【モヤモヤ女の読書日記】私に効く本、いただきます「間抜けなオバ」梅津奏

年末年始は地元・仙台に帰ってきました。

新幹線チケットをとるのが遅く、行きのチケットはグリーン車しかとれず。帰りにいたっては、3日のチケットは完売。仕方なく2日に東京に戻りました。毎年のことなのに、チケット買うのってなんだか面倒くさくて、先送りしちゃってダメですね。反省。

兄・私・弟は全員独立し、今では両親二人暮らしの我が実家。普段はきっと広く感じているだろう一軒家が、盆暮れになると大渋滞します。私が帰省している間は、叔母(母の妹)と兄一家が連日遊びに来ていてにぎやかでした。

本からふと目を上げると……。こらこら、どうした?

にぎやかさの9割は、5歳になった甥によるもの。その小さな体にどれだけエネルギーが詰まっているの? ちょっと解剖させてくれよと思うくらい、朝から晩まで元気いっぱい。走る・跳ぶ・しゃべる・叫ぶ!

義姉によく似たくりくりおめめと、兄の遺伝子を感じるタレ太眉がチャームポイント。叔母馬鹿なのは重々承知していますが、会うたびに「こんなにかわいい子…いる?」と新鮮にびっくりします。

私は小さい子が好きなので、甥に会うのはいつも楽しみ。この子は人見知り期が長かったのですが、今やもう、数か月会わないブランクなんてなんのその。リビングに入ってきて私を見つけるとにや~っとして寄ってきてくれる愛いヤツであります。おお来たか。ちこう寄れ、ちこう寄れ。何して遊ぶ? ボール投げ? 列車遊び? 絵本読む?

……いやしかし、動くのも話すのも食べるのもだいたい全部できるようになった5歳ってすごいですね。要求も多いし、力加減を知らないし、へりくつ言うし、「ダメ」と言っても簡単にはあきらめない(笑)。最終的には、36歳オバはお手上げ。「ごめん、もうおばちゃん無理」と白旗上げて、ソファで読書に逃げ込みました。

本からふと目を上げると(再)……。何やっているのかはよくわかりませんが、ニヤリとしたたくらみ顔がかわいいですね。

そしてそんな私こそ、好きな時に好きなものを食べ、父・兄をアッシーに使い、甥をパシリに使い、ソファであぐらかいてアイス食べながら本を読んじゃう「悪い」大人。

「Mくん(甥)の教育に良くない!」と怒り狂う母と、馬耳東風な私。見慣れない大人の姿に興味津々な甥。微苦笑で見守る兄夫婦。しらんぷりでお茶を飲む私の叔母。賢明なる沈黙を守る父。

いいじゃんいいじゃん。ちゃんとした大人なんて両親と幼稚園の先生がいれば十分でしょう。いろんな大人がいるってことを知ることだって勉強になるよ。私はただの叔母さんだもんね。気にしないもんね。

そんな態度がますます母を刺激するわけですが、私もいい大人ですので(ほんとにね)スタンスを変えるつもりはございません。なにより私は、「斜めの関係」フェチなのです。

 

久しぶりに読みたくなったのは、『無銭優雅』(山田詠美/幻冬舎文庫)

主人公の慈雨は45歳。友人と共同経営する花屋で働きながら、同い年の恋人・栄と「心中する前の日の心持ち」で恋愛中です。「心中する前の日の心持ち」ってなんだか物騒ですが、「刹那的に」って感じかなと思います。若くもなく、人目を引くほど美しかったりスタイリッシュだったりするわけでもなく、たくさんお金があるわけでもない、大人の恋。ちんまりした二人の世界の中で、楽しそうに取っ組み合いする二人がなんだか愛おしいです。

「慈雨ちゃんてさ、自分の気持に拍車をかけるのが上手だよね。怒る時も笑う時も、そう。あ、セックスしてて気持ちよくなる時も。見てて飽きない。ページターナー型の人間だね」
「何、それ?」
「どんどんページをめくりたくなる小説を書く作家のこと。おれ、会うたび、夢中で慈雨ちゃん、めくってる」――『無銭優雅』

うーん、甘い。甘いですねぇ。それでも、年甲斐もなく恋愛に夢中な「痛い大人」……とばかりは思えないのは(ちょっとは思うけれど)、会話の密度がびっくりするほど高いから。お互いがどん欲に自分のことを伝えようとし、相手のことを知ろうとし、同じものを見てどう感じたかを手抜きせず話し合う。

そして、読者と同じような目線で慈雨を見つめているのが、姪の衣久子。

「慈雨ちゃんて、ほんと、いつも驚かしてくれるよね。大人になっても間抜けなままでいいんだーって、目から鱗が、ぽろぽろぽろーって、ほら、こんなに落ちてる」――『無銭優雅』より

「間抜けな叔母」! それいい! 賛成!

ティーンエイジャーらしい好奇心で、好き勝手に生きる慈雨を観察し、面白がっている様子。家長である意識が強い父(慈雨の兄)とお上品キャラの母、母に似ている姉(慈雨の天敵)に囲まれている衣久子にとって、慈雨は大人の癖にあまりに能天気に見えるのでしょう。そして同時に、慈雨のマイペースさに一定の敬意を抱いている衣久子。うん、これぞ我が理想の「斜めの関係」。

親子や師弟のような直線で繋がる上下の関係は、絆は強いけれど、ときに息苦しい。そこからちょっとずれた「斜め」の位置にいる人の、存在意義もちゃんとあると思うんですよね。

私もぜひ、甥たちに「かなおばちゃんってなんか変だけど面白いよね」と言われるおばさんになりたいものです。

本からふと目を上げると(再々)……。ありがとうね。

さてみなさん、今年もこちらの場所で毎月「モヤモヤ女の読書日記」を書かせていただきます。本年もよろしくお願いいたします!


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