インテリアや暮らし周りのライターとして活躍したのち、
今は、8万人のフォロワーがいるインスタグラマーとして、
新しい扉を開けた、という大野祥子さんにお話を伺っています。
第一話では、専業主婦からフリーライターとして仕事を始めた経緯を。
第二話では、コロナ禍に部屋を片付けはじめ、その様子をインスタに綴ったら
どんどんフォロワー数が増え始めたお話を聞きました。
「ライターの仕事がだんだんしんどくなってきた」と語ってくれた大野さん。
インスタに力を入れるようになって、
ライターの仕事を一度断ってみよう、と考えるようになったそうです。
「『やりたいくないことを、やらないようにしよう』って思ったんです。
部屋を整えると、自分の気持ちにも正直になっていくというか、
自分の本当の気持ちがわかってくるんですね。
インスタで発信するために、考えたことをいっぱいメモしたりして、
だんだん気づき始めたのかもしれません」
私も同じフリーライターなので、
「仕事を断る」ということが、いかに怖いことなのかがわかります。
私だったら、きっとそんな大胆なことはできない……。
でも、私も無意識のうちに、大野さんと同じように
少しずつ仕事をやり方をスライドしたきたのかもしれないなあと思います。
誰かに依頼されて、決定権が相手にあり、
ひとつのコマのように動かなくてはいけない仕事は、
ストレスが溜まりがちです。
「やらされる」の中に、少しずつ自分の「やりたい」を混ぜ込んで
なんとか、仕事を「楽しいもの」として続けていきたい……。
私のフリーライターとしての日々は、その連続だったかもしれないなあ。
大野さんは「しょ〜こジャーナル」の「おわりに」で
こんなふうに書いていらっしゃいます。
思えば、子どものころから自分を厳しくジャッジする
ジャッジマンが心の中に住みついていました。
「そんなんじゃ全然だめ」
「こんなこともできない自分はダメな人間」
そんな「ジャッジ」を手放そうと思ったそうです。
でも、いったいどうやって?
「『あっ、今私ジャッジしてた』と客観視することを覚えたかもしれませんね。
たとえば取材に行くと、『あれも質問すればいよかった』『あのカットをカメラマンに撮ってもらったらよかった』
とあれこれ思っていたんです。
でも、もう取材は終わっているんだから、考えたって仕方がない。
『私って、考えても仕方がないことを、ぐるぐる考えている』と気づいたとき
『それはもう、やめてもいいんだな』って思えるようになったんです」
さらに、こうも教えてくれました。
「私、『考える』ということがすごく苦手で嫌いなんです。
自己分析も苦手だし……。
でも、ずっとぐるぐると無意識に同じことを考え続けるという生活はすごくしんどかった。
だから、手当たり次第、思いつくことをやってみた、って感じかな。
自己啓発や心理学の本もいっぱい読んだし、
風水を習ったり、スピリチュアル系のコミュニティーに入ってみたり。
インスタによって言語化ができるようになって、
一気に分析が進んだって感じです」。
今、いちばん楽しいのは、インスタの投稿を作っているときだそうです。
10枚の写真の1枚1枚に、言葉をのせて、
紙芝居のように、1枚1枚スライドさせて読んでもらう……
というのがその作り方。
自分の中から出てきたものは、全部OK。
文章でも絵でも歌でもダンスでも、出てきたものが「今のわたし」というだけ。(「しょ〜こジャーナル」)
そんなある日、ある人からこう言われたそうです。
「どうして自分で本を作らないの?」
そこで、大野さんは「エッセイを出したい」と思っていたことを思い出します。
出版社から出せなくても、自分で自分の本を作ればいい……。
そうして「ZINE」を作ることに着手。
これが「しょーこジャーナル」になったというわけです。
この1冊、本当によくできているのです。
エッセイとして、大野さんの本当の「思い」が綴られているページあり、
片付けを始めたきっかけから、実際に作業を追ったルポがあり、
どうしたら、部屋を「自分のサンクチュアリ」にできるか、という実用ページがあり……。
そこには、フリーライターとして仕事をしてきた大野さんの経験すべてが結実していました。
私はこの1冊を拝見して
「ああ、雑誌って、こうやって作らなくちゃいけないんだよな」
とお手本を見せていただいた気持ちになりました。
本当に「わかりやすい」ってこういうこと。
そして、「わかりやすい」って、人に何かを伝える上でいちばん大切なこと……。
今回私が教えてもらったことは、
「やりたくないことはやらない」という、足の止め方でした。
自分が行きたい方向へ足を踏み出すためには、
一旦足を止めて、今まで歩いてきた道が正しかったのか、
そのまま歩き続けていていいのかを、点検してみる必要があります。
でも、大抵の場合、立ち止まることが怖い……。
若い時なら、多少道を間違えても、
また分かれ道まで引き返す体力があります。
けれど、人生の後半になればなるほど、
そんな体力はもちろん、時間もない。
だったら、手遅れになる前に、「これでいいの?」と確認したほうがいい。
そして、自分が持っているエネルギーを
いかに楽しく、効率的に、心地いい方向へと使うことを考えた方がいい。
大野さんは、きっと「自分の使い方」を変えたんだろうなあ〜。
思い切って、道を変えることの清々しさと、可能性を教えていただきました。
実は、この取材の後、大野さんは苦手だとおっしゃっていたインスタのPRのお仕事を始めたそう。
「それまでも、たくさんPRのご依頼はいただいていたのですが、
自分自身がそのよさがよくわからないものだったり、
クリック数によってギャランティが決まるものだったり。
でも、フォロワー数が7万人を超えた頃から、
信頼のおける企業さんからご依頼をいただくようになりました。
今では、本当にいいものだけを、ちゃんと実感をもってご紹介できるようになって、
それによってギャラもいただけるようになりました」
と教えてくれました。
こうして、生活のベースが安定したというわけです。
「これまで、がんばってきてよかった、って思います」と大野さん。
「やりたくないこと」をやめて「やりたいことだけ」をやって、大野さん、ちゃんと生きていけるんだろうか?
そうお節介にも心配していた私の目の前で、
大野さんは見事に「できるんですよ〜!」とお手本を示してくださいました。しかも、こんなに短期間に!
「やりたいことだけをやる」って、きっと、船の帆先を「そっち」へ向ける、ということなのかも。
思い切って、舵を切れば、自然に船はそちらへ動き出す……。
私の帆先はどちらへ向けばいいんだろう?と今一度考えてみたくなりました。
この取材ののち、「しょ〜こジャーナル2」が発売されました。
「しょーこジャーナル1」ともども、とても素晴らしいので、ぜひ読んでみてくださいね。
こちらから購入できます。
撮影/石川奈都子