【もやもや女の読書日記】私に効く本、いただきます「直す?直さない?」

もういくつ寝るとお正月? そろそろ一年を振り返る時期ですね。

今年最初の忘年会、ビールで乾杯!

私にとって2022年は、「労働」の年。

会社員としての仕事も、文章を書く活動も、新しく開拓して、量を増やして、自分に負荷をかけました。「あなたにしては頑張ったんじゃない?」そんな風に自分を甘やかす声が聞こえてきます。

働く場所を増やし、自分の責任を増やす中で、新たに見えてきた壁もあります。それが、「自分」を持つこと。そしてそれを必要に応じて周囲に伝えることです。

 

今年大活躍したブックオープナーは、TENTのBOOKonBOOK。本を開いたまま押さえられて、引用したい箇所をしっかり確認できます。

私は、こだわりの薄い人間です。好みがないわけではありませんが、大筋が問題なければ、なにごとも割とどうでもいい。レストランで席に着いたら即注文を決めるし、カフェではすぐ出てくるブレンドコーヒー一択。仕事でも、「もうちょっとこうして」と言われたら基本的にその通りにします。書いた原稿に赤字が入れば、「なるほど」と感心して全部受け入れます。

ずっと、「私ごときが何かにこだわるなんて」という思いが根底にありました。たいていのことは、自分以外の誰かが決めたもの(レストランがおすすめするメニュー、そのカフェの定番ブレンド、上司や先輩・編集者の判断)に従った方がうまくいく。さらに私は、「相手の意図を汲んで言語化する」のは結構得意。この「こだわらない姿勢」が生活をするすると回すことに、とても満足していたのです。

 

しかし。夏の終わりから秋にかけて、なにやら状況が変わってきていることに気づきました。

職場では、いつの間にか中堅に。いえ、中堅どころか、上司を除くと最年長です。後輩たちは粒ぞろいのしっかり者ばかりですが、案件の方向性を決めるときや事故が起きたときに、判断するのは私。仕事を割り振ったり、進捗管理したりするのも私。不公平感があったり、進行が行き詰ってきたりすると、なんとなく「ねえ梅津さん、どうするの?」的視線を感じます。ええ……、そういうの私がやるの?

文章を書く活動については、秋から書く場所を増やしました。「幻冬舎plus」での連載と、ここ「外の音、内の香」のライターズ・マルシェです。ほぼ同時期にそれぞれの運営責任者の方と面談しましたが、口をそろえて言われたのが、「梅津さん自身をしっかり出して書いてください」。季節感や時事問題にからめた書評コラムを……と提案書を準備していた私は出鼻をくじかれました。ええ……、そういうの私がやるの?

こうなってくると、何をするにも「自分はどうしたいか」をちゃんと考えなければなりません。そして一生懸命考えれば考えるほど、誰かから「もっとこうした方がいいんじゃないの」「これ、分かりにくいよ」と言われたとき、これまで感じたことのなかった苛立ちも感じます。自分をなるべく透明にすることで世渡りしてきた私にとって、なかなか居心地の悪い日々がはじまりました。

 

ある休日、難しい原稿にてこずっていた私は気分転換しようと本を手に取りました。

目の前に窓がある席が好きです。

作家・村上春樹さんの自伝的エッセイ『職業としての小説家』(村上春樹/スイッチ・パブリッシング ※新潮文庫版も発売中)。

29歳のある日、神宮球場でふと「小説を書いてみよう」と思いついたこと。どんな生活を送りながら小説を書いてきたか。読者との関係をどう考えているか。そして、毎年世間が「今年こそ村上春樹がとるのか?」と盛り上がる、ノーベル文学賞について思うこと。「書くことは生きること」を体現するような村上さんが、とことん率直に具体的に、自身の営みを語る一冊です。

文章に限らずとも何かを表現しようとする人にとっては、ゆく道を照らす指南書となる本。それ以外の人にとっても、「好きなこと・やりたいこと」をつきつめていきたいと思ったときに、ひとつの指針を見せてくれる本だと思います。また、「毎年ノーベル賞の時期になると騒がしいなぁ。本人はどう思ってるのかしら?」と思ったことのある方、どうぞこれを読んでみてください。

 

作家やライターが「書く仕事」についてつづったエッセイは、自分が書くときの栄養ドリンク的存在。その中でも敬愛する村上さんの著書は、ユンケルスター(税込4,000円)のようなもの。本書も、何度も何度も読み返しています。くったりとした表紙をめくりパラパラと読んでいた手が、あるページでぴたりと止まりました。

 

僕にはひとつ個人的ルールがあります。それは、「けちをつけられた部分があれば、何はともあれ書き直そうぜ」ということです。

 

独特な世界観を緻密に作り上げている、日本を代表する小説家。そんな村上春樹さんが、けちをつけられたらとりあえず書き直す……?

けちをつけてきた相手(つまり編集者)のことが気に食わなくても、指摘そのものが納得いかなくても、とりあえず書き直してみる。ときには指摘とはまったく別の方向に書き直すこともあるそうですが、後で読み返してみると、その部分が以前よりも洗練されていることに気づくそうです。

 

読んだ人がある部分について何かを指摘するとき、指摘の方向性はともかく、そこには何かしらの問題が含まれていることが多いようです。

ここで僕が言いたいのは、どんな文章にだって必ず改良の余地はあるということです。

 

どんな仕事にも完璧ということはない。もし自分がよりよい仕事をしたいと思うなら、誰かが違和感を指摘するときには、いったい何がひっかかりになっているかを冷静に見つめるべきだ。それは、「自己主張が無い」「(本当は気に食わないのに)他人の意見に従う」とはまったく別のことなんだ。

「自分と他人の対立」にばかり心が奪われていた私に、さらさらと降りそそぐように村上さんの言葉が降りてきました。他人からの注意をノイズではなく、よりよい仕事をするためのアラームだと考えて、柔軟に開けた耳と心で受け止められたらいいなぁ。

 

忘年会をご一緒したお友達からのプレゼント。「読み終えてややふっくらとした本にあなたの日々が挟まれている」(木下龍也)

送っていただく感想、いつもありがたく読ませていただいています。今年の投稿はこちらが最後になりますが、皆さんどうかよいお年をお迎えください。そして来年もよろしくお願いいたします!


特集・連載一覧へ