「倒産?」の二文字が頭に浮かんだ日  板倉直子さん vol,2

今の時代だからこそ、軽やかに、伸びやかに、自分の軸足を変えてみた、という人に話を聞いてみたい、
と始めた連載「新しい暮らし方、働き方」。
5人目は、島根県松江市で洋服のセレクトショップ「Daja 」を営む板倉直子さんです。

 

vol.1では、コロナ禍で変わった仕事時間と家時間について伺いました。

昨年4月、「新型コロナウィルス感染症」という言葉が
私たちの生活に入ってきてまもない頃、
私たちは、大阪の阪急梅田本店で開催する予定だったイベントの準備を進めながらも
「本当にできるのかな?」と不安な気持ちを抱えていました。

そして、やはり中止が決定。
板倉さんたちは、このイベントにむけて数多くの商品を仕入れていました。

板倉:
「大人になったら、着たい服」のイベントは、私たちの会社をあげての一大イベントでした。
このために用意した新作の服が、3月後半ぐらいからメーカーから入ってきて、倉庫に並び始め、
そこまではいつもの段取りで、間に合ってよかった、と思っていたのですが……。
3月の終わり頃ぐらいから世の中の雲行きが急に怪しくなってきて……。
スタッフに行ってもらうのはやめて、私だけ行こうと考えたり、
やっぱり私自身も行くのをやめた方がいいと思い始めたり。
そんな中で中止が決まりました。

今だから冷静に話せるけれど、売り先がない在庫を抱えることになって
ことの重大さに体も心も頭も麻痺してしまい、
大変さが把握できない、という状況でした。
10日間ぐらい、ぽか〜んとしていましたね。
少しずつ現実が飲み込めてきたときに、頭に浮かんだのは「倒産」の二文字でした。
それまでお陰様で「Daja」の売り上げは好調だったけれど、
さすがに今回の在庫と、その支払額は膨大でした……。
ストレスで扁桃腺が腫れて、39度の熱を出しました。
かかりつけ医に電話をしたら、
病院に来てもいいけれど、車から降りないで、と言われて……。
看護師さんが防護服みたいなものを着て、車から一歩も出ずに診察を受けたんです。
幸い薬を出してもらって家で寝ていたら、数日で治ったんですけど」

 

板倉さんに話を聞いていると、時々こういうことが起こります。
「え〜っ! あの時そんなに大変だったの?!」って……。
私もイベント中止が決まった後、板倉さんと確かに話したはずなのに
声はいつもの通り明るく、しっかりしていて「でも、なんとかしなくちゃ」
と言っていらしたいた気がします。

自分の不安を周りに言っても何の解決にもならない。
不安を口に出すことで、帰ってまっすぐ立っていられなくなる。
今まで数多くの経験を積んでこられたからこその
板倉さんの「無言」に感動したのでした。

さらに……。

板倉:
同時期の3月末に検査でCTを撮ったとき、肺に影があると言われたんです。
大変な病気かも……と考えると崩れ落ちそうでした。
もう私の運も尽き果てたかなと思って。
でも、落ち込んでいても目の前の在庫は減らないし……。
店舗は休んでも、オンラインショップは動かしていたので、
今できることは、毎日のように洋服や私の着こなしを写真に撮ってアップしていくことだけ。
それに没頭して、がむしゃらにやっていたらあんまり不安なことも途中で考えなくなりました。

 

なんていうことでしょう!
確かに「ちょっと入院するので」という連絡をもらっていました。
あの時、板倉さんはそんなにも「どん底」にいたなんて、思いもしませんでした……。
私ったら、なんて呑気に電話で話していたんだろう……。
今回改めてお話を伺い、初めて知った事実でした。

実は、このコロナがやってくる1年前から、
板倉さんは「Daja」を今までより一回り小さくしようと動いていました。

 

板倉:
お店の30周年を機に、働き方や会社の在り方を変えていかないと
この先運営するのが厳しいかなと考えていて。
30周年の2年ぐらい前から縮小企画を打ち立てて、
実際に30周年のイベントが終わった夏に店舗を小さくする工事を始めたんです。

 

当時「Daja」は、売り上げをぐんと伸ばし、上り調子だったはず。
どうして?と聞いてみました。
「実は私、その時縮小じゃなく、もうお店を止めようと思っていたんです」と板倉さん。
え〜!
どうして?

板倉:
応援してくださる方には申し訳ないんだけど、心身ともに限界を感じていたんですよね。
私が走り続けないと、大きな「Daja」という船を維持できないというなら、
ちょうど30年ぐらいで、その荷物をおろしたいなと思って。
板倉さんの仕事量を減らして、スタッフに任せればいいじゃないですか?』
とも言われたんですが、それはなかなか難しいなって思って……。
やめて、具体的に何をしたい、ということはなかったんだけど、
家を建てて、土のある暮らしがしたいなあなど、漠然と思っていましたね。

それでも、思いとどまったのは
「従業員はどうするの?」
という夫のひとことがあったから。

板倉:
そうだよね、って思いました。
そして、改めて『本当に辞めたいのかな、私?』って自分の心に聞いてみたら
辞めたいんじゃなくて、
『この忙しい状況が嫌なのかもしれない』って思ったんです。
仕事は好きだし、辞めたくないっていう気持ちは確かにあるんだけれど、
疲れて果てて、全部がいやになってしまった、という感じ。
そう冷静に分析してみたら、
自分のためにもうちょっと続けたいなって自然に思えました。
だから縮小して、母体を少しちっちゃくして、
エンジンをフルスロットルからローギアに入れ替える。
今まで駆け足だったのを、早歩きぐらいにスピードダウンして、
もうちょっと楽しみながらやってみようって思ったんですよね。

 

こうやって、自分のことをきちんと冷静に分析し、
次の1歩を計画できるのが板倉さんのすごいところ。
私は、「未来の予定」をたてることが苦手です。
「そんなこと、今考えてもわからないもん」と言いたくなるタイプ…….
でも、板倉さんの着実な歩み方を見ていると、
未来を想定する→今できることを考える→何かを変えてみる→変えた結果を分析する→さらに改良する
というプロセスの中で、
どれほど確かなものを手にできることか! と驚きます。
ここが、私がいちばん真似したいところ。
板倉さんに会うたびに、その思考のプロセスを聞いて、
ふむふむ、なるほど〜と、実際の板倉さんの歩み方を例文にして、
人生のレッスンを受けているような気分になります。
だから、板倉さんといろんな話をするのが好きなのかも!

 

それにしても、トップギアからローギアへ入れ替えられるには、何をどうしたらいいのでしょう?
次回は、板倉さんの「ひとまわり小さな生活」について伺います。

 

 

 

 

 

 


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