「確信」の向こうに待つのは、最高の未来。佐藤久美子さん vol.1

「はじめの一歩の踏み出し方。」 佐藤久美子さん vol.1

 

この連載「はじめの一歩の踏み出し方。」は、
大切な時ほど足踏みしがちな私・矢島美穂が
インタビューを通してあの人の「はじめの一歩」を覗いていこうというもの。
読んでくださる方の、より自分らしい明日や未来を迎えるための
少しの勇気とヒントにつながりますように。

 

 

今日からお話をうかがうのは、
フリーランスの編集者・ライターとして活躍する
佐藤久美子さんです。

これまで数えきれないほどの
芸能人や著名人へのインタビューをしてきた佐藤さん。
雑誌を中心に多くの連載や執筆を抱え、
忙しい毎日を送っています。

実は彼女、かつて私が新卒で入社した
広告制作会社の同期の一人。
佐藤さんは結婚情報誌を制作する部署に配属され、
20代のうちに退職してフリーランスとしての活動を始めました。

こんな風にみなさんにご紹介すると、
エネルギーに満ち満ちた、ギラギラした姿を想像するかもしれませんね。
ところが、私が知る佐藤さんはむしろ逆。
彼女の周りには、いつも穏やかで落ち着いた空気が漂います。
そんな彼女が乗ったボートは、私たちが少し目を離している間に、
気づけばスーッと向こう岸まで進んでいて――。

同期といえども、なかなかその「キャリア」や「歩み方」について
膝を突き合わせてじっくり話を聞いたことがなかった佐藤さんに、
「一体どんな風に、手にしたオールを動かしているのか?」を聞いてみたいと思い
インタビューをお願いしました。

 

今回向かったのは、湘南・鎌倉。
江ノ電が行きかう小さな踏切を横目に見ながら
細い路地を進んだ先にある
「GOKOTI YUIGAHAMA」(ゴコチ 由比ヶ浜)にお邪魔しました。

こちら、実は佐藤さんご夫婦のお店。
全国の作家さんの手から生まれる器やアクセサリー、
地元イラストレーターとのコラボによるオリジナルTシャツなどが並ぶ空間です。

佐藤さんとご主人、お二人とも本業は別にありながら、
週1日だけオープンするこのギフトショップを営みつつ、
愛犬のゴローと一緒に暮らしています。

 

佐藤さんはもともと雑誌が大好きだったのだとか。

「私、『サッカー日本代表』『アイドル』『音楽』・・・と、
その生きざまに心揺さぶられスイッチが入ると、
『どういう背景でこういうスタイルができたんだろう?』と
とことん知りたくなる性分。

私たちの10代の頃はネット黎明期だったし、
そうなると大きな情報源は、雑誌でしょう?
ページを何度もめくりながら
『こんな人がいるなんて、世界って素晴らしい!!』と感動していました」。

ご自身のショップでも扱う
作家モノのグラスでお茶を飲みながら
穏やかにゆったり語る佐藤さん。

そんな力の抜けた自然な様子からは想像もできない
情熱を帯びた強い意志が口をついて出てきました。

「実は高校に入るころには『ライターになる』ことは決めていたんです。

どんなに世界に素敵な人がいても、
それを伝えてくれる人がいなければ
私はその事実を受け取れなかったはず。
だったら、その『間をつなぐ』役割になりたい。
さらに言えば、そんな素敵な人の熱を
最初に受け取るところから携わりたい。
――『インタビューをしたい』と思っていました。

自分では覚えていないのですが・・・
高校の友達の話では
『将来はライターになって、28歳で結婚して、犬を飼う』って
言っていたらしくて。
いま答え合わせすると、すべてその通りになっていて
自分でもびっくり!(笑)」。

佐藤さんは喜怒哀楽はあまり人に見せず、
率先して自分を語るということをしないタイプ。
それにも関わらず、当時の周りの人に話を聞いてみると
多くの人が佐藤さんの描く未来を知っていたと言います。

自分でも知らぬ間ににじみ出ていた思い―。
佐藤さんの内に秘めていた気持ちが
どれだけ強いものだったのかが
手に取るように感じられました。

 

その後の進路選びにおいても、
着々と目的地に向かって歩みを進めていきます。

「私は神戸出身なのですが、
東京の大学に進学することを最優先に考えていました。
マスコミにかかわるなら、10代のうちから
一番大きな街である東京で世の中を見ておきたい、と思ったから。

そして学んだのは『社会心理学』。
ゆくゆく雑誌に携わりたいと思っていたので、
『世の中の人々がどんなことを考え行動しているのか』を勉強したくて」。

ちなみに、「書く」ことを追求するという意味で
例えば「文学部」などの道は考えなかったの?と
素朴な疑問をぶつけてみると・・・。

「『昔から書くことが好きか?』と問われれば
全然そんなことはないし、
今でもきっと
『周りの人よりも書くことが好き!』というわけではない。(笑)

私、子供の頃を振り返っても、
作文より、例えば絵を描いて表彰されることの方が多かったんです。

私がライターになりたいと思った、その興味の芯は『人の心』。
書くのは手段ともいえるかも」。

「ライター」という肩書でありながら、
「書く」ことそのものに執着しないような意外な答えに驚きつつ、
さらにもう一つ気になったことを聞いてみました。

佐藤さんが道を定めたのは、
世の中を見回せば知らないことの面積の方が多いまだまだ若い時期。
私だったら「これになる!」と決めること自体に腰が引けてしまいそうです。
「これから気持ちが変わるかも…」という心配はなかったのでしょうか?

「・・・思わなかったなぁ。そんなこと、思いもよらない!
出会いが多いことも、
素敵な話を聞いて、それを伝えることも・・・
『最高じゃないか!!』って思っていました。

AかBかCか、どの職業にしよう・・・という選び方ではなく、
『私が最高だと思えた』のが『ライター』でした」。

 

お話を聞いていて改めて感じましたが、
佐藤さんは、勢いと思慮深さを持ち合わせた聡明な人。

私だったら、それだけの様々な可能性と能力を手にしていたら、
その未来はよりどりみどりだからこそ
「もう少しわかってから決めよう」「とりあえず今は潰しがきく方へ」と
ついつい決断を先延ばしにしてしまいそうですが・・・
「唯一のもの」に出合ったと感じた佐藤さんは、
揺れも迷いもせず「十代の自分」を信じて歩き出します。

確信が得られた『今の自分』を、そのまま信じていい――。

ついつい「今」ではなく「未来」にばかり頼りがちな私にとって、
若かりし佐藤さんの姿から大きな気づきを受け取った気分です。

さて、佐藤さんはこのあと、
どのようにして確信を形にしていくのでしょう。
次回は社会人経験を経て独立していくまでのお話をお伝えしていきます。

 

 


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