【モヤモヤ女の読書日記】私に効く本、いただきます「2025年上半期振り返り」梅津奏

もうすぐ6月。1年の半分が終わろうとしています。

先日、今年初めて半袖のシャツを着て会社に行きました。寒暖差がある気候のせいで、クローゼットの衣替えも中途半端。なんだかあちこち中途半端なまま日々が過ぎてしまいそうな気がするので、ここで一呼吸おいてみます。

着物の衣替えは完了。銀座に行ったついでに、ずっと欲しかった香袋を買いに。

着物を保管している桐の箱に入れました。すーっとした涼やかな香りです。

 

2024年の終わりに「来年のテーマは“健康” と“住居”」と決めました。

善は急げとばかりにすぐに手配したのは、「本棚(本タワー)の注文」「ピラティスの体験レッスン予約」「冷凍弁当の定期配達手配」の3つ。

健康面でいうと、冷凍弁当はすぐに飽きてしまってキャンセル。でも、ピラティスは月4回のパーソナルレッスンが案外続いています。劇的に痩せる! みたいな効果はないですが、慢性的に痛みがあった肩と腰が本当に楽になりました。深い呼吸をしながらインストラクターさんの指示を聞いて動いていると、余計なことは考えずにいられて瞑想効果も。脳内が常に騒がしい私にとって、貴重なリフレッシュの機会になっています。

住居面では、新しい本棚は見た目も使い勝手もよくて大満足。「積読(つんどく)」がますます楽しくなりました。日々入れ替わるタワーの本を眺めていると、知のビオトープ(『積読こそが完全な読書術である』より)が創られていく実感があって幸福度が上がった気がします。

買ってきた本はとりあえずここに。読み終わったら本棚へ。読み返したい本も取り混ぜて。

……と、調子が良かったのはここまで。

年度末と年度始まりのあわただしさに巻き込まれ、“健康”も“住居”もすっかり棚上げ。ピラティスだけは続けていましたが、「結局、今年のテーマはまた“仕事”なのでは…」というあきらめが……。

そんなとき、書店で出会ってビビッときたのがこちらです。


「ふつうの暮らし」を美学する 家から考える「日常美学」入門』(青田麻未/光文社新書)

環境美学・日常美学を専門とする美学者、青田麻未さん。美学とは哲学の一種で、「美しいとはどういうことか」「私たちはどんなものを美しいと感じるのか」を考える学問です。

以前から美学について基礎を学びたいと思っていたところに、「日常」という言葉くっついたタイトルを見つけて、「これは、まさに私のための本!」と飛びついてしまいました。こういう出会いがあるから、書店通いはやめられません。興奮のあまり平台からとるときに帯を少し破いてしまったほどでした(もちろん、そのまま買いました)。

何気ない家での暮らしを、美学のライトで照らしてみると、みなさんの日頃の曰く言い難い経験をことばで捉えることができます。そして、一度ことばで捉えれば現状に対する理解も進み、自分の生活を考え直すためのきっかけも得られるかもしれません。――『「ふつうの暮らし」を美学する 家から考える「日常美学」入門』より

青田さんは本書の中で、掃除や料理・家具などの暮らしのパーツひとつひとつをとりあげて、そこに私たちの感性がどう働いているかをひもといていきます。

美学というと、絵画やクラシック音楽などの高尚なアートについての学問だと考えてしまいがち。しかし、私たちの「さもなき日常」の中にも実は美学がひそんでいるのではないか……というのが「日常美学」。

保育園に通う子どもを育てながら働く青田さんが、自身で撮影した暮らしのスナップ写真もところどころ交えながら語る「日常美学入門」は、ふだん無意識にやりすごしている日常を見直す新鮮な視点をたくさん与えてくれます。

デザイナーや建築家のような日常の世界をつくるプロフェッショナルだけではなく、「ふつうの私たち」が自分で意思決定し、世界をよい場所にしていけるようにする必要があると考えます。――『「ふつうの暮らし」を美学する 家から考える「日常美学」入門』より

私が今年のテーマとした“健康”も“住居”も、考えてみれば「日常への感性」を取り戻すためのものだったのかもしれません。感性をすり減らすような日々を送っている自分に危機感をおぼえた私の無意識が、私自身に与えたテーマだったんじゃないかな。この本を読みながら、そんなことを思いました。

ダークで落ち着いた色合いが今の気分にしっくり。

本を読み終わるタイミングで、偶然出くわした家具屋さんの在庫一掃セール。そこでずっと欲しかったリビングテーブルと椅子のセットを見つけて衝動買い。そのままの勢いで粗大ごみの回収を依頼し、10年使ったリビングテーブルセットだけでなく、壊れて放置してあった洗濯物干し台や掃除機なども一気に処分することにしました。翌週に届いたテーブルはうっとりするほど美しく、そこでお茶を飲んだりご飯を食べたりするのがすっかり楽しみに!

在庫の関係で色違いになった椅子。でもなんだかお気に入り。

 

自分と自分の周りから、よどんだ空気をとりはらうこと。日々の暮らしに向ける自分の感性に自覚的になること。2025年上半期は、「日常美学」によって逆転ホームランで終わりそうです。

梅津奏

梅津奏

1987年生まれ、仙台出身。都内で会社員として働くかたわら、ライター・コラムニストとして活動。講談社「ミモレ」、Paravaviで、女性のキャリア・日常の悩み・フェミニズムなどをテーマに執筆。幼少期より息を吸うように本を読み続けている本の虫。本の山に囲まれて暮らしています。

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