのストーリーがあります。
いろいろな経験が積み重なり、その都度何かを考え、
その経験同士が科学反応を起こして、
新たな一歩を生み出していく……。
そんな化学反応を紐解いて、因数分解をし、
その人の中に、どんな数字が眠っているのかを
丁寧に掘り起こしていく……。
それが、「書く」ということの楽しさだなあと思います。

こんがらがった時間や経験は、本人でさえ整理できていないことも多く、
まずは話を聞きながら、
机の上に並べていきます。

そして、「これ」と「あれ」と「それ」の接点を見つけて、
再構築して、そこから立ち上がってくるその人らしさを綴っていく……。

こうして、書いていくと、
どんな人も、その人だけの物語を持っていることがわかってきます。

何者かになろうと無理をしなくても、
時間と経験の掛け算で、「今のわたし」ができあがっている……。

ひとりひとり違う、「今」の後につながるものを掘り出す作業が面白くて、
私は書き続けているのかもしれません。

それは、自分自身のことを書くにも同じです。
「私」が、「今の私」になるまでには、
いろいろな出会いや経験や失敗やドタバタがあったはず。
でも、日々忙しく走り続けていると、
「Before私」の道のりをすっかり忘れてしまっています。
書くことは、そんな「Before私」の時間を掘り起こすこと……。

「見えないことは書かないで」
と教えられ、
「見えないこと」を掘り起こすうちに、
「見えなかった」ものが、だんだん「見えて」くる……。
それが、書くってことなんだよなあと思います。

書けば書くほど、今まで気づいていなかった「私」が見えてくる……。
だから「書く」って楽しいのです……。

 

 

 

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