「負けること」の練習

このコンテンツ「もっと早く言ってよ!」は、ずっと前から知っていると思っていたことなのに、この年齢になって「あ、そうか!」とやっとわかった気がする体験を、50代の私が、20代だった私に伝えるつもりで綴っています。

8月になりました。
ノリコさんは、夏休みで毎日テニス部の練習に行っているのではないでしょうか? よく、こんな酷暑の中、毎日何時間もボールを追って走り回っていたよなあと思います。真っ黒で、「サーファーですか?」ってよく言われたなあ。でも、夏を乗り越えると、秋風が吹く頃、パッカ〜ンとボレーが決まるようになったりと、実力がアップするんだよね。だから、ノリコさんもがんばって!

さて。東京では、今オリンピックの真っ最中です。いろいろモヤモヤすることはあるけれど、真剣な選手たちの姿を見ているとやっぱり感動します。そして、いつも思います。緊張して、集中して、でも「この時」を楽しんで、生き生き活躍している選手もいれば、不安に押しつぶされて、重圧に負けて、実力を出しきれないで終わってしまう選手もいる……。その違いはどこにあるんだろう?

ノリコさんも、練習ではピカイチぐらいに上手なのに、試合になったら萎縮してしまうタイプだよね。試合になったとたん、レシーブは入らなくなるし、ボレーしようと思っても、思い切って出れない……。失敗するから、怖くなって余計に恐る恐るしかプレイができず、結局負けて終わってしまう。私もそうだったよなあと思い出します。

そして、今いろんなスポーツ観戦をしながら、「ああ、私も若い時、もっと楽しんで試合をすればよかった!」ってしみじみ思うのです。負けたっていいじゃん。もっと明るく笑って、試合の場そのものを楽しんで、ワクワクとテニスをすればよかったって……。

そして、それってテニスだけでなく、すべてのことに通じるよなあって思っています。何かをやるなら、「今」を楽しむ方がお得! なのにその最中は、あれこれ余計なことばかり考えて、「今」を楽しめていないなあって。
たとえば、ライターとして好きな記事を書き、食べていけるだけで幸せなのに、「フリーランスって不安定なんだよな」「これから先どうなるんだろうな?」って、「今じゃないこと」ばっかりを心配して、暗い気分になって、足元がフラフラする……。そんな自分を発見するたびに、私は若い頃のあのテニスの試合を思い出します。そして、「負けたっていいじゃない」「今、ボールを打つことを楽しもうよ」って自分に自分で応援歌を歌います。

ねえ、ノリコさん! 試合で萎縮しちゃうのは、「負けるのが怖い」からだよね。でもさ、私はこの年齢になって、やっと「負けることってなかなかいいことだよ」って思うようになりました。「負けないように」と、力を入れすぎて、不安を募らせたり、心配したりするよりも、今できることを思いっきりやって、それでも負けたら「負けちゃった!」って頭をポリポリかけばいい。
そしてさ、たぶん負けたって、誰もノリコさんのことを責めないよ。そりゃ、多少がっかりされることもあるかもしれないけれど、天地がひっくり返るぐらい困った状態には絶対にならない。取り返しがつかないわけでもない。負けたら、また練習がんばろ〜って思えばいいだけ。このいたって普通のことにやっと気づきました。

だから、ノリコさんは、上手くやろう、失敗しないようにしよう!と完璧を目指すより、「負ける練習」をした方がいいと思います。私はずっと優等生だったから、「負ける回数」をいかに少なくするか、に注力してきました。でも、負けることで学ぶことはめちゃくちゃ大きいよ、「負ける回数」だけ、学ぶことができるし、「負ける回数」が多いほど、生きる筋肉がつく……。だから、若いうちに「負ける」経験をいっぱいしておいたほうがいいと思うのです。

私は、歳を重ねて多少図太くなったから、今なら「負けられる」かも?と思っています。50歳を過ぎての「負ける練習」の開始です。負けることで、今までとは、またちょっと違う風景が見えるかも?とワクワクしています。


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