コロモチャヤ 中臣幸次さん美香さん vol4

吉祥寺のカフェ&セレクトショップ「コロモチャヤ」の中臣幸次さんと美香さんに、
ビジネスについてのお話を伺っています。

 

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ずっと同じ店に通い続けると、「売れる」ものの流れが見えてくる。

 

中臣さんが、今コンサルティングを行うために、一番重要視しているのが「調査」だそうです。

「まずはその日のテーマを決めて、ショップを見に行くんです。
たとえば、今日は『全体がどういうコーディネートで構成されているか』
次の日は「新しいなと思える商品はどういうものか』
また次の日は、『売り場で商品がどういう風に並べられているか』
同じ商品でも、ある日は吊るされている服だけを見る。
ある日はたたんで並べられている服をチェックするという具合。
レディースのショップにもどんどん入って行きますよ。
友人たちは、『目つきが他の人と全然違うからすぐわかる』って言うんですけど」

 

こうしてずっと同じ店に通い続けると、何がどのぐらい、どんなプライスで、
どんなお客様に売れて行くか、が見えてくるのだと言います。
それをずっとつづけていくと
ああ、次はこういう商品が支持されるんじゃないかというのがイメージできるようになるのだとか。

「たとえば、新宿のルミネで、『コロモチャヤ』にこういうお客様に来ていただきたい、
という素敵な方を見つけるとします。
その方が、コットンや麻のシャツではなく、合繊のブラウスを買っていた。
これは、私にとって大事件なんです。
え!?合繊のブラウスを買う? これはもしかしたら3か月後に大事件が起こるかも?
って思っちゃうわけです(笑)

そして、
もしかしたら、合繊のブラウスに似合う、膝丈のフレアースカートがこれから人気が
出るんじゃないかと仮説を立てます。

さらに、他の店を見ると、メインのディスプレイはコットンのブラウスでも、
2番目のディスプレイに合繊のスカートが使われていたりする。
すると、私の予想は当たっていて、やっぱり半年後には大事件になるんじゃないかと!

仮説を立てて、ひとつひとつ、これは現実なんだということの裏付けを作り、
それをお客様の元へ持っていく。
そうして作戦をどんどん変えて行くんです」

へ〜!と驚きました。
たったブラウス1枚で、こんな思考の組み立て方をするのかと!

でも、自分に照らし合わせてよ〜く考えてみると……。
私は、どこかへ調査には出かけませんが、
雑誌の世界でなんとなく、こういう流れになってきているよなあと感じることがあります。
たとえば、一昔前なら、素敵なカリスマに憧れて、その人の素敵なライフスタイルを
紹介する記事がたくさん出ていたけれど、
だんだん、読者は「私はあの人になることはできない」とわかってきます。
そして、今は「無理をしない」とか「ラクして」などがキーワードに。
次の企画を考えるときには、無意識のうちに、
そんな「時代の匂い」をキャッチしているかもしれません。

 

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世の中で起きていることを理解して「やらない」のはいい。
でも、「知らない」ことは罪

 

さらに中臣さんはこう語ります。

「一般的にプランニングするというと
去年の反省をし、いくら売れたとか、どういうものが売れたとか、どういうものが売れなかった
と分析し、じゃあ今年どういう風にしようかと考えます。

でも、去年の反省ばかりして、去年の焼き増しだけをしていると、今年は絶対去年よりも
売り上げを上げることはできません。
なぜなら世の中が進化しているから。

反省した上で、今年はどういう作戦でお客様に喜んでもらうかが明確じゃなくちゃ
去年を超えられません。

ファッションはトレンドがあるので、その変化に気づき、お客様の変化を先取りして
半歩先ぐらいを商品で表現しなくちゃダメなんです」

 

そんなリサーチは、「コロモチャヤ」にも生きているのでしょうか?

「コンセプトを立てること=お客様とお約束をすること、
だと私は思っているんです。
でも、自分たちがやりたいとか、貫きたいスタイルも、
お客様の価値観とか、変化を無視すると、やっぱり支持されなくなってきます。
独りよがりになるとビジネスとして成り立たないんですね。

世の中ではどういうことが起きているのか、を理解した上で「やらない」のはいい。
でも「知らない」っていうのは罪。
そのあたりは、私はすごくうるさいですね」

 

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リサーチは、その波に乗るためでなく、乗るか乗らないかを判断するためのもの

 

「じゃあ、作りたいものを作っているんじゃダメってこと?」
と今度は美香さんに聞いてみました。
美香さんは、今ご自身のブランド「ホーチュニアコダータ」で、
シャツやスカートを作り
「コロモチャヤ」で出すケーキ作りも担当しています。

「作りたいものを作っていい、という場合と
作りたいものがズレていたら、やっぱり修正しないといけないんだなっていう
場合がありますね。

たとえば、私はこのレモンのタルトが好き、っていうのがあったとしても、
お客様は、もっとクリームっぽいレモンのタルトが好き、っていうことがある。
それがわかった時、お客様も好き、私も好き、っていう
レモンタルトを作らなくちゃいけないなって……」

 

そして、世の中の流れは中臣さんのリサーチリストからヒントをもらうそう。

 

「直積的とは限らないんですが、たとえばこういう大福が売っていたよ、と
買ってきてくれる。
え?大福ってあのクラシックなものがおいしいって思っていたけれど、
こんなクリーム入りのもあるんだ。
それが世に出ているってことは、自分が作ろうとしているレモンのタルトは、
クラシックから少し変化させた方がいいかもしれないな、
と考えなくちゃいけないってことです。

レモンのタルトを自分なりに消化して、これだったらお客様に出せるんじゃないかと
思って試食してもらう。
するともっとこうしなくちゃ、ということをはっきり言われてしゅんとする。
その繰り返しですね(笑)」

 

なんと、なんと!
私がいつも「コロモチャヤ」でおいしくいただいていたケーキが
こんな風に生まれていたなんて!

 

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今回のお話でひとつわかったことがあります。
それは、「リサーチ」ということの意味。
私には「リサーチ」と聞くと、
世の中の流れを読んで、その波に乗る、というイメージがありました。
つまり、なんだかミーハーなような、自分の軸がないような……。
でも、リサーチして「それにのらないのもあり」という中臣さんの言葉を聞いて
ああ、リサーチは、自分にとっての座標軸を確かめるものでもあるんだなあと感じたのです。

 

自分ひとりで立ち続けていると、
やがてそれがどこなのかわからなくなってきます。
草原の真ん中を歩いている気分だったのに、
実はすぐ側に海があって、潮風が吹いていたりする。
それを知れば、風邪をひかないようにちょっとカーディガンを羽織ったりできるわけです。

お母さんとして毎日子供の世話に明け暮れていても
ちょっと辺りを見渡してみたら、
少し違った視点が見つかるかもしれない……。

 

リサーチは、その波に乗るためでなく
乗るか乗らないかの判断を自分でするためにするもの。
そう考えると、なんだかストンと納得したのでした。

 

そして、リサーチは自分の足を動かさないとできません。
次回は、「自分で見る」ことの力について伺います。

 

撮影/近藤沙菜

 


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