若鮎のほの甘さに、頑固だった父の姿を思う

みなさん、こんにちは。
ライター塾3期生の西胤真澄です。和菓子にまつわる小さなお話を綴っています。

前回は春の和菓子でしたが、今回は初夏の和菓子です。

みなさんは「若鮎」という和菓子を食べた事がありますか?
魚の形をしていて、焼き印で目やヒレなどの模様を付けたお菓子です。

 

ふんわりしたカステラ風の生地の中にモチっとした求肥が入っていて、
この2つの食感の組み合わせが何ともたまらない美味しさなのです。

 

求肥はそこまで甘いわけではなく、うすら甘いのが特徴。
甘い和菓子が苦手な人にも、好まれる和菓子なのかもしれません。
お店によっては柚子風味の物もあるそうです。

「鮎」は夏の季語ですので、「若鮎」は鮎漁が解禁となる、
春から夏にかけて販売され、夏の訪れを告げる和菓子のひとつです。

 

私の父はこの「若鮎」が好きだったので、実家に行くときはお土産によく買って行ったものです。
その頃は季節商品とは気付かず真冬に何店舗も探し回りました。どうりで売ってなかったはず。

父は昔ながらの頑固親父。
気に入らないと大声で怒るので、小さい頃は叱られないようビクビクしていました。
仕事人間でたまにしか家にいないのに、顔を合わせると「成績が悪い」だとか「スカートが短い」など
私が「むっ!」となるような事ばかり指摘するので、父が家にいる日は逃げるように外出していました。
また、あれこれいらぬ世話を焼き、就職先や結婚相手を探してきたり。
「も〜なんで勝手な事ばっかりするかな〜」と私はいつもプリプリ。
私は父に反発して、就職先も旦那さんもちゃんと自分で見つけました(笑)

 

自分が親になってわかったのは、子供にはできるだけ失敗や苦労はしてほしくない。
でも子供は、常に勢いだけで危なっかしい行動をしたり、経験不足から偏った考えを主張しがち。
「あっちの道はやめたほうがいい。」
「あの友達とは付き合わない方がいい。」とつい先回りして口を出したくなります。

私が鬱陶しいと思っていた父の行動全ては、娘が将来、できるだけ安全な道を歩めるよう導いてくれていたのですね。
その導き方は極端に厳しく、あの頃は叱られてるとしか思えなかったけど。
でも今の私があるのは、そんな父の厳しさのお陰なのだと思います。

 

晩年の父は色々な病気を患いみるみるうちに弱々しくなりましたが、
好きだった「若鮎」を持って行くと優しい顔でニコニコ笑いながら食べてくれました。
そんな訳で「若鮎」を見ると、いつも父の事を思い出します。

 

「若鮎」は目やヒレなど焼き印でひとつひとつ丁寧に描かれているので、
笑ってるような目だったり、どこか頼りなさげに見えたり、イケメン風だったり、
お店によって表情が違うので、色々な店舗の「若鮎」を探してみたくなります。

和菓子を食べるときは器選びも楽しみのひとつ。
「若鮎」を乗せる器には、友人の陶芸家「うつわ うたたね」さんの黒い楕円形の器を。

 

 

黒い色は黒化粧焼き締めという技法で出されていて、楕円形のお皿はオーバル皿と呼びます。
このオーバル皿はお料理にも大活躍ですが、細長い「若鮎」を乗せるのにピッタリ。

 

その時、バランを敷いたり、小さな葉っぱを添えたり、
グリーンの物を組み合わせると清々しくて綺麗です。
お魚だから頭を左向きにするのも忘れずに。

 

「若鮎」はカステラ生地なので緑茶やほうじ茶だけでなく珈琲とも相性がいいのです。

 

手軽な感じで器に乗せる事なく、片手でガブリといくのもいいですね。
今ならアイスコーヒーと一緒に!

「若鮎」がお店に並ぶ頃になると、少し暑くなってきて
「あ〜もうすぐ夏が来るんだなぁ」と季節を感じる事もできるのです。

鮎の解禁される4月末頃は気候もだんだん変化しますが、
春に進学や就職などで変化した人たちの疲れも出やすい頃です。
みなさんも無理せずに、ちょっと気持ちを楽にして「若鮎」を食べながらお茶でもいかが?

さて、今回の「若鮎」はいかがでしたか?
次回はどんな和菓子のお話にしようかな?
お楽しみに〜。


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