自分の作ったものに、適正な値段をつけるということ。オーダー服と洋裁教室「Atta」主宰 斎藤ひとみさん Vol.2

 

自分の好きなことを仕事にしたい。
特別な「何者か」にならなくても、
今のままの自分の中から、「できること」を掘り起こしたい。
そして、きちんと稼げるようになりたい。

そう考えて、試行錯誤しながら
オーダーメイドで洋服を作り、洋裁教室を開催するアトリエ「Atta」を
立ち上げた斎藤ひとみさんにお話を伺っています。

前回は、
「子供たちが帰ってくる時間には家にいたい」
という思いをベースに、どんな仕事だったらできるかを
やってみては、「でも、これじゃ食べていけない……」
とがっかりし、「だったら」と次の一手を考える……。
そんなひとみさんの暗中模索時代のお話を伺いました。

服の受注会を開催し、100万円ものオーダーをいただいたのに、
今度は、それを作るのが大変で……。

そこから抜け出すために、
ドキドキしながら取り組んだのが、洋服の単価を上げることでした。

「値上げをするたびに、夫に『それでもまだ足らないよ。
まだ君はラクになっていないよ』と言われて。
その度に夫婦で話し合いをしてきました。
値段と、仕事時間のバランスを取ることができなくて、
ごく最近までずっと苦しかったんです」と語ってくれました。


その頃、ちょうどコロナウイルス感染症が広まり、
三女のみのりちゃんを妊娠したこともあり、
受注会を一旦ストップすることにしました。

すると……。

「継続してきた効果なのか、
気がついたら、受注会をしなくても、個別のオーダーが途切れなくなっていました」
とひとみさん。

「でも、オーダーが増えれば、自分ひとりで縫うには限界がきます。
だからといって、縫える人に手伝ってもらって
ギャランティを支払うと、手元にはほとんどお金が残らず……。
だったら、外注はせずに自分で頑張るしかないと、
「ひとりブラック」な仕事の仕方をしていた時期もありました。
でも『これじゃあいけない』と
徐々に値段を上げていき、やっとスタッフをお願いしながら
正常な支払いができるようになっていったんです」

私も「ライター塾」を開催するときなど、
いちばん悩むのが「自分に対する値段の付け方」です。

どうやって値段を上げて、それを正当な価格のはず……とご自身に言い聞かせていたのですか?
と聞いてみました。

「仕立て代を5000円あげるのも、1万円あげるのも
いつも胃が痛いんですが、
『私は、これじゃないと生きていけないんです』っていう覚悟しかないですね。
それで離れるお客様がいらしても仕方がない。
その代わり、『それでも』と選んでいただけるお客様もきっといるはず。
そうやって、切り替えていくしかないなと、言い聞かせています」
と教えてくれました。

確かに!
と深く共感しました。
自分の値段を決めるとき、
ちょっと高いかもしれないけれど、
自分が気持ちよく仕事ができるように。
自分の暮らしが心地よく回るようになるように。
そんな「自分自身への思い」には、嘘をつくことができません。
たとえ1ミリでも「私ががまんすればいい」という思いが残ったまま
進んでしまうと
「これは私の本意じゃないのに‥‥」
と、「やりたい仕事」の裏側に
「好きなことだから、がまんしなくちゃ仕方がない」
という「自己犠牲」がセットになってしまい、
結局「こんなのだったら、やっていけない!」
と長続きさせることができません。

人に喜んでもらうなら、まず自分が気持ちよく仕事ができ、暮らすことができなくちゃ……。
それは、思っている以上に大切なことなのかも。


それでも、オーダーを受けた洋服作りは楽しかったそうです。

「ダンサーの衣装を何百枚作ってくださいと頼まれたり、
私立幼稚園の専用の割烹着の注文がきたり。
わからないときには、私の師匠の洋裁の先生に教えてもらいにいきました。
お金をいただきながら、
自分のスキルアップのために授業料を払って勉強もしなくちゃいけない。
そんな時期が5年ぐらい続きましたね。
収入は増えていくんですが、学びに出るから支出も増える。
依頼が増えて、スタッフの数を増やすと人件費も増える。
『これだけ売り上げがあがったんだけれど、これだけしか残っていないんだ』
という経験もしましたね」

そんなある日、
洋裁を教えて欲しいと頼まれて、
試しに2人ほどに洋服の作り方を教えたら、
「すごく楽しかったんです!」とひとみさん。

ちょうどその頃、あの授乳服販売のために借りていた
おばあさまの家の敷地を譲り受け、
そこに新居を建てる計画が持ち上がりました。

「家を建てるなら、アトリエを作りたいって思ったんです」

当時まだ、洋裁教室のプランはなにもできあがっておらず、
生徒さんも集めていないし、
カリキュラムも考えていませんでした。

なのに、1階を家族の住まいに。
2階ほぼすべてを教室とオーダー服のサロンにと決めてしまったというわけです。

「師匠にも、『何をどう教えるの?』と聞かれましたが
『来てくれた生徒さんと一緒に考えます』って言いました」と笑うひとみさん。


最初は知り合いにモニターになってもらい、
「作りたいものはなに?」と聞いて、
「じゃあ、一緒に作ってみようか?」
とマンツーマンで始まったそう。

実は、この「洋裁教室」を立ち上げたことが、
ひとみさんにとっての大きな転機となりました。

何がどう変わったのか、次回またゆっくりお話を伺います。

斎藤さんのオーダー服と洋裁教室「Atta」の詳細はこちらです。
インスタグラムはこちら

撮影/黒川ひろみ

 

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