「喫茶いちだ」営業3日目。
鈴木尚子さんに、自分がすでに持っているものに価値をつけ
誰かに手渡すための「コンテンツ化」について、お話を伺っています。
2日目には、鈴木さんご自身が
ご自身の体験からコンテンツを作ってこられた経緯について伺いました。
今日は、私も含め、
まだ自分の中に何があるかわからない人、
それが価値あるものだと信じられない人、
でも、何かを始めてみたい、自分の力を活かしてみたい、
と願っている人が、
コンテンツ化をするためには、どうすればいいかについて、
教えていただくことにしました。
今回のおやつ、オレンジのパウンドケーキは、
ぎゅっと焼き締めた固さがおいしさの秘訣。
私は、パウンドケーキはふわふわの軽いものより、
みっしりと詰まった固いものが好き。
トッピングのオレンジピールもいい役割を果たしています。
さあ、今日もケーキをいただきながら、
話を進めましょう。
「あのね、まずは自己満足なんです」
と鈴木さん。
え?
とよ〜く聞いてみると……。
「まずは、自己満足でいいから、
これなら私は人に伝えられる、ということを発信してみます。
そうすると、もうちょっと上手く誰かに届けるとしたら、
どんな届け方がいいかな?
と自分にベクトルを向けるのではなく、
相手にベクトルを向けられるようになっていきます。
それが、みんなが困っていることを知る、
つまり、ニーズを知るということ。
コンテンツを作る基本ってね、誰かの困りごとを解決してあげる、ってことなんですよ。
このベクトルの方向を変える作業は、
トレーニングだと思います」
つまり、こんな私を知って!という自己承認の欲求から一歩出て、
「みんなは何を知りたいんだろう?」と世の中にあるニーズへと想像力を広げることが、
コンテンツ化の第一歩ということ。
「人って、自分で発信するだけではやっぱり満足できなくて、
誰かに『いいね』と言ってもらいたいと思うようになるんですね。
そんな『承認欲求』って、ともすればよくないこと、と思われがちなんだけれど、
それって、私はとても大事な欲求だと思います。
『ねえ、ねえ、私を見て見て〜』
っていう欲から始まって、次第に承認欲求が、自己実現の欲求に変わってきます。
これをやる目的ってなんだっけ?
私が実現したい世界ってなんだっけ?って。
承認されてこそ、
その先にある、みんながよりよくなるための世界を作ろう!
という『自己実現』の欲求が生まれるんですよね」
そんな鈴木さんが教えてくれたのが「マズローの欲求」という
人間の5段階の法則についてでした。
第1は、「生理的欲求」。食事や睡眠など、人間が生きていくための本能的な欲求。
第2は、「安全の欲求」。身の危険を感じることから脱したいという欲求。
第3は、「社会的欲求」。
「社会的なつながりがあった方が、幸福感があがるというデータが出ています。
人生に彩りを与えたかったら、それがお金にならなかったとしても、
コミュニティーに参加するとか、サードプレイスを作るとか、
社会的なつながりができると、よりハッピーになる。
自分がやっていて楽しいことについて、仲間を増やしていくことが、社会的欲求を満たすってことですね」
と鈴木さん。
第4は、「承認欲求」。これが、他者から認められたいという欲求。
第5は、「自己実現欲求」。自分が満足できる自分になる欲求のことです。
「人に喜んでもらえるものは何かな?と考えることです。これがコンテンツ化の始まりですね」と鈴木さん。
まずは「自分のことを認めてもらいたい」という承認欲求から始まって、
そこに「誰かに喜んでもらえる」という視点が入って、
コンテンツという価値あるものに変換される、
というプロセスがわかってきました。
「自分がやりたいことをやって、それが人からも必要とされる、
というのが理想のかたちですよね。
それって少しずつ形にしていくから時間がかかる。
私もここまでくるのに15年間もかかっているんです。
でも、時間がかかるからこそ、その間で学んだこと、感じたことで、
伝えられることが育まれるし、
失敗したこと、『それでも』と大事にしてきたことを語ることもできる。
時間をかけるというのはとても大切です」。
さらに、こんな風に語ってくれました。
「何歳になっても、何かを伝えられる人でいるためには、
自分で自分を面白がれる脳みそを持つことが必要。
そのためには、家にこもって『私には何もないんです……』なんて言っていないで、
なんでもいいからやってみればいい。
絶対にその方が楽しいですから!」
鈴木さんは、コンテンツを生み出すときに、
今持っているものをノートに書き出していくそうです。
そして、足らないな……と感じたら、
外へ学びに出かける。
それは、何もどこかの教室に通うということではなく、
たとえば、自分で歴史の勉強をしたり、
誰かに話を聞きに行ったり。
鈴木さんちのリビングには歴史を学んだときに見た
「大世界史」というDVDがずらりと並んでいました。
「今は、国会中継をじっくり見るってことにはまっているんです」と笑います。
ノートの上でアレとコレ、と自分が持っているものを組み合わせ、掛け合わせ、
何か形が見えてきたら、
今度はA4の用紙に、太いペンで、
コンテンツ化できた内容を書き出していくそう。
今回、鈴木さんと話していて感じたのが、
この「学び」による、思考の定着の重要性でした。
人はみんな、いろんなことを思いつき、
こうしてみたらワクワクするかも!
と計画を練ります。
でも、それが本当に誰かの役に立つのか?
コンテンツとして価値を生むのか?
それを確かめるためには、
自分で検証することが必要。
「学ぶ」という作業は、新しい知識を得て、違う視点から
またそのコンテンツを検証するということでもあるのです。
そんなプロセスを経て、
自分の中に「なんとなく」存在していたものが、確かなコンテンツとして定着していくのかもしれません。
鈴木さんはブログを始めたばかりの頃、
「みんなが何に困っているか」を知りたくて
周りにいる人に聞いて回ったのだとか。
「100人に聞いたら、だいたいわかってきますから」と教えてくれました。
ここまでお話を伺って、
自分が今のままの自分で、何かやってみたい、
と思ったとき、
自分の内側と、外側、両方への旅が必要なのだとわかってきました。
まずは、自分の内側へ。
私は何を持っていて、そこには、どんな自分の経験や思いがつながっているのか?
今までの数々の経験が、どうつながり、何と何を掛け算したら、
コンテンツという形になるのか?
そして、次に外側へ。
自分の内にあるものが、どう誰かの役に立つのか?
どこで、どんな人が、どう困っているのかを観察し、
自分の体験と照らし合わせてみることが必要になります。
コンテンツに価値を生み出すためには、
一度あるものを、誰かに手渡してみないと、
それが正解かどうかがわからないのかも。
誰かの役に立つかどうかは、
自分の手にあるものを「これどう?」と差し出して、
感想を聞いてみないと、わかりません。
鈴木さんが、どんどんコンテンツを生み出すことができるのは、
この循環が見事になされているからだと思います。
私は、実は「外に出す」ことが苦手。
「どう思われるだろう?」「しょうもないって言われないかな?」
と怖くなって、躊躇してしまいます。
でも、外に出してこそ、コンテンツは磨かれる……。
今回お話を聞く前は、
自分の中にあるものを再構築して、
どこへも出かけずにコンテンツを生み出すにはどうしたらいいのだろう?
と考えていました。
でも、自分の内側にあるものを輝かせるには、
自分の外にいる人の力が必要なのです。
自分の内を掘り、
外に出して、磨きをかける。
そうやって、すでに持っているものを
誰かの力を借りて輝かせてみたい。
いつしかそう思うようになっていました。
さて、「喫茶いちだ」もそろそろ閉店です。
みなさんも、自分の中に眠っている何かを掘り出して、
近くにいる人にちょっと話してみて、
小さくコンテンツ化してみませんか?
みんなが自分のコンテンツを差し出して、
互いに交換し合えたら、
明日がもっと豊かに変わっていくんじゃないかなあと思います。
今回のメニューは、吉祥寺の「リベルテ・パティスリー」の
オレンジ風味のパウンドケーキ「シトロン」でした。
さあ、次の「喫茶いちだ」には、どんなお客様がいらっしゃるでしょうか?
お楽しみに〜。
撮影:近藤沙菜