あちこちから、お客様がやってきて、
おいしいケーキやおまんじゅうを食べながら、
私自身が、今聞いてみたいことを聞き、
楽しくおしゃべりする……。
そんな架空のお店「喫茶いちだ」の一人目のお客様、
鈴木尚子さんに、今のままでの自分でも、
自分の中にすでにあるものを整理整頓し、
新たな価値を見つけて、誰かのために提供する。
そんな「コンテンツ化」についてお話を伺っています。
VOL.1では、私が「コンテンツ化」という鈴木さんの言葉に興味を持った経緯をご紹介しました。
今日は、鈴木さんが今までやってこられた
ご自身の「コンテンツ化」について、聞いてみましょう。
まずは、コーヒーでもいれて……。
今日は、お酒好きの鈴木さんにも召し上がっていただけるよう、
オレンジの風味が効いた、
大人の味わいのパウンドケーキをご用意しました。
では、食べながら、お話を伺いましょうか。
そもそも、鈴木さんが「発信」を始めたのは、
ご自身が部屋が片付けられなくて、子育てもうまくいかない……。
そんな状態からなんとか抜け出してくて、汚部屋を6年間かけて片付けた経験を
ブログで発信し始めたことでした。
「何か大きな目標があったわけではないんです。
整理収納を学び始めたんですが、
私は三日坊主だから、途中でやめちゃうかもしれない……。
だったら、自宅の片付けを公表しちゃったら、
嫌でも続けるだろう、って思っただけなんです。
最初の頃のブログなんて、
今から見れば『よくこんな内容で出してたな』って思うような
恥ずかしいことばかりだったなあ」
さらに、子育てが思うようにいかず辛くて、
「何もかもうまくいかなくて、
なのに、子供はひっくり返って泣いている……。
そんな様子にイライラして、一歩間違えば、子供を虐待してたかも……と思うぐらいに
追い詰められていました」。
そんな誰もが言葉にすることをためらう内容でも、正直に綴ると、
「私もです!」と共感してくれる人たちがたくさんいてびっくりしたのだと言います。
これを軸に、鈴木さんの「コンテンツ化」は、
どんどん幅を広げていきます。
まずは、片付けと同時にファッションのコンテンツを立ち上げたこと。
「片付けの仕事で訪ねたお宅では、みんなクローゼットを見せるのをすごく嫌がるんです。
たまたま仲がいい友人の片付けを手伝ったとき、
やっとクローゼットを見せてもらって驚きました。
なぜかと言うと、そこには驚くほどたくさんの洋服が詰まっていたから。
なのに、その子が着ているのはいつも同じ服。
『どうして他の服を着ないの? せっかくこんなにたくさん持っているのに』
と聞いてみると、
『買ってみたものの、着方がわからない』って言うんです。
私は、もともとアパレル会社勤務だったから、
『こうやって着てみたら?』と
そこにあるものを組み合わせて、
10セットぐらいのコーディネートを組み立ててあげたら、
すっごく喜んでもらえたんです。
そうか、人って片付けにも困っているけれど、
ファッションでも困っているんだ、と知って、
だったらと、片付けとファッションの両方のコンテンツを立ち上げたんです。
シャツの袖や、デニムの裾のロールアップの仕方などを提案しました。
当時、私のことを知っている人なんてほとんどいません。
まずは、私はどういう人なのか? ということを知ってもらうことが大事だと思ったから、
週5回ブログをアップしようと決めました。
それで、片付け2、洋服1、子育て1、日常1と決めたんです」
やがてブログは大人気となり、
多くの人が集まってくるようになりました。
そして、鈴木さんは片付けを中心に会社を立ち上げ、
困っている人の家の片付けに出かけたり、
講師として講演したり。
どんどん活躍の場を広げていったというわけです。
そのうちに、鈴木さんのコンテンツは、少しずつ「片付け」から離れ始めます。
片付けよりも、もっと人間の根源的な生き方について、
発信することが増えていきました。
そのきっかけが、義理のお母様が亡くなったことでした。
「義母は、義父のために生きた人で、
死ぬ直前に、自分の人生に全然満足できていない……と嘆いていたんです。
そんな姿を目の当たりにして、
生きるってどういういこと?
死ぬってどういうこと?
歳をとるってどういうこと?
後悔しない生き方って?
ということを考え始めました。
そして、45歳からの人生の折り返し地点に、
人生をどう生きるかをデザインする講座、「Agewell Living」を立ち上げたんです。
生きていく上には何が必要か?
お金が必要だよね。社会的つながりも大事だし……。
人生について、死生観について、何が必要かな?
と考えて、要素分解をして、最大公約数で6つの要素を導き出しました。
それをコンテンツにして、それぞれ得意な人に、振り分けたんです。
「お金のことは、〇〇ちゃんが得意だから講義をお願いねって」。
ご自身の人生に起こったできごとすべてから学び、
それをみんなにシェアする。
それが、鈴木さんのコンテンツ化の基本姿勢でした。
この「Agewell Living」の次に立ち上げたのが、
「BeONE」「BeYou」という講座でした。
「思い込んでいることを見つめ直し、
自分のライフデザインをしなおす、という講座なんです。
人生って、「誰かのせいでこうなっている」のではなく、
全部自分で作っているんですよね。
だから、人生のストーリーは自分で変えられる……。
この講座は、今私がいちばん大事にしているものです」と鈴木さん。
実は、これを立ち上げたきっかけは、
ご自身が乳がん、大腸がんを経験されたからでした。
「どうして、私は癌なんかになっちゃったんだろう?
そう考えたとき、
『私なんて価値がないから、この世にいなくてもいいんじゃない?』
という思いが心の底にあったんだなあと気がつきました。
私はとても厳しい両親に育てられて、
幼い頃、母が機嫌が悪いのは、全部自分のせいだと思っていたんです。
だから、なんとか母に『いい子だね』と言ってもらうために、
一生懸命頑張った……。
でも、『これをやったから承認してもらえる』という生き方はつらいだけなんです。
そんな過去の思い出が、ずっと私の足を引っ張っていることに気づきました。
私は私のままでいい。
そのまんまの私でここにいていい。
そう考えを変えたら、毎日がキラキラ輝き始めました。
すべての人は「ここにいるだけで承認されている」はず。
だから、周りにいる人に
『あなたは、ここにいるだけで存在価値があるよ』って伝えたいと思って……。
そう考え始めたとき、
今、運営している「LSCアカデミー」という学校の副校長に出会いました。
そして、一緒にやろう、と誘われて立ち上げたんです」
義母の死、ご自身の病気……。
「人生に起こることは、すべてネタと思っています」
と明るく笑う鈴木さん。
こうして、ご自身の中でコンテンツ化したことを、次々にビジネスとして展開してこられました。
「私は、ビジネスは価値提供だと思っています」と語ります。
ただし、こうも教えてくれて納得!
「ビジネスというのは、その価値をお金に変換するわけですけれど、
普段のコミュニケーションも『今日、この人と会ってよかったな』
という価値を提供しあうことだと思うんですよね。
私は、常に身の回りの役立つ情報を集めておく、というクセがついていると思います。
その情報を、自分なりの価値に変えて出す、
ということが、ビジネスだけでなく、
人との関係の中にもあったら、絶対に毎日が楽しくなると思います」
でも、自分の周りにある情報が、それほど価値のあるものだ、
と気づくことが難しいんですよね……。
そう言うと、鈴木さんはきっぱり。
「私は『私なんて……』とか『私には何にもないので』という人たちと
何千人も話してきました。
でもね、どんな人も必ず持ってるの。
『それ、どうして今まで言わなかったの?』と言いたくなるぐらいのことをみんな持ってる。
でも、本人にとってみたら、当たり前すぎるんだよね。
実は、本当に素晴らしいこと、『みんなそれ聞きたいよね』と思うことを、
みんな必ずひとつやふたつは持っているんです」
それに気づくにはどうしたらいいんでしょう?
「私は、最初聞き上手の友達に聞いてもらいました。
面白がって聞いてもらえたら、自信になりましたね。
私なんて価値がない、と思っていたし、私が話せることなんてない、
って思っていたけれど、『尚さん、すご〜い!』と聞いてくれる人がいたことは、
すごくよかったなと思います」
確かに私自身も、自分が知ったこと、見つけたこと、
それを元にやってみたいかも?と思いついたことを、
友人たちに話して聞いてもらい
「わあ、それいいと思う〜!」「絶対やった方がいいよ〜」
と言ってもらうだけで、
「いやいや大したことないし……」ともじもじしていたのに、
急に「あれ? もしかしていけるかも‥‥」
と小さな自信の灯火が灯ったことがあったっけ。
誰かに話すだけでいい。
そう考えると、コンテンツ化の一歩が見えてきたようで、
ワクワクしてきます。
次回は、私たちひとりひとりが、
自分が持っているものを、価値あるコンテンツに変えていくにはどうしたらいいか、
じっくりお話を伺おうと思います。
撮影:近藤沙菜