「はじめの一歩の踏み出し方。」 佐藤久美子さん vol.3
この連載「はじめの一歩の踏み出し方。」は、
大切な時ほど足踏みしがちな私・矢島美穂が
インタビューを通してあの人の「はじめの一歩」を覗いていこうというもの。
読んでくださる方の、より自分らしい明日や未来を迎えるための
少しの勇気とヒントにつながりますように。
ここまで2回にわたってお話を伺っているのは、
フリーの編集者・ライターとして活躍する佐藤久美子さん。
緑が薫る江ノ電沿いに暮らしつつ、
週に一度オープンする
「GOKOTI YUIGAHAMA」(ゴコチ 由比ヶ浜)という
ギフトショップもご夫婦で営まれています。
十代のうちから定めていた「ライターになる」という目標に向けて、
着々と歩みを進めてきた佐藤さん。
28歳という年齢で結婚、そして29歳で独立と、
大きな節目が重なるタイミングを迎えることとなります。
「もともと新卒で就職するときには、
『ライターのベースとなる経験が積めたら次のステップに進む』
ということは決めていましたが、
会社自体はすごく好きだったんですよ。
『誰と働くか』を考えると、そこはとても恵まれた環境でした。
みんな仕事への意欲が高くて、部署や年次の壁を越えてチーム感がある。
だからこそ、思い残すことなく新しい道に踏み出せた気がします。
卒業する時期や年齢をはっきりと定めていたわけではなくて
ちょうどそのタイミングで『準備ができた』と思えたことと、
結婚を機に今後を考えることが重なったというのが決め手でした」。
では次のステップを考えるにあたって、
例えば、出版社に転職して、
また違った経験を積むということは
考えなかったのでしょうか?
「その頃、夫は既に湘南に住んでいたこともあり、
新婚生活は鎌倉でスタートすることになりました。
当時の世間には『働き方改革』なんて言葉はまだ存在せず、
出版社と言えば徹夜も辞さないような過酷な環境。
――会社員時代の終盤、20代後半は猛烈に働いていて
実は体調に皺寄せがきてしまっていたんですよね。
もし転職したとして、鎌倉から毎日通勤し、
そこでの激務を引き受けて、という現実をイメージすると…
精神力はあっても体力面に自信がなかったという状況で。
だったら、フリーとしてスタートを切ろう、と決意しました」。
冷静に自分の状況を見極めて、走り始めた佐藤さん。
独立後1年ほどは、前職からの依頼や紹介によるライティングが中心でした。
そこから人脈を着々と広げつつ、フリーとなって2年を迎えるころには
いよいよ本来目指していた「雑誌」に携わるチャンスも到来。
社会人1年目の営業研修時代にお世話になった先輩が
出版社へ転職し、雑誌の執筆に声をかけてもらったりするなど、
編集部とのパイプが構築されるようになります。
そこからの佐藤さんは大活躍!
今や雑誌やWEBでの連載に加え、
誰もが名前を聞けばパッと顔が浮かぶような有名な方々へのインタビューも
数多く手がける日々です。
さて・・・
私は今回のインタビューで、絶対に聞いてみたいことがありました。
それは「大きな仕事への覚悟の仕方」。
数々の大物著名人へのインタビューをこなし、
もはや百戦錬磨となりつつある佐藤さんですが・・・
私だったらそれが自分にとって大きな「チャンス」だとしても、
思わずおののいて「ちょっと待って!」と言ってしまいそう――。
佐藤さんは、どんどん大きくなる仕事に立ち向かうことが
怖くないのでしょうか?
――そう尋ねると、想像以上にシンプルな答えが返ってきました。
「だって、それが私のやりたかったことだから!
そういう大きな影響力を持つ人や、求心力がある人の熱を伝えたいと思っていた。
だから、むしろ大きな仕事が来たときは、『待ってました!』という感じ」。
・・・ごもっとも。
背筋をシャンと伸ばして、目をキラキラと輝かせながら答える佐藤さんに、
ぐうの音も出ません!
それでも、私だったら大物を前にした瞬間に
「身の程知らずと思われたらどうしよう・・・」と
ビクビクしてしまいそう。
佐藤さんはそんな気持ちにならないのでしょうか?
「もちろん、すさまじい緊張感に襲われることは日常茶飯事。
けれど、かつて伊勢丹のバイヤーや国会議員としても活躍された
藤巻幸大さんにインタビューさせていただいたとき、
『人の名前で自分を大きく見せない』という言葉を
教えてもらったんです。
私は、確かに多くの『すごい方々にお話は聞いている』けれど、
話を聞く『私自身がすごいわけではない』んですよね。
自分を自分以上に見せようと思うと、緊張感は増すばかりなはず。
だからこそ私は、どんな相手へのインタビューでも
『等身大でよろしくお願いします、教えてください』と向き合っています。
あまり怖いと思わないのは、そのせいかな」。
さらに続けて、佐藤さんはもう一つ大切な視点を話してくれました。
「お話を聞きに行くのは、
私が気にいられるためでも、友達になるためでもない。
話してくださる方だって、私のために話しているのではない。
どんなインタビューも『話を聞く』その先に、伝えたい読者がいる。
私がインタビューに臨むときは、
『私と一緒に読者に届けませんか?』というスタンスなんです。
もちろんいい場になるように、準備は万全にするけれど…
たとえ『今日のライター何もわかってなかったな』と思われてしまったとしても、
『仕方ないから教えてやろう』とでも思って話してくれた内容がいいものだったら
それはそれでラッキーだし、
私がどう思われても、聞いたお話を形にして届けることで
誰かの力になるなら、それでいい。
『やだな~、こわいな~』という思いを言い訳にして
安全な場所を選んでいる自分の方が嫌なんです」。
静かな雨に包まれるGOKOTIの中。
カウンターをはさんで佐藤さんとじっくり言葉を交わすうちに、
大事な場面であるほど私の足にしぶとくしがみつくビビり虫の正体は、
「自分をよく見せようとする」気持ちなのかもしれないと気づかされました。
ついつい私は
「うまくできるか」
「私はどう見えているか」
「身の丈にあっているか」
という考えが先に立ちがちですが・・・
それは自分を守る戦いに挑むがごとく
相手やチャンスに「立ち向かおう」とするから。
けれど、佐藤さんは、相手の隣に穏やかに腰掛け、
一緒に「目的地」を見つめていました。
これまで心のどこかで、
「チャンスは覚悟を決めて挑むもの」だと思っていましたが…
「なりたい自分」「叶えたいこと」へ向かう道の途中にやってくる
ひとつの自然な出来事として
「等身大でしなやかに受け入れる」という方法もある――
そんな、新しいチャンスへの向き合い方を、
佐藤さんから教えてもらった気がします。
さて、次回はいよいよ佐藤さんへのインタビューの最終回。
どんな未来を見ているのか、その風景についてお伺いしていきましょう。