一田が写真家の中川正子さんに。中川正子さんが一田に。ふたりでインタビューしあいっこした企画のお裾分けをお届けしています。
Vol.2では、何者かになりたい、と形あるものを目指すのではなく、絶えず脱皮を繰り返し、何者でもないものになる……。そんな中川さんの軽やかな飛び立ち方について伺いました。
そして!
次は中川さんが、ワタクシ一田に質問してくださる番です。どんなことを聞かれるんだろう? とドキドキ……。
中川:まずは一田さんの進化について……。一田さんは、私が進化しているって言ってくださったけれど、私から見ると、一田さんの進化もすごいです。初めてお会いしたときは、雑誌のいちライターさんだったけれど、そこから「暮らしのおへそ」を立ち上げ、ご著書も何冊も出されて……。一田さんにも、いろんなフェーズがあったと思うんですが、私はそこに結構立ち会わせてもらっている気がするんです。がっつりじゃないんだけれど、ちょうどそのタイミングでお会いしたら「サイトを立ち上げたいんだよね」とか「だからアー写(=プロフィール用の写真)を撮ってほしいんだよね」とか。
一田:そうそう、そうでした! 写真撮っていただきましたよね〜。
中川:一田さんもいつも何かを探していて、きっかけがあり、それに対処しているうちに、進化してきた、という意味では、僭越ながら私と似ているなあって感じているんです。そのきっかけの発芽というか、どういうところから始まるのかなあっていうのをまずは聞きたいです。違和感なのか、退屈なのか、欲求なのか?
一田:なるほど。たぶん、中川さんと正反対だと思うんですけれど、その発芽は、私の場合「不安」だと思う。
中川:え〜!不安なの?
一田:そう。たとえば、ライターとして雑誌でお仕事をしていて「いつか仕事がこなくなるんじゃなかろうか?」と不安になるからこそ、「じゃあ、自分の名前で書けるようになっておきたい」と本を出せるように頑張る、とか「誰かにオファーされなくても、自分自身の書く舞台を作ろう」と「外の音、内の香」という自分のサイトを作るとか……。自分が不安だから、こうしておいた方がいいんじゃないか? ああしておいた方がいいんじゃないか? って、私は進んできた気がします。
中川:不安があって、まずはそれを自分で分析するわけですか? どうして不安なんだろう?って?
一田:う〜ん、でもこの不安をこうやったら解決できる! なんて、わからないんです。わからないまま進んでいるというか……。このモヤモヤとした不安は、こうすればきっと解決できる!ってスッパリとわかれば楽なんだけれど、いつまで経ってもわからないから、いつまで経っても不安なんです、私の場合(笑)。その絶対に消えない不安を抱えながら走っている感じなんですよね。
中川:不安な時、一田さんはどういう行動に出るんですか? 私みたいに人に聞きまくる?
一田:私は人に頼るのが苦手なので、よっぽどのことがない限り人には相談しないんですが、どうしてもたまらなくなったら相談するかな。
中川:じゃあ、ずっとひとりで考えているんですか?
一田:そうですね。ただ、漠とした不安って、ものすごく落ち込むとかではなく、いつもなんとなく胸の奥あたりがス〜ス〜するみたいな感じなので、なんとなく持ち続けているって感じかな。
中川:なるほど。私だったら、その段階で「まだ言葉にはできないんだけど、モヤモヤするんだよね」っていうのを、友達だったり、夫だったりに言わずにはいられないんですよ。なんだかわからないけれど、今モヤついてるって。一田さんは形になっていない段階では、人に話さないんですね。
一田:いや、ちょこちょこは話の端に出しているし、文章にも書いているかもしれません。ちょっとずつ「ちぎっては投げ」ているんだけれど、たぶんどこかで、誰に言っても解決しないと思っていると思う。
中川:そうなんですね〜。具体的にエキスパートに相談しようというのもない?
一田:仕事で知り合った、心理カウンセラーの方に話を聴いてもらったことはあります。でも、もうちょっと言えば、その不安が、ある意味自分にとって必要なものだと思っているのかもしれない。
中川:なるほど!
一田:私は、若い頃から、不安をエンジンにして頑張ってきた気がする。若い頃ってすごく「気にしい」じゃないですか? 今の方が、歳をとって不安がる体力もなくなってきたかな。
中川:不安っていうとネガティブなものに思えるけれど、一田さんにとっては必要なものとして許容しているって感じなんですね。積極的に排除もしようとしてない感じ。
一田:そうそう。不安があるから、不安がっている時の気持ちとか、その不安をいかに乗り越えるとか、そこを私は文章に綴ることができると思うんです。だから不安がりがなくなったら、私、書くことなくなっちゃうと思うのね。
中川:へ〜!面白い!
中川:一田さんって、私よりちょっと上の世代で、ちゃんとバブルを知っている人なんですよね。その方たちに共通するのは、成功したいっていう気持ちのような気がするんです。成功の定義がなんであれ、とにかく成功したいっていう……。
一田:その通り!(笑) ほんと、そうですよ。
中川:その成功したい癖みたいなものは、まだあるんですか?
一田:ものすごいありますよ。
中川:今もある?
一田:今もたぶんあると思う。成功したい欲っていうのは、今はちょっと衰えたかもしれないけれど、若い頃からもう、ギンギンムラムラにあったと思います(笑)
中川:ギンギンムラムラ!(笑)
一田:いいライターになりたいとか、いい本を書きたいとか、それで人に認められたいとか……。その思いは本当にギンギンムラムラでした!(笑)
中川:それはいつ頃まで?
一田:つい最近までです(笑)
中川:一田さんをちょっと遠目で見ている人は、そんなこと思いもしなかったでしょうね? 私は一田さんをもう少し近くで見ているのに、ギンギンムラムラとは思わなかった!(笑)
一田:でも、ギンギンムラムラだから、いろんなことにチャレンジするんじゃないかな?
中川:一田さんの謙虚な姿勢にだまされていたのかな?(笑)
一田:そうかも、そうかも〜!
中川:認められたいっていうのは、私にもありましたけれど、一田さんの場合はどういう「認められたい形」があったんですか?
一田:う〜ん、「褒めてもらいたい」かな……。みんなに「すごいね〜」って言ってもらいたいみたいな(笑)
中川:かわいい〜(笑)
一田:中川さんは、パーンとスイッチを切り替えて、他人軸ではなくて、自分がOKを出せばそれでいいって切り替えられた人ですよね。でも、私の場合は、そういうふうにスイッチを切り替えた方がいい、と頭ではわかっているけれど、全く褒められなくなったら寂しいし、やっぱり誰かに褒めて欲しいって思っちゃう。それはたぶん優等生で育ってきたからで、その優等生体質がどこかに残っていて、払拭できないんだろうな。
中川:一田さんの褒められたい、ってどういうレベルなんですか? 目の前にいる人にすごいねって言って欲しいのか、それとももっとでっかく褒められたいのか。
一田:でっかく褒められたいんだと思う(笑) 著名なエッセイストになりたいとか……。
中川:ええ〜! 超意外です。一田さんは求められるままにどんどんオファーされて、優等生だからそれにちゃんと応えるうちに、結果有名になっちゃったのかな?って思っていました。みんなに「見つけ出された人」なんだろうなあって。
一田:いや。やっぱりそこは、一歩出たいって思いがないと、声をかけてくれる人もいないんじゃいかな。ものすごい才能がある人は、中川さんが言ったみたいに自然に「誰かが見つけ出してくれる」だろうけれど、私にはそこまでの才能はない。だとすると、自分で「やりたいです!」って一生懸命言っていかないと、見つけてもらえなかったんだと思います。
中川:そんな一田さんは今、満たされているんですか? それともモヤモヤ続行中?
一田:モヤモヤ続行中ですね。
中川:一田さんにとって自分が満たされるって、どういう状態なのでしょう?
一田:ギンギンムラムラって言いましたけれど、60歳になっても70歳になってもギンギンムラムラではいられなくて(笑)。この先下り坂になっていく中で、それでも幸せでいるためには何が必要なのかな? って考えてみると、やっぱり家で「おいしいね」ってご飯を食べて、なんとなく気持ちのいい空間で過ごして、そいういうことが基本になっていくかな……とシフトしている最中ですね。
中川:一田さんの今の望みってなんですか? ずっと書き続けること?
一田:それはそうですね。今から私が下るんだとすれば、その下り坂の途中で、こういうことを見つけましたよって……。今まで上向きばかりで書いてきたけれど、今度は下り坂でどういうことが起こり、どういう発見をし、人間って成長しなくても幸せでいられるんだよっていう仮説を立てた上で、そこを書いていきたいっていう思いはすごくありますね。
中川:脱・成長って、今までの一田さんの文章からは聞こえてこなかったトーンのような気増します。一田さんって、「日常は5ミリずつの成長でできている」(大和書房)とか、「よりよく」っていうことを書かれてきたと思うので。下ることを認めるっていうのは、新しい視点な気がします。
一田:でもね、それって、前に進むことでもあると思うんですよね。下ること=マイナスではなく、下ることは世の中一般的にはマイナスかもしれないけれど、私にとってはプラスかもしれないんじゃない? っていう思いで書いていきたい感じなんですよ。
中川:すご〜い! それ、超いいと思います! 感動して、今泣きそうです。
一田:歳をとってできなくなることが多くなるっていうのを、今までの物差しで測るんじゃんくて、違う物差しを持って、そこの価値を定義していきたいっていう思いがあるから。
中川:それ、すごくいいですよね。どんどんよりよく、より大きくっていうとかこの国では限界を迎えている気がして、みんな息苦しいですよね。そのやり方を模索している中で、一田さんが先陣を切ってそういう話をしていくっていうのは、いろんな人に勇気を与える気がしてきました。
一田:ありがとうございます。頑張ります!
中川さんに聞かれると、なんだかとても素直になれて、思った以上にあけすけに話してしまいました(笑)。
今回は、公開インタビューだったけれど、
こうやって、これからも2人で、自分の思っていること、迷っていること、目指していることを
あれこれおしゃべりしていけたらいいなあと思えた時間でした。
このやりとりの中から、みなさんが何かを拾い上げてくださると嬉しいです。