「これで大丈夫かな?」と胸をドキドキさせて、仕事を始めたり
「誰かが来てくれるかな?」と不安に押しつぶされそうになりながら
ショップをオープンしたり。
私は、そんな「はじめの一歩」を踏み出した方々のお話を聞くことが大好きです。
結果がまだ見えないからこそ、
信じるものは、自分の手と足と心しかありません。
そのピュアさの中に、
経済的合理性とは別の場所にある、
大切な何かが隠されているような気がするから。
「私はここにいます。誰か見つけて……」
そんな小さな声を応援するために、何かお役に立てたらと
立ち上げた「私を見つけてプロジェクト」。
そこに「まさにそう思っていました」
と連絡をくれたのが、宮井美咲さんでした。
大阪の羽曳野市で、去年9月小さな自然食のお店をオープンさせたそうです。
さぞかしオーガニックや有機栽培など、こだわりのお店かと思いきや……。
zoomでお話を聞いてみると、意外な言葉が返ってきました。
「敷居の低いお店にしたいんです。
毎日使う食材全部をうちで買ってもらわなくてもいい。
近所の普通のスーパーにも行って、
その帰りにちょっとうちに寄ってもらえばいい。
正しいことばかりでは人間は生きていけないし、
楽しいことも大切で、
『選択肢』が必要って思っているんですよね」
「うちのお店はこんなところが素晴らしくてね」
と語られるのかと思っていたのに、
「あっちの店」や「こっちの店」に行ってもらってもいい。
その選択肢のひとつに加えてもらえば……とおっしゃる。
わあ、宮井さんってなんだか面白そう!
そこでさっそく、お店を訪ねてみることにしました。
大阪駅から乗り換えること2回。
近鉄南大阪線古市駅から車で10分ほど。
住宅街にある小さなお店が
宮井さんの営むオーガニック食料品店「My SHOP by 38_WORKS.」でした。
店内には、調味料やお茶、お菓子、器、洋服などがずらりと並んでいます。
自然食のお店というと、どこかストイックな空気が漂っているものですが
ここは、古いタバコ屋さんを改装したお店だからでしょうか?
どこか懐かしげな、駄菓子屋さんのよう。
大学生の頃から、カフェ巡りが好きで、
いつか自分の好きな空間が作ってみたかったのだと言います。
大学卒業後、パティシェになりたくてケーキ屋さんに勤務。
ところが……。
「飲食店には向いていなかったんです。早起きもできなくて(笑)」と宮井さん
その後ブックカフェ勤務を経て、大阪で知る人ぞ知る
チェコやハンガリーの雑貨を扱うお店「チャルカ」で2年間働きました。
25歳で結婚、26歳で妊娠を機に退職。
出産したことで、「食べるもの」に興味を持つようになりました。
一方で、夫の実家近くで暮らし始めたため、
宮井さんにとって、新しい環境は完全なるアウェー。
友達もいない。仕事もしていない。
そんな状況は、孤独で、苦しかったのだとか。
「夫は無口だし(笑)、しゃべる人がいなかったんです。
子育て広場などにも行ってみたけれど、馴染めなくて……。
自分と『好きなこと』が同じ人としゃべりたい!って思っていました」
そんな時、ベビーカーを押して遊びに行っていたのが、
近所の神社、道明寺天満宮で開かれていた骨董市でした。
「ここで、もう少し違うイベントを企画したら楽しいんじゃないか、とひらめいちゃって」。
さっそく神社の宮司さんに「こんな市を開きたいんです」
と手紙を書いたと言いますから、その行動力にはびっくり!
市を運営するために、「38_WORKS.(ミヤイワークス)」という屋号を立ち上げ、
野菜、果物、加工品などの生産者を中心に、陶芸家、木工家など、
手を動かして、何かを生み出す人を集め
「道明寺天満宮手づくりの市」をスタートさせました。
手伝ってくれるのは、夫の宮井貴弘さん。
たったふたりで、出展者の募集から、会場の準備、告知、当日の指示まで手がけた
バイタリティには脱帽です。
この時、お子さんはまだ3か月。
なのに、どうしてもやってみたかった、とパワーが出たのは
孤独や行き詰まり感から、どうしても抜け出したいという
切実な思いがあったからなのもしれません。
この「手づくり市」はたちまち評判となり、
今も、年に4回開催。
毎回大盛況なのだそう。

嘉兵衛本舗 天日干し番茶ティーバッグ
奈良・吉野でお茶づくりを手掛ける「嘉兵衛本舗(かへえほんぽ)。江戸時代から伝わる独自製法「天日干し」でつくる番茶は、渋みやカフェインが少なく、まろやかでやさしい味。
この市で出会った生産者さんたちの作る品々が
今の「My SHOP」にも並んでいます。
「実は、私自身の生活の中でも、すべてオーガニックじゃなくちゃ!
とストイックにやっていたこともありました。
でも、夫はラーメンやハンバーガーだって食べに行きたいと言う……。
さらに、子供が小学生になったら、
家庭でどんなに食材にこだわっていても、
学童保育のおやつが市販のお菓子だったりするし……。
『これじゃなきゃ』とギスギスして続けるのはちょっと違うかも、と思い始めました。
バランスをとって、どちらも選ぶことができるのがいいのかなあと思って」
全部がオーガニックじゃなくていい。
大事なのは、「あれ」と「これ」という選択肢があるということ……。
そんな思いが、今のお店につながっています。
お店であれこれ話しながら、宮井さんが調味料をいくつか出してきてくれました。
「燻製醤油」という醤油は、串揚げ屋さんで、燻製の食材も販売している高森政文さんが作っているもの。
「柚子まろか」というポン酢は、ポン酢職人の山下奈緒子さんが手づくりしているもの。

大阪府泉南郡熊取町にある串揚+燻製のお店「TEkaraTE」。ゆたかな香りを纏った味わい深い燻製醤油は、桜のチップで燻製。

柚子まろか
高知土佐あき農協産ゆず果汁と、羅臼昆布と四種の削り節でとった出汁でほんのり甘く、酸っぱいすぎない、まろやかなポン酢。
「燻製醤油は、たまごかけご飯にたらすと最高なんです!
冷奴にもいいし、素材の味を引き立ててくれるんですよ」
「ポン酢は、炒め物にも、蒸し物にも使えるから、これ1本であれこれおかずが作れるんです」
と聞くと、もう欲しくてたまらなくなり、購入させていただきました。
取材から帰ってさっそくご飯を炊いて、
たまごをぽとんと落として、
燻製醤油をたら〜り!
スモーキーな香りが口中に広がって、
こんなたまごかけご飯食べたことない!
これは病みつきになりそうです!
ほどよく燻された醤油は、
いつもの料理に、新しい味と香りを運んできてくれます。
さらに「柚子まろか」は、ポン酢というより
「さわやかな風味の醤油」みたいに、調味料として大活躍してくれる1本。
私はまず、教えていただいた、レンチンおかずに挑戦。
器にもやしをどさっとのせ、その上に豚バラ肉を並べて、ニラをパラパラと散らします。
このままレンチン。
できあがったら、熱々のうちに、「柚子まろか」をたら〜り。
この一皿のおいしいこと!
酸味がキツくないのに、コクがあるので、夫も「これ、うまいの」
とパクパク食べておりました。
このほか、レンコンをじっくり焼いてから、さっとこれをかけて照り焼きふうにしたり、
野菜炒めに使ったり、
取材時に買ってかえってから、
我が家の食卓での登場率はかなりのもの。
あっという間に半分ほどに減ってしまいました〜(笑)
「My SHOP」では、この「燻製醤油」や「柚子まろか」を含めた、ギフトボックスを
今回の「私を見つけてプロジェクト」用に用意してくださいました。
もしよかったら、ぜひオンラインショップからご購入くださいね。
孤独の中で、3か月の赤ちゃんを抱えたまま始めた「道明寺天満宮手づくりの市」。
そこで経験したすべてが、
ご自身のお店オープンにつながりました。
そんなお店には、
「もの」を売るだけではない、
宮井さんの「やりたいこと」が潜んでいます。
帰り道、またすぐに「My SHOP」を訪ねたくなっている自分に驚きました。
心の開き方を教えてくれる……。
宮井さんのお店には、そんな不思議な力があります。
次回は、そんなお店の秘密を伺います。
お楽しみに〜。
「My SHOP by 38_WORKS.」
大阪府羽曳野市南古市1-13-3 パーシャルUNO 1F
営業時間 / 11:00〜16:00
営業日はインスタグラムにてお知らせします。 mysho_p38
撮影/伊東俊介
「私を見つけてプロジェクト」にご興味がある方はこちらをどうぞ。