コロモチャヤ 中臣幸次さん美香さん Vol5

吉祥寺のカフェ&セレクトショップ「コロモチャヤ」オーナーの中臣幸次さんと美香さんに
ビジネスについてのお話を聞いています。

 

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アパレル関係の会社のコンサルタントをされている中臣さん。
新たにお付き合いする会社が決まったら、
まず最初に何をするのですか?と聞いてみました。

 

「まずは数字ですね。
売り上げと利益を見ます。
私は経費については、一切関わりません。
会社によってお家事情が違うと思うので。
基本的に、商品をベースとして利益をいくら出さなくちゃいけないか、
ということをお聞きして全てを掌握します。
その上で、お店の現在の状況、商品の並べ方とか、店舗のデザインとか、
来ていただいているお客さまの層などを全て調査します。

そうやって全体をつかんだ上で、
『これはとても価値がある』と思うものを2〜3ピックアップするんです。
そして、それを最大限に生かそうとするとき、足を引っ張っているものを
どう改善していくかを提案します。できることから手がけていくんです。

例えば、お店に商品がたくさんあるのはいいけれど、
あまりに多すぎてぐちゃぐちゃだったとします。
けれど、今年に必要な商品はちゃんとバイイングされている。
そうなると、『的をえた商品を、もっとよく見せるほうがいいね』
という提案ができます。
具体的には、『商品の型数を減らしましょう」と言うんです。

でも、バイヤーさんは、「これも置きたいし、あれも売りたい」と言う。
型数を減らすと言うことは、商品が少なくなるから売り上げが落ちる、と思うんですよね

そこで、一緒に型数の標準の数を決めます。
お店に行って、その型数を一度並べて見ましょう、と言って、
一部の商品を引いて、お店の構成を変えてみます。
『こっちの方が、商品がかわいく見えませんか?』と言うと、たいていの場合
『そうですね』って言うことになるんです」

 

あれもこれもと欲張るより、
不要なものをマイナスして、本当に売りたいものが、
お店という空間でより魅力的に見える並べ方にする……。
これは、意外に勇気がいることなのかもしれません。

でも、それが利益に繋がるなんて……。
たくさん売るということと、利益を上げることは違う。
これは、私にとって大きな発見でした。
ビジネスの目的はあれもこれもたくさん売ることじゃない……。
本当に売りたいものだけに絞って、それを在庫に積んで売っていく。
数の豊富さと利益が必ずしもイコールでないということの影に
ビジネスの面白さが潜んでいるような、予感がしてきました。

 

 

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型数を減らしたそのあとに、中臣さんが手がけることを教えてくれました。

 

「利益を確保しなくてはいけないので、次の作戦を立てます。
今、仕入れているメーカーさんが20社だとすると、
10社ぐらいに絞ってもらいます。
そして、10社に出向いて、年間の商い額を決め、
『うちでは、必ずこれぐらいのオーダーはしますから、掛け率を下げてください』
ってお願いするんです。
これが実現すると、1年目にだいたい減収増益になります。

そして、メーカーさんとお互いに運命共同体になることが大事なんです。
例えば、欲しい商品がない時には、。
自分たちで『こんな商品が欲しい』とリクエストする。
それを作ってみたら、そのメーカーさんは他でもその商品を売れたりと、新しい流れを生むこともできます。
こうして、パートナーシップがどんどん強くなってくるんです」。

中臣さんは、売買が長く正常に続き、いい関係を保つためのポイントが3つある、
と教えてくれました。

 

「ひとつはお互いに売り上げがちゃんと取れること。
そして、お互いに利益が取れること
さらに、片方のコンディションが悪くなった時、的確な情報を入れて救いあげて上げる関係になること」

 

特に3番目の「互いに困った時に互いに救ってもらえる相手である」ことが重要なのだとか。

「パートナーシップを組んで、お互い逃げない、助け合う、という関係を持つことが大事。
そのかわり、ちょっと安くしてよってお願いするんですよ。
まあ、家族割引みたいなものですね」。

ここまでお話を聞いてくると、経営というものが、
とても人間臭いものに思えてきました。
ただ右から左へとものを動かすだけでなく、
そこに「交渉」というプロセスをプラスする……。
さらに、「信頼」を育てることで、1人ではできないことを2人、3人で実現する。

ビジネスの世界で活躍している人が「人間力が高い」といわれる理由は
このあたりにあるのかも。

 

 

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「ダメな店が一番陥りやすいのは、
理にかなった予算書がないということ。
それは、つまり今の時代のお金の使い方=お小遣い配分になっていない、ということです。

ファッションは3年に一度大きく変化するといわれています。
ちょっと前なら、ガウチョやワイドパンツなどマニッシュが主流だっけれど、
今年の秋は、ちょっと飽きてきて女性らしい綺麗なものが増えてくる……。
そんな変化を敏感に感じ取り、商品調達の中ですぐに実行に移さないと。
お客様の心理的変化を絶えずキャッチして、人よりも早く気づくことが大事ですね」

 

ただし、「住所はずらすことはあっても、本籍はずらしてはいけないんですよ」と中臣さん。
どういうことですか?と聞いてみると

「例えば、流行には関係なく、うちの店にはシャツがないとだめとか、
デニムはストレートでワンウォッシュでないととか。
売れても売れなくても、常にお店に置いてお客様に自分らしさを伝えるってことをするんです。
本籍とは、つまりコンセプトを持つってことですね」

 

でも、コンセプトを立てるって一番難しいですよね?というと

「それは好きなものでいいんです」と中臣さん。
「自分が好きなもの、理解ができるものを本籍にしてあげて
これに、どんな住所をつけてビジネスするか、というのがテクニックなんです」。

 

やっとここで「好きなこと」と「ビジネス」の関係が出てきました。
実は「コロモチャヤ」でこの「本籍」を見つけるのは、美香さんの役目なのです。

 

コンサルタントとして腕をふるう中臣さんは、同時に「コロモチャヤ」の経営者でもあります。
ご自身のお店を立ち上げ、維持し、成長させていくには
どんなことをしていらっしゃるのか……。

次回は美香さんと一緒に立ち上げられた「コロモチャヤ」について伺います。

 

撮影/近藤沙菜

 

 


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