誰かの拠り所になれる店に。大阪府羽曳野市「 My SHOP by 38_WORKS.」

大阪府羽曳野市にあるオーガニック食料品店「My SHOP by 38_WORKS.」を営む
宮井美咲さんにお話を伺っています。

前回は、出産後誰も話し相手がいなくて、孤独だった時期に
近所の神社で手作り市を立ち上げた話を伺いました。

どうなるかまったくわからなかったのに、
そこで出会ってワクワクと胸をときめかせてくれたのが、出店してくれた生産者の方達。
奈良で江戸時代から続く独自の製法「天日干し」で番茶を作る「嘉兵衛本舗」では、
娘さん3人がお茶を作っています。
ブルーシート一面に茶葉を広げて、延々と返しながら干す作業を続けると知ってびっくり!

高知で収穫した柚子でポン酢を作る山下奈緒子さんの目標は「打倒醤油!」
醤油のように、ポン酢を毎日当たり前に使ってもらえる調味料にしたいのだとか。

そんなモノの背景にある生産者の姿に、宮井さん自身が心ときめかせたからこそ、
その事実を伝えたい……。
というのもお店を作った理由の一つ。
でも、どうやらそれだけではなかったよう。

大学時代からカフェ巡りが好きで、
「空間」が作りたかったという宮井さん。
「手作り市」を始めて2~3年が経った頃、自宅の一角で小さなお店を始めました。

「自分で作った服や、作家さんの器などを扱っていました。
経営のこともほとんど知らなかったので、
お店屋さんごっこでしたね。
夫に手伝ってもらって、リフォームをして
自分の好きな空間を作ったつもりだったんですけど……。
そこで分かったのは、自分が主役じゃダメだってこと。
以前は、「素敵だね」とセンスが良いことを褒めてもらいたい、
という気持ちが強かったけれど
今は、褒められることより、お客様に楽しんでもらいたい。
お客さま自身が『好きだと思える空間が形としてあって、うれしい』と感じてもらいたい。
そんなふうに変わってきたんです」

そんなお話を伺って、なんだか感動してしまいました。
結婚と同時に知らない土地へやってきて、
出産して、身動きが取れず、何かがやってみたい、誰かと繋がりたい……。

切羽詰まった想いを抱えながら、
自分ですぐに行動を起こし、
感じたこと、わかったことを、きちんと分析する……。
そうやって導き出した答えが
「自分が主役じゃダメ」だったなんて!

物件を探し始めた頃、ちょうどぽろりと出てきたのが、ご自宅近くのこの元タバコ屋さんという店舗でした。

さまざまな経験を経て、宮井さんがここで作りたかったのは、
「ちょっと立ち寄る居場所」です。

お茶の後ろに3人のお茶農家の娘さんがつながっているように、
ポン酢の後ろに、孤軍奮闘する女性の暮らしがつながっているように、
作る人の顔を知り、彼ら、彼女らの毎日に触れることで、
それを手に取る人の日々がちょっと豊かになる……。

ここに来て、棚に並んでいるあれこれを手に取りながら、
おしゃべりし、
時には、それを自宅へと連れて帰ったり、
時には、ただお店の中でひとときを過ごすだけで帰ってもいい……。

「自分が生きていくうえで、楽しいことを、いろんな人と一緒に
楽しみたいと思って」と宮井さん。

そんなお店のキーワードが「選択肢」。

全部オーガニックな生活をしなくていい。
普段スーパーで買い物をするけれど、
時々は、ちょっと高いけれど、大事に手をかけて作られたものを買ってみる……。
いろんな人がさまざまな生活を営む中で、
この「My SHOP by 38_WORKS.」に並んでいるものが、
選択肢のひとつになればいい……。

食材だけでなく、器や道具も並ぶ。これは食にまつわる木の道具をつくる水村真由子さんの作品。漆と言えば、渋い佇まいのものが多いが、これはワクワクするようなカラフルな色づかい

 

今回、この「私を見つけてプロジェクト」でご紹介するにあたって
「どうなることが、いちばんの望みですか?」と聞いてみました。
「この商品が売れてほしい」
「たくさんお客様に来てほしい」

そんな言葉が出てくると思っていたのに、
宮井さんのお話は、「たくさんある中のひとつでいい」でした。

「自分の価値観をそこまで過信していないんです。
『おいしい』は人の数だけあると思っているので、
私だけが知っているわけじゃない。
だから、こういう方が作ったお味噌もありますよ〜
と、「選択肢」を差し出す感じかな。
こちらが良いと思っていても、それを押し付けないお店にしたいなあと思っています」

一人勝ちしたり、欲張りだったり……。
そんな野望がちっとも感じられないことに、
この「My SHOP by 38_WORKS.」の魅力を見つけたような気分になりました。

時々、近所のおばあさまが買いにきてくれるそうです。
「最初こられたときには、『こんな高い食材、買わへんで』
とおっしゃっていたんですが、
はと麦グラノーラをひと袋買ってくださったら、
気にってくれたのか、
「これ、お茶請けにいい」ってまとめ買いしてくださるようになりました。
なかなか次が入荷しないので
毎週来てくれて「まだ入らんのか〜」って(笑)。
ありがたいですね〜」。

あれこれ買ってくれなくても、
それぞれの商品のファンになってもらって「これが好き」と言ってもらえればいい……。

「そして、このお店という『場』に魅力を感じてもらえるように、人間力を
つけていければと思っています。
みなさんの拠り所になれたらいいなあって」

今回、あのおばあちゃまが大好きな「はとむぎグラノーラ」を入れたギフトボックスを
ご用意くださることになりました。

興味のある方は「My SHOP by 38_WORKS.」のオンラインショップ
をぜひチェックしてみてくださいね。

第一話でご紹介した、燻製醤油やポン酢を入れた一箱もあります。

実は、宮井さんの夫、宮井貴弘さんはカメラマンで、
羽曳野市通法寺にある小さな森の中の小屋で、「手触りのある、愛おしい家族写真」を撮る
フォトスタジオを営まれています。

美咲さんは、洋服を縫う仕事もされていて、
年に1〜2回展示会を開き、サンプルをもとに着る人に合わせた服を
コットンやリネンで作っていらっしゃいます。

そして、今後は夫婦で立ち上げた「38_WORKS.」として、場所とのご縁があれば、
図書館や子育て広場、ゲストハウスなど、いろんな領域の場をひらいてみたい……。

やりたいことがまだまだたくさんあるのだとか。

そのどれもが「誰かをちょっとハッピーにする」ためのしかけづくり。
お店を訪ねた誰もが、なんだか元気になって帰っていくのは、
そんな宮井さんのおおらかさに触れて
「私も、ちょっと誰かを思ってみようかな?」
と心を開くことができるからなのかもしれません。

 

My SHOP by 38_WORKS.
大阪府羽曳野市南古市1-13-3 パーシャルUNO 1F
営業時間 / 11:00〜16:00
営業日はインスタグラムにてお知らせします。 mysho_p38

 

撮影/伊東俊介

 

「私を見つけてプロジェクト」にご興味がある方はこちらをどうぞ。


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