皆さんは、自分の顔が好きですか?
「私は好きです」とパッと言うと、たいていその場の空気が固まります。「自分の顔が好き」と(内心は思っていたとしても)人前でハッキリ言う人は少ないのかもしれません。しかもそれが、誰が見ても「うーん、美人だ」と唸るような顔でない場合にはなおさら……。
私の顔の構成要素は、丸顔・一重の小さい目・低い鼻・丸い頬・薄い唇。まあいわゆる、「美人」の定義にはあてはまりません。特に私が10代・20代を過ごした時期はCanCamなどの赤文字系雑誌の全盛期。デカ目・小顔メイクが大流行でしたから、「なんでこんな顔なんだろ、私」とうんざりする気持ちは大きかった。
振り返ってみると子ども時代って、競技科目が極端に少なかったんだと思います。「勉強」と「運動」と「容姿」、以上。お友だちも、勉強ができる子・運動ができる子・見た目が素敵な子、ざっくり3パターンに分けられていました。評価の軸が少ないのって苦しいですよね。3つのどれにもひっかからないけれど素敵な子というのは、当時の私の狭い価値観ではなかなか見つけられなかったと思います。
しかし社会に出て、人間ってとても複雑なものなんだなということが分かってきて……。
性格の明朗さとか、不思議と人が集まってくる穏やかさとか、人と違うユニークなセンスとか、趣味を極める集中力とか。人それぞれに「魅力の構成要素」は違う。その組合せも割合もオーダーメイド。人ってとても奥行きがある。そういうことに、大人になるほど少しずつ気づいてきました。
そうなると、容姿のとらえ方も変わってきます。顔の美醜の重要度が相対的に下がっていって、もっと引いた目で自分の顔を見られるようになってくる。自分の性格や、職業や、ポリシーなどと組み合わせたときに、顔はどんな役割を持っているのかな?
『美容は自尊心の筋トレ』(長田杏奈/ele-king books)。
自分の顔と改めて向き合ってみたいと思うとき、手に取る本がこちら。
著者は、女性誌を中心に活躍するライター・長田杏奈さん。美容ライターとして働くことで実感した美容の力と、健全な自尊心をはぐくむことの大切さを、とびきりの表現力でつづるエッセイです。美容と向き合うときに感じるチクリとする痛み、ついつい他人と比べてしまうひ弱な自己肯定感、エイジングについて思うこと……。「長田さんって、私のこと知っているのかな?」と脳がバグってしまうほど、かゆいところに的確にリーチする全4章。
もし、あなたを苛むコンプレックスがあるのなら、まずは心ときめく少しでもましなワードに言い換えてほしい。もし誰かが、本当のこと言ってやるよ顔でディスってきたら、その人はそれで自分を保っているor生計を立てている、もしくは心が貧しく審美眼が未熟でセンスが寒い人なので放っておけばよい。意地悪にピントを合わせず、よきイリュージョンに包まれて暮らそう。
なんて小気味よく、私たちのウジウジモヤモヤを吹き飛ばしてくれることか。ブラボー!
長田さんに励まされて改めて鏡に向き合ってみれば、さっきとは違う印象が見えてきます。
私はこの小さな目に好奇心を隠し、こっそり周囲を観察している。丸い頬は私を柔らかさを残した人に見せ、向き合う相手に安心感を与える。小さくて薄い唇は、いざ喋り始めたときにギャップのインパクトを与えるのに効果的。
なんとまあ、自分のキャラクターとやりたいことにマッチ&バランスした、便利な顔なんでしょう。私は、他の誰にも似ていない、自分らしい顔を持っているんだなあ。そんな静かな充足感があふれてきます。
シェーディングやハイライトはしない、アイシャドウやアイラインをぐりぐり塗ったりもしない、マスカラもパス。その代わり、肌がふわっと見えるベースメイクにはこだわって、顔全体を自然とふんわり見せるアイシャドウとリップの色はちゃんと選ぶ。
自分の顔を、真正面から見つめられるようになると、メイクや装いにも迷いがなくなってきます。
他人から見たらただの「ぼんやり顔の人」かもしれないけれど。自分で自分を認めてあげられているので、いいんです。自分の顔を悪くないと思えることは、びっくりするほど日々を楽にします。「今さら自分の顔のことなんて考えたくないよー!」ってげんなりしている人がいたら、だまされたと思って読んでみてほしいです。