レンズ豆のスープ 

出会ったのは、大学の学生会館で。
淡いベージュのふわふわのセーターがとてもよく似合っていたことを憶えてるので、寒い季節だったのだろう。
友達の友達として紹介された彼女は、薄茶色の大きな瞳が印象的な美人さんで、その目ををキラキラ輝かせながらいたずらっぽく笑うと、そこにいる誰もが幸せになるような、そんな空気をまとっていた。映画や音楽や美術の好みも近く、すぐに仲良くなった。30年ほど前の話。

その大切な友人が亡くなった。
ガンを患いながらも、体力のある限り子育ても仕事も休むことなく続けながら送った7年以上の闘病生活の末に。
その間、小さかった子供達は彼女の背丈を越すくらいに大きく育ち、お葬式ではお父さんの両脇に寄り添い立っていた。その姿を見て、「彼女は、このために自分の命を1日でも長く伸ばせるようにいつも笑顔で頑張ってきたのだ」と悟った。

大学を卒業してからは頻繁に会うことはなかったけれど、途切れることなくずっと繋がっていた。
関東地方に暮らす彼女は、タイミングが合えばいつも、東京での展覧会を見にきてくれた。
手に入れたうつわに料理をもった写真や家族の感想を送ってくれた。
関西に来た時は、「今近くを走ってるからこれから行くよ」と、例のいたずらっぽい笑を浮かべながら、突然、工房に遊びに来てくれたりもした。
闘病中も、病気のことを聞こうとすると、なんとなくするっと話題は彼女の面白おかしい話にすり変えられ、気がつけば一緒に笑っていた。

もう会えないと思うと、寂しくて本当につらい。
でもなんとなく泣いてしまうと怒られるような気もしている。
そんな彼女の旦那さんの最後のスピーチは、彼女へのラブレターだった。
彼女が素敵だったことが、たくさんたくさん並べられていて、彼女をよく知る私たちは一つ一つの言葉に頷きながら、泣きながら笑った。悲しいけれど、本当に特別な時間だった。

お葬式の後、大学時代の友達と数人でご飯を食べた。
大学の時のいろんな思い出話をしながら。
一人が、「桃子のところに行くといつも何か食べ物があって楽しみだった」と言うと、
「そうそう、カレーとか」「豆の入ったスープとか」「ちょっと焦げたクッキーとか、笑」
「おいしいバケットに、バターの塊をのせて食べた」とか。
「そう、そのバケット、今までの人生の中で一番美味かったかもしれん、外がパリパリで中がもちもち!」
「それそれ!5th street marketのベーカリーの!めっちゃ美味しかったなー、高いからいつも買えなかったけど…」などなど。
いいおじさんやおばさんが、一瞬で大学生に戻った。
みんなが私のことを食べ物と一緒に記憶してくれていることがちょっと嬉しかった。
話が盛り上がってきて、みんなで笑っている時、なんとなく、彼女も一緒にいる気がした。

家に戻ってしばらくして、当時よく作っていた豆のスープを作りたくなった。
タマネギとチキンを炒めてレンズ豆と野菜を入れて小一時間煮込む。
トロトロのスープをすすると、彼女も一緒に過ごした学生時代の思い出で体が満たされていくような気がした。
「会いたくなった時には、また作ろう」そう思って、手を合わせた。

(追記)
このスープは学生時代によく行ったコーヒーショップの、ある日の “today’s soup” がとても美味しくて、真似して作ったのが始まりです。レンズ豆と一緒にジャガイモやニンジンなど色々な野菜がトロッと煮込まれて、クミンの香りがした、という記憶を頼りに作ってみたら結構うまくできて、それ以来、作る時は持っていた鍋の中で一番大きい鍋(パスタを茹でたりするのに使っていた)で一度にたくさん作って冷凍ストックしたり、友達と一緒に食べたりしていました。乾燥レンズ豆は小さくて比較的早く煮えて水につけて戻す必要がないし、しかも安かったので、スープやサラダに入れてよく食べていました。
大学時代を過ごしたオレゴンは、夏は緑に包まれてカラリとサイコーに気持ち良い天気が続くのですが、冬場は打って変わって、厚い雲が空を覆い景色は一面ダークグレー、そこにシトシトと霧のような雨が降り続きます。気持ちもどんより沈みがちになるこの季節に、小さな灯し火のように温かい記憶として残っているのが、家の中でゆっくり音楽を聴いたり、本を読んだり、課題をしたりしながら、スープをコトコト煮込んだこと。外の寒さや暗さと、スープの美味しそうな香りで満たされた暖かい部屋の中とのギャップが大きければ大きいほど、感じる幸せ度も上がったように思います。

 

<材料> (5-6人分 φ24cm平鍋深で作る量)

レンズ豆(乾燥)150g(ざっと洗ってザルにあげる)
カボチャ 約300g(タネを抜いて皮をまだらにむき、2-3cmにカット)
鳥モモ肉 300g(一口大に切って軽く塩コショウをする)
タマネギ 中1個(粗みじん切り)
ニンニク 小1片(みじん切り)
クミンシード 小さじ1(量は好みで調整してください)
ベイリーフ 2枚
オリーブ油 大さじ3
水 約1000cc(スープの濃度を見ながら調整してください)
塩コショウ 適量
彩りのよい緑の野菜(お好みで)(軽く下ゆでしておくと良い)

1. 厚手の鍋を中火にオリーブ油を入れて中火にかけ、クミンシードを入れる。クミンから細かい泡が出てチリチリして来たらニンニクも入れて炒める。

2. クミンとニンニクの香りが立ってきたら、タマネギを入れてキツネ色になるまで炒める。

3. 下ごしらえした材料を2に入れて、水をひたひたに注ぎ、蓋をして強火にかける。煮立って来たら、火を弱めて蓋を少しずらし、素材が柔らかくなるまで煮る。(30-40分くらい)

4. トロリとしてきたら、塩コショウで味付けし、彩りの緑を散らして出来上がり。

*彩りが綺麗なので、仕上げにインゲン豆を軽く茹でたものを添えました。
ブロッコリーやほうれん草などでもいいです。
*簡単ですが、コトコト煮込む料理なので、ゆっくりお家で過ごすような日に作ってみてください。

 

小粒で火の通りやすいレンズ豆をカボチャや鶏肉と一緒に料理します

 

下ごしらえはこんな感じ

 

鍋にオリーブ油を入れて火にかける

 

クミンシードを弱火で炒める

 

クミンシードがチリチリしてきたらニンニクを入れて炒める

 

タマネギを入れてキツネ色になるまで炒める

 

残りの材料を入れてざっと混ぜて油を絡める

 

水を注ぐ、ヒタヒタくらいで

 

蓋をして強火にし、煮立ったら、蓋をずらして少し隙間をあけ、時々混ぜながらコトコト煮込む

 

20分くらい煮たところ、まだ少しサラッとしている

 

40分くらい煮ると、だんだん水分も少なくなってトロリとしてくるので、お好みの濃度になったら塩コショウで味を整える

 

緑の野菜を最後に散らすときれいです

 

美味しいスープにパンを浸しながら食べましょう〜
バターはパンにつけても、スープに溶かしても美味!


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