鍋に水を入れたら、インド、アッサムCTC(丸い粒状の茶葉)に、
カルダモン、クローブ、ジンジャーなどのスパイスを加え、
静かに火をつけて。
コトコトと煮出すと、だんだん部屋中にいい香りが漂います。
どこかにひっそりと隠れている「私はここにいます。誰か見つけて!」
という思いを、誰かにお届けするお手伝いができれば……と始めたコンテンツ、
「私を見つけてプロジェクト」。
今回ご紹介するのは、新潟県三条市で「チャイ教室」を主宰する五十嵐安恵さんです。
茶葉を煮出したら、ここで豆乳を加えるのが五十嵐さん流。
「もちろん牛乳でも作るのですが、
豆乳に変えてみたら、これが美味しくて!
この豆乳チャイのよさを、みなさんにお伝えしたいと思って」と語ります。
豆乳を、銀色のカップに入れるとフタをして、
なんと、シャカシャカと振り始めた五十嵐さん。
少し泡立ててから、煮出した紅茶に加えることで、
よりまろやかに仕上がるのだとか。
銀色のカップのように見えたのは、このために手に入れた
カクテル用のシェーカーでした。
基本の淹れ方を学んだ上で、
自分がおいしい!と思うオリジナリティを
少しずつプラスして、「私のチャイ」を作るプロセスが
何より楽しいのだと言います。
自宅近くのレンタルスペースを借りて、教室を開くようになったのは1年ほど前。
きっかけは、7年前にご自身が1冊の本と出会ったことでした。
「チャイの旅」というその本の著者は、
チャイ作りでは、知る人ぞ知る存在の神原博之さんという方。
この神原さん、実は大阪で有名な紅茶専門店「カンテグランテ」で、
30年以上に渡り、茶葉の仕入れ、販売を担当していた方なのです。
私が大阪の商社で働いていた20代、会社帰りによく行っていたお店です。
なんだか見えない糸でご縁が繋がったような、不思議な気持ちになりました。
子供を育てながら、夫の家業を手伝ってきたという五十嵐さん。
「チャイに出会ってから、毎日が楽しくなって……。
初めて自分が夢中になれるものができた気がするんです。
だから、いろんな方にチャイと出会ってもらえたらいいなと思って」。
学校を卒業後すぐに結婚して主婦になり、母になり、
嫁ぎ先の、誰も知り合いがいない地で、
毎日ご飯を作って、家事をこなし……。
「なにかを忘れているような感覚がずっとあったんです。
何かをずっと探していたというか……」
ぽつぽつとそう話してくれる五十嵐さんは、
決して大きな声で「焦燥感」だったり「自分さがし」や「やりがい」を語る人ではありませんでした。
この「私を見つけてプロジェクト」に応募してくださる方は、
一大決心をして一歩を踏み出したり、
強い意志や大きな目標がある方が多いのだけれど、
五十嵐さんが求めているものは、そんな大仰なものではなさそうです。
それでも「チャイ」に出会う前と後では、見える風景ががらりと変わったそう。
「1日の中に、集中できる時間があると
なんだか意識がクリアになって、自分の内側がきれいになっていく感覚があるんです」
それでも、7年前にチャイと出会って、教室を始めたのは去年。
スタートをするまでなんと6年もかってしまいました。
「自分に自信がなくて、ずっとグズグズしていたんです。
周りに合わせて過ごしている方が、何も言われないし
『好きなことをやりたい』なんて、思っちゃダメ、
と思っていたのかなあ」。と語ってくれました。
26歳になる息子さんはすでに独立。娘さんは19歳。
やっと「自分がやりたいことをやろう!」と考えるようになりました。
「チャイに出会った後も、『教室をやってみたい』と思いながら、
それを夫になかなか言い出せなくて。
それまで、自分の気持ちをあまり外に出してこなかったので、
否定されたり、反対されたりするのが嫌で、勇気がもてなかったのかもしれません。
あの時期は、苦しかったなあ」。
今までと違うことをやろうとするとき、
よ〜いドン!とスタートを切るきっかけを判断するのが難しいもの。
私も、このサイト「外の音、内の香」を立ち上げるときや、
ライター塾を始める前は、ずいぶんウジウジと悩んだもの。
でも「その時」は、実は自分が決めるのではなく、
木の実が熟してぽとりと落ちるように、
自然にやってくるような気もします。
以前「暮らしのおへそ」でもたいまさこさんを取材させていただいた時、
「わからないことは、解決しないでいいんです。
ただ、『わからないということ』を忘れないことが大事」
とおっしゃっていて、なるほどなあと深く共感したことを思い出しました。
「チャイと出会って、自分のことは自分で選択していく、と決めてから
とても楽になりました」と五十嵐さん。
小さなガラス瓶にスパイスを入れて。
柳宗理のミルクパンを乗せるカセットコンロは「アラジン」のもの。
ガラスのカップや、茶漉し、ビーカーなどなど。
お茶を淹れる道具たちのかわいらしいこと!
どれも、五十嵐さんが少しずつそろえてきたものばかりです。
豆乳を加えてチャイができあがると、
五十嵐さんがスプーンでグラスに何かを入れ始めました。
よ〜くみると、なんと小豆!
「王道のチャイでは使わないと思うけれど、
あった方がおいしいと思って」と笑います。
その他、少し塩を加えるのもこだわりのひとつ。
甘いだけでなく、キリッと味が引き締まります。
そんな手順を見せていただいていると、
グラス1杯のチャイの中には、五十嵐さんらしさがギュッと詰まっているのだなあと
改めて実感しました。
どんな作り方でもいい。
どんな素材を組み合わせてもいい。
自分の好きな味でいい。
どこかの誰かのお手本に合わせるのではなく、自由におおらかに。
五十嵐さんがチャイ作りに惹かれたのは、そんな懐の深さ故なのかも。
熱々のチャイを一口いただくと、
ほんのり甘くて、しかも豆乳なので重たくなく、
さっぱりとして美味しいこと!
こんなチャイが私も作れたらいいな、と自然に興味が湧いてきました。
次回は「チャイ教室」のことについて、もう少し詳しくご紹介します。
五十嵐さんのチャイ教室は、レッスン予定日は設けずに、
希望の日時を伝えて、五十嵐さんの都合と合わせてレッスン日を設定するシステム。
ひとりでも、友達と一緒(3人まで)でも申し込むことができます。
▷MENU/HOT
❐ 牛乳
• マサラチャイ
• ほうじ茶チャイ
❐ 豆乳
• マサラチャイ
• ほうじ茶チャイ
*MENUの中から気になるチャイを作っていただきます
▷場所
イトウヤカフェ(@itoya.cafe.___281004 )
三条市荒町2-19-10
「離れの個室」または「アネックス」
▷時間
約90分
平日は13:00〜、15:00〜(⚠月曜定休日)
土日は11:00〜、13:00〜、15:00〜
▷レッスン料
2000円
▷お申込み
DMよりご希望の日時とお名前またはニックネーム、人数をお知らせ下さい🗓️
例 〇月〇日、13:00〜、チャイ子、1人
*お申し込みいただいた日時でお部屋が空いていない場合はご相談となります
詳細は、五十嵐さんのインスタグラム@kaorihirogaruをチェックしてみてくださいね。
撮影/黒川ひろみ