【モヤモヤ女の読書日記】私に効く本、いただきます「身近な5人の平均=私?」梅津奏

過ごしやすい気候になりましたね。テラス席でも公園のベンチでものんびり読書できる、大好きな「読書の秋」の到来です。

10月に参加した読書会で、面白そうな本をたくさん紹介してもらいました。それを順番に読んでいたら、いつの間にやら11月に。本好きな人からの情報は頼りになります。そろそろ「2023年ベストブック10選」を選び始めたいのですが、候補が多すぎて困っちゃう。

NY土産にいただいたトートバッグ。STRAND BOOK STORE、いつか行ってみたい!

最近の一日を円グラフにしたら、「睡眠」「仕事」「読書」で埋まってしまいそうです。家族や友達と過ごす時間が圧倒的に少ない。「私のことよく分かってくれているから」「ちょっと話す頻度が減ったくらいで、関係が変わるような仲ではないわ」と言い訳をして、自分の世界に没頭してしまっている……。

 

「近しいと思う5人の平均が私」

職場で来年度の手帳が配られたので、古い手帳から情報を抜き書きしていたときのこと。メモ欄にこんな言葉を見つけました。「近しいと感じる人5人」を書き出して、「今の私」がどんな状況かを確認する。そんなことを以前思いついたときにやっていたんです。手帳を見ると、5月までは定期的に書き出していたようですが、そこからプツンと途絶えてしまっています。

なんだかドキッとして、試しにやってみました。

並んだ名前は、どの人も今の私にとって大切で、親しい人たち。でも、そこには家族の名前、昔からの友人の名前は一つもありませんでした。そのことに気づくと、なんだか自分が一人で小舟に揺られているようなイメージが浮かんできて……寒々とした気持ちに。

 

そんな週末、山のように積まれた積読本の中から手に取ったのは、次に読むつもりだったビジネス書ではなくてこちらでした。


シェニール織とか黄肉のメロンとか』(江國香織/角川春樹事務所)

江國香織さんの最新長編小説。書店に並んでいるのを見つけて帯を読んだだけで、「これぞ江國香織さんの世界!」とトキメキが抑えられなくなり、両手で手に取ってしまいました。『ホリー・ガーデン』、『流しの下の骨』、『薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木』『彼女たちの場合は』等に代表される江國さん作品の一つの真骨頂、女友達や姉妹を描く「女たち小説」です。

主人公は、母と二人暮らしの作家の民子、イギリスでバリバリ働いていた理枝、息子二人を持ち穏やかな専業主婦として暮らす早希。大学時代からの仲良し「三人娘」も今や50代。ライフスタイルも性格も三者三葉。それぞれ別の道を歩いていた三人ですが、理枝が勤めていた会社をリタイアして帰国、民子の家に転がり込んだことからまた交友が再開します。

結局のところ、とアドレス帖をえんえんスクロールしながら理枝は思う。結局のところ、あたしが腹を割って話せる相手は民子と早希だけなんだわ。――『シェニール織とか黄肉のメロンとか』より

我が物顔で家に居座り、ベッドルームまで奪って平気な顔をしている自由奔放な理枝に、振り回されながらも憎めないでいる民子。それを面白がって観察する民子の母、薫。早希が手首を返して腕時計を見る仕草に、「それよ!」「昭和の淑女ね」と興奮する理枝と民子。その様子を呆れて眺める早希。

久しぶりに集まって話して、「ああ、この子はこういう子だったわ」とにんまりするこの感じ、分かるなぁ。互いの違いを面白いと思える関係。「きっと受け止めてくれる」という安心感で、のびのびと飾らずにいられる関係。ポンポンとやりとりをしていると、細胞が活性化するような感覚になれる関係。

自分らしくいるために周囲にいてほしい人とは、一緒にいることで「自分の輪郭」をくっきりさせてくれる人なのかなぁと、この本を読んで改めて思いました。

これからあっという間に師走に突入していくんでしょうね。忙しさに擦り切れるようになって、自分の輪郭がぼやけてしまう前に。あの人やあの人に、会いに行くのは難しくても、せめて手紙を書こうと思います。

 

トートバッグの裏面がこちら。「There is NO SUCH THING as TOO MANY BOOKS.」ですって。「これはもう、奏さんのためのものでしょう」と満開の笑顔で渡してもらいました。嬉しい!大事にします。


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