【モヤモヤ女の読書日記】私に効く本、いただきます「“自分が嫌い”って言っていいの?」梅津奏

友人の娘さんが一歳になりました。

これはご機嫌なとき。スカートによだれくっつけてくれてありがとう(笑)

お母さん(友人)によく似た、きりっとした眉毛と意志の強そうな口元。久しぶりに会う私を見て、不審げに眉をしかめる表情が面白すぎます。

「あなた誰?こっちこないで!」
「やめて、嫌だ!」
「嬉しい!楽しい!」

まだろくに口もきけないのに、表情とそぶり、泣き声・笑い声ですべてを伝える生き物。そこには忖度も遠慮もなく、思っていることがそのまま表に出てくるまっすぐさが……見ていて愉快極まりないです。

前日(金曜日)まで見ていた人間たちの、配慮も思惑もあるオトナ顔とのギャップが大きすぎて、娘さんをしばらくじーっと観察してしまいました。この子も成長するにしたがって、いろんな顔を見せるようになっていくんだろうな。格好つけたり、人の顔色を窺ったり、嘘をついたり、自分の本音を隠したり。社会性と呼ばれるそれらにがんじがらめになっている身からすると、この子が「子ども時代」を満喫できますようにと祈るばかりです。

三鷹市にある、三鷹の森ジブリ美術館に行ってきました。

 

大人になると、「思ったことを伝える」難易度がぐんぐん上がっていきますよね。

数年前からウェブ上でライター活動をしている私。世の中にはいろんな事情や価値観をもった人がいる……その当たり前の事実を深く深く考えていくと、自分の意見を発信するのが怖くなってきます。

共感ばかりを求めているわけではないけれど、自分とは違う意見を持つ人のリアクションをあれこれ想像していると、何をどう書いていいのか分からなくなる。ときには想像の中だけじゃなくて、自分が書いたものへの反応にリアルで直面することも。私も無防備にあれこれネットに書き連ねていないで、沈黙を守った方が賢明なのかなぁなんて思っちゃったりなんかして。

 


自分が嫌いなまま生きていってもいいですか?』(横川良明/講談社)

そんなこんなでちょっと色々ありまして……、オープンな場で発信することに対してモヤモヤが立ち込めていた今日この頃、楽しみにしていた本が発売になりました。講談社のウェブマガジン「ミモレ」での連載に、大幅加筆されてまとめられた一冊。ドラマや映画などのエンタメ分野を中心に活躍するライター・横川さんの“生き方探し”エッセイです。

こちとら自分という人間と付き合って40年。自分を愛そうと言われて愛せるものなら、とっくの昔に愛してる。――『自分が嫌いなまま生きていってもいいですか?』より

最近の書店やネット記事の「自己啓発」「ライフスタイル」コーナーにずらりと並ぶ、「自己肯定感」「自尊心」「セルフラブ」「ありのままの自分」という言葉たち。

明るく前向きに、みんな自分を愛しましょうよ!

そんなムードの中で、「僕は自分を好きになれない」と声を上げるのが横川さんです。いや~。このご時勢、「自分のことが嫌い」って相当言いにくいと思うんですけれど……。自虐警察の皆さんに、「自虐はおやめ!」とハチの巣にされてしまいそうです。

幼少期から続く容姿のコンプレックス。お祝いされたくなくて、必死に誕生日を隠すこと。恋愛に対する複雑な思い。「推しに認知されたくない」あまり口走った自虐への痛烈なツッコミ……。関西人らしいとがったユーモアを乗せて連打される、「なぜ僕は自分が嫌いか」「自分が嫌いな僕はこんなやつ」エピソード。発売記念のインスタライブを観ましたが、横川さんのトークが面白すぎて、聞いていて口元がゆるむゆるむ。「ネガティブなことを読んで気分が暗くなったらどうしよう…」という心配は杞憂でした。

おうおう、いったい何がそんなに楽しいんだい?

なにが正しいなんてないんだから、自分がいちばん楽だと思える生き方を選べばいい。--『自分が嫌いなまま生きていってもいいですか?』より

「自分を愛す」のが正しいのか、「自分が嫌いでもいい」が正しいのか。

この本の素晴らしいところは、一般論としての結論を出さないところ。タイトルも疑問形だし、本を読んでいても「誰かを啓蒙してやろう」という思いはびっくりするほど感じませんでした。

恐らく横川さんはこの本を、「考えるきっかけ」にしてほしいと思っているんじゃないかな。トレンドの価値観に染まってしまうのではなく、自分の幸せを中心にものを考える。そのことを、横川さん自身のケースを発信することで、私たちに提案してくれているのではないかな。

・結論を出すことにこだわらないこと
・自己開示すること
・ユーモアを忘れないこと(読後感は明るく!)

横川さんから、発信者としての心得を三つ学びました。1歳児のようなストレートな自己表現はもうできないけれど、書き手と読み手が配慮し合い学び合えるような大人の発信を目指していきたいと思います。これもまた、大人の醍醐味なのかもしれないですね。


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