「好きなこと」は、仕事以外でもできる。

このコンテンツ「もっと早く言ってよ!」は、ずっと前から知っていると思っていたことなのに、この年齢になって「あ、そうか!」とやっとわかった気がする体験を、50代の私が、20代だった私に伝えるつもりで綴っています。

 

ノリコさんは、好きなことを仕事にしたいって、頑張っているんだよね?「書く」ことが好きだから、ライターになりたい……。20代でその入り口にたどり着いたことは、とっても幸せだと思います。

でもね、「好きなことを仕事にしなくちゃ、幸せにはなれない」っていうのは、ちょっと違うと思うんじゃないか。このごろ、私はそう考えるようになりました。
20代から今まで30年以上も、「好きなことを仕事に!」と呪文のように唱えて、手探りで「自分の仕事は自分でつくる」ということをがんばってきたんですけどね……。

でも、歳を重ねた今、私が楽しいことといったら、週に1回通っているテニスで、先週よりバックハンドがちょっとうまくなることだったり、初めて高加水生地のパンを焼こうと、冷蔵庫で12時間寝せた生地をそうっと覗くことだったり、収納のシステムを変えて、暮らしをちょっと便利にすることだったり。あれっ? 仕事以外でもあれこれ楽しいじゃん! と感じるようになりました。人生の優先順位の一位が、ずっと「仕事」だった私にとって、これは大きな驚きでした。

うちの夫は今「自分の好き」とは少し距離を取ったところで仕事をしています。でも、彼は歴史が好きで、お城が好きで、バイクが好きで、旅が好き。そこはちっともぶれません。そして、コロナ以前はたった1日でも、「あの温泉行こか?」と私を連れ出してくれたもの。話題も知識も豊富で、私はさっぱりわからない世界が、彼の中に確実に育っていることを感じます。昔は「どうして、好きなことを仕事にできるよう、頑張らないの?」と責めたこともあったけれど、今は、これが彼の人生の楽しみ方なんだなと理解できるようになりました。

だから、ノリコさんにね、「好きなことを仕事に」ってがんばってほしいけれど、同時に道はそれだけじゃない、っていうことをちょっと頭の片隅に留めていてほしい。幸せになる道は1本だけじゃなく、あっちから登っても、こっちから登っても、同じ頂上に着くのだと思います。

私はここ数年、イベントで百貨店の売り場に立つことがあります。販売なんて絶対無理!と思いながらも、そこで学ぶことがいっぱいありました。出展者のセレクトショップオーナーがディスプレイをちょっと変えるだけで、売れ行きが変わること。お客様と雑談しているように見えるのに、その人にとって必要な服を、パパッと組み合わせて提案できるスキル……。ああ、私の周りとはまったく違う世界で、こんなプロがいるんだ、と感動しました。「書く」という仕事とは、まったく別物だけれど、そこにも、発見とワクワクがあると知りました。

「パーマネントエイジ」の林多佳子さんは「たまたま夫がファッション業界だったから、今洋服を売っているけれど、彼が八百屋だったら、私はすごく楽しくニンジンを売っていると思います」と語ってくれました。

ノリコさんは、今一生懸命自分の「仕事」を作っている最中だよね。自分にとってのやりがいはなにか? ワクワクすることはなにか? それをひとつずつ見つけていって、ふと気づいた時、その足跡が「自分の仕事のかたち」をつくっているのだと思います。でも、「これじゃなきゃ」と思いすぎると、そこから少し外れただけで、苦しくなるし、悲しくなる……。
自分が「これ」と信じている道の横に、もう1本の道があるかもしれない。前を向いて一直線に歩くだけじゃなく、肩の力を抜いて、ちょっと首を横にむけてみる……。そんなゆとりを、自分に許してもいいんじゃないかなあ。

「好きなこと」は、仕事以外でもできる。
これは、私が30年以上かけて、やっと見つけたことです。ノリコさんも、「枠の中の好き」以外の「好き」を探してみたらいいんじゃない? 私は、やっとこれから、今までよりもっと自由に「好き」を楽しみたいと思っています。


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