中川正子さんに一田が。一田に中川正子さんが。インタビューしあいっこしてみました。vol.2

一田が写真家の中川正子さんに。中川正子さんが一田に。ふたりでインタビューしあいっこした企画のお裾分けをお届けしています。

vol,1では、どんどん古い皮を脱ぎ捨てて、新しい自分になる、という中川さんの脱皮力について伺いました。
今日は脱皮したのち、新たなステージ作りをされた様子について伺います。

女優の夏木マリさんが大好き、という中川さん。
彼女のエッセイの中に大好きな言葉があったそうです。
それが「自分だけのコロシアムを持つ」という一言……。

一田:自分のコロシアムを自分で設計して、運営もする……。中川さんの新たなコロシアム作りの第一歩はなんだったの?

中川:写真集作りかな。まず誰かに相談しなきゃと思ったときに、パッと顔が浮かんだのが、古くからの友人で自主レーベルで写真集を出している人。なので、とりあえず彼に電話をしてみました。いつも最初はどうやって作ったらいいか、そのやり方さえわからないんですけど、やりたいことが浮かんだら、相談すべき人をワ〜〜ッと考えて連絡する。それでどんどん形になっていく、という感じかな。

一田:毎日そのことばっかり考えているモードになるんだよね?笑

中川:そうそう。その話しかしないので、夫なんて大変ですよね(笑)。

一田:それほど必死に向き合う時間を過ごしていると、ある日ポッと答えが出るの?

中川:うん、出ますね。朝起きた瞬間から考えて、シャワー浴びてるときも考えて、もうず〜っと考えてますね。

一田:そういう意味では、バランスいいみたいで悪いみたいだよね(笑)

中川:ふふ。夫に聞いてもらったら、きっと「こんなにバランスを欠いた人間はいない」って笑顔で言うと思いますよ(笑)

一田:ははは〜。だって、春に山に登ってます、って聞いてて、しばらくしたら、筋トレ行ってます、になってて……。その時々の突進力がすごいよね。それって、新しいものを見つけたら、すぐにヒョイっと飛び移って、かつてのものは長続きしなくてもOKってことですよね?

中川:私、自分がハマッたことをやめることへの、というかやめてもいなくて勝手に終わっていくんだけれど、それへの罪悪感が一切ないんです。

一田:その柔軟性がすごいと思う。それが私が「脱皮力」と呼びたくなる所以かもしれないね。

中川:そういう蛇の皮のようなものは、そこら中に散らばっていますね。編み物も一時期夢中になっていたけれど、今はやっていないので、糸の山があるし。でもまたいつかやると思うので。

一田:編み物だったり、山登りや筋トレだったり、そうやってやってきたことは、新しいものに乗り移っても、鉱脈的には繋がっているんだよね、きっと。

中川:そこまで意識はしていないんですけど、そう言われればそうだなって思います。その場その場で必死だったことが、私の中の未開発だった領域を広げるのに役にたったかな。

一田:たとえば編み物に必死になって、すごい熱量で向き合うんだけれど、その編み物がなんの役に立つとか、なんの得になるとかは、そのときは見えてないわけですよね?

中川:見えてないですし、探そうとも思っていないですね。ただ編みたいだけ。

一田:そうなんだ〜。新しい可能性を手にする自分を見たいって感じ?

中川:きっとそうですね。あとは達成感のひとつだと思います。

一田:それが仕事の役にたつものじゃなくてもいいってことですよね?

中川:それは全然役に立たなくてもいいですね。

一田:ということは、中川さんが夢中になる対象って、なんなんだろう?

中川:それはやっぱり成長欲だと思います。人間としての成長……。

一田:今、voicyのプロフィールに「写真と文筆」って書いてるでしょう? 自分が写真を撮るだけじゃなく、文章を書く人でもある、みたいになってきたことですか?

中川:そうですね。私、今までは「写真を極める」っていう気持ちがあったんですけど、「たまたま写真だったんだ」ってことに気がついて……。たまたま写真っていうツールを手にして、それが自分にフィットしていたし、好きでやってきたんだけれど、自分の中にある「何かを伝えたい」という「何か」を持って行ってもらうためなら、文章も同じぐらいの役割を果たせていると思うので……。写真であれ、文章であれ、私が伝えたいと思うことを持って行ってくれる媒体としては、もうイコールだなと思って……。

一田:そこがね、私一番最近の中川さんの脱皮かなって感じているんです。そして、その姿にすごく刺激を受けるんです。伝えるということの本質さえ見失わなければ、その形はなんでもいい、って自分で決めるって、すごいことだと思うんですよ。だって今まで「写真家です!」ってすごく頑張ってきたのに。

中川:段階がたくさんあったんだと思います。以前は写真家としてのインタビューが多かったんだけれど、最近受けるインタビューの半分以上は「生き方」がテーマなんですよね。友達から言われたんですが、「もう正子は職業が中川正子になってきたね」って。写真と文章がイコールだっていうのは、結局真ん中に私というものがあり、それを伝えるツールとしてそれらを使っているだけ。

一田:先日、この企画のために中川さんとZOOMで打ち合わせをした時に、「ああ、中川さんって『伝えたい人』なんだ」ってすごく感じたんです。独身時代からのブログ「ナカマサニッキ」の時代から、それは脈々とあって、それがTwitterになって、写真集になり、今はVoicyになって……。変わってはきているんだけれど、「伝えたい人」っていうのは変わっていないのかなって思ったんです。

中川:Voicyのお悩み相談などをやるときに、自分ですごく気をつけているのは、「私はすごくいろんなことを知っていて、いろんなことをクリアしたから、みんなに教えてあげる」という態度になっていないかな?ということです。 そうじゃなくて、「私はこう思うけれど、みんなはどう思う?」っていう感じなんです。「ねえ、どう思う? どう思う?」って聞きたいだけなんですよね。

一田:やっぱり中川さんは「交換したい」っていう欲がすごく強いんだと思う。私も「書く」っていう仕事は「伝える」ことでもあるけれど、中川さんみたいに「どう思う?」って人に投げる熱量は、少ないんだと思いました。いろんな人が「私はこう思う」って投げ返してくれたら、私はそれを全部受け止める自信がないかも……。

中川:とはいえ、自分をすり減らしてやるのはおかしいと思うので、距離の詰め方とか取り方っていうのは考えますね。

一田:やっぱり中川さんは伝える人なんだねえ〜。

中川:やりたいこととして認識はしていないですね。「やっちゃっていること」っていう方がしっくりきます。

一田:なるほど〜。じゃあ、すごく計画するよりは、やってきた波にひょいひょい乗っていくイメージ?

中川:まさにそうです。波は勝手に来るので……。でも遠くで波を起こしているのは自分自身かもしれませんね。

私たちは、どんな人になりたいとか、どんな生き方をしたいとか、いろいろな目標を立てるものですが、中川さんの「脱皮」の先には、そんなゴールフラッグは存在しないんだ、ということがわかってきました。
何者かになりたい、と形あるものを目指すのではなく、絶えず脱皮を繰り返し、何者でもないものになる……。そんな感じ。

「写真家じゃなくてもいいのかも」。
その気づきには、びっくりたまげました。今まで自分がそう在ることを一番こだわってきたのに、それさえ潔く脱ぎ捨ててしまう……。でも、脱ぎ捨てても脱ぎ捨てても、脱ぎ捨てられない確かなものが、中川さんの内側には残ってきたんだろうなあ。

過去の自分にこだわらない。自分が獲得したものにこだわらない。形あるものを作ることにこだわらない。そうすれば、とても軽やかに、自分の空へと羽ばたけるのかもしれない……と、中川さんに「飛び立ち方」を教えてもらったような気がしました。

次回からは、いよいよ今度は、中川さんが私にインタビューをしてくれる番です。
何を聞かれて、何を答えたのか……。お楽しみに〜!

 


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