「お財布を忘れて家を出る」という失敗が続いています。
最初は、休日出勤の日。「よーし、集中して仕事を片付けるぞ!」と意気込み、マイボトルに蜂蜜レモン(手作り)を詰めて家を出ました。会社には自販機もあるのですが、買いに行く時間も惜しんで働くつもりだったんです。
デスクに着いたら一気呵成に資料を仕上げ、会社を出たのが14時過ぎ。ちょっと時間は遅いけれど、どこかでご褒美ランチでも……とフラフラとデパートへ。レストラン階の途中でおつかい物を思い出してエレベーターを降り、品物を選んでレジに持っていったところで「財布がない」と気づきました。
もともと、物をあっちこっちに置いて無くしがちな私。バッグとポケットをひっくり返しましたが、やはり持っていない……。レジの方に謝り、トボトボとお店を出てきました。
改めて確認したところ、持っている精算ツールはPASMOのみ。しかも、スマホにインストールしているわけでもオートチャージ機能にしているわけでもない、レトロなプラスチックカード。キャッシュレス・ワールドにおいては原始人のような生活を送っているので、このPASMOにチャージされた数百円で一日を乗り切らないといけません。
そのまま帰宅できればよかったのですが、運悪く、この日は青山でセミナーを聞きに行く予定でした。(その日のことは、こちらのコラムで)
PASMOのチャージ=553円
移動のための交通費=464円
残額=89円
最低限交通費は賄えることにホッとしつつ、ランチも食べられない・コーヒーも飲めないことに意気消沈。私の命綱は、マイボトルに入った蜂蜜レモンのみです。いつもは紅茶を入れることが多いのですが、少しでもカロリーのある飲み物を選んだ朝の私、グッジョブ!
セミナー会場の最寄り駅に着いたら早速、「無料で座っていられて、雨風をしのげる場所。テーブルがあればなおよし」を探索。いつもなら何も考えずにカフェに入るので、こんな風に頭を使うのも新鮮な感じ。
この日はラッキーにも、商業ビルのロビースペースを発見。繁華街にも関わらず人が少ない隠れ家的な場所で、私が好きな大きな窓もあって万々歳。飲食は禁止だったのですが、のんびり読書して過ごすことができました。
「お財布がなくてもなんとかなるな~」なんて思っていたら、その次の週も同じ失敗を。カフェをはしごして原稿を書こうと思っていたのですが、行き先を図書館に変更。窓に囲まれた明るく静かな自習室で、勉強中の学生さんに囲まれ、いつもよりずっと集中して原稿に取り組むことができました。自習室の張り紙を見ていたら面白そうな地域のイベント(無料)を発見するというオマケまで。
そんなこんなで、思わぬ「お財布無し時間」を過ごした私。思い出したのは昨年出たこちらの一冊でした。
『家事か地獄か』(稲垣えみ子/マガジンハウス)
50歳で朝日新聞社を早期退職し、美食やショッピングを楽しむ日々を卒業した稲垣さん。高級マンションから築50年のワンルームに引っ越して最低限のお金で暮らすようになった日々を、『魂の退社』『寂しい生活』『もうレシピ本はいらない : 人生を救う最強の食卓』等に綴っています。
『家事か地獄か』は、去年発売された稲垣さんの最新刊。多くの人が軽んじがちな「家事」への向き合い方を見直すことで、お金の不安から解放され、人生を自分の手に取り戻して豊かに生きることを提言しています。
ってことは、人生の必需品は、お金じゃなくて、まさかの家事だったってこと?――『家事か地獄か』より
大企業を辞め、定期収入を失った稲垣さん。「お金の不安を抱えて、これから私は幸せに生きられるんだろうか…」と心配していたものの、自分の手で身の回りを整え、つつましくとも食事の支度をしていて気づいたのは、「あれ、これが豊かな生活ってやつじゃない?」。
「稼ぐことが幸せになる近道」と必死で働き、隙間時間にいやいや家事をしていた日々と比べて、今の暮らしには「耐え忍ぶ時間」がほとんどないと、稲垣さんは言います。さらに、自分で自分の面倒を見ることができるようになると、充足感・自己肯定感が上がるんですね。
どうすればもっと稼げるか、そして素敵なものを買えるか……そんなことに腐心するより、もっと豊かで、ゆるゆると幸せな暮らしがあるということでしょうか。しかもそれは、「家事」という非常に身近なことが鍵なんですって。なんだか信じられないような、でも我が身を振り返ってみると分かる気がするような。
お金を稼ぐには家事時間など無駄でしょうがないと思ってきたが、実は全くの逆だったのかもしれない。むしろ「家事さえできれば、お金を稼ぐ時間なんて無駄」だったんじゃないだろうか。――『家事か地獄か』より
私も、思いがけずお金を遣わない時間を過ごしたことで、「豊かさって、金銭的なものだけじゃないかも」という発見がありました。
好きな飲み物を入れたマイボトル、自分で握ったおにぎり、窓から見える景色、都会の隠れ家のようなスペース、公共施設。そんなものたちの価値を見直し、もっと生活に取り入れられたら、「お金を稼がなきゃ」という強迫観念から自由になれるかもしれないな。
お財布を忘れたのは悲劇だと思ったけれど、逆になんだか少し気持ちが軽くなった出来事でした。