「はじめの一歩の踏み出し方。」 笛木小春さん vol.2
「はじめの一歩の踏み出し方。」というテーマで連載をお送りしています。
前回からお話を伺っているのは、
老舗醤油蔵「笛木醤油」の女将を務める笛木小春さん。
Vol.2となる今回は、
転職と共に始まる新たな日々から、
小春さんの「一歩の踏み出し方」を覗いていきます。
新卒で入社した鉄道会社の風土に疑問を抱き、
改めて自分の興味に素直に歩むために退職した小春さん。
社会人第2ステージとして選んだのは、
大手ファッションビルを展開する企業でした。
「20代半ばというタイミングで自分探し的な時期も重なって。
人生の舵を大きく切る意味で、あえて全国転勤もある企業を選びました」。
実は、転職先が決まった頃、
未来の夫・正司さんとのお付き合いが始まります。
話はとんとん拍子に進み、
なんと入社するまでの間に結婚まで決まっていたのだとか!
とはいえ全国転勤もあるため、
入籍後はしばらく夫婦別々に暮らす生活もありかな・・・なんて
柔軟に考えていたのだそう。
そうして迎えた、社会人5年目のスタートとなる4月。
「同業界から転職した同世代の中途組は即戦力として配属されていったけれど、
私の場合、社会人4年分のキャリアは畑違い。
人事担当者に、“新卒入社組と勉強させてください”ってお願いして
一緒に座学研修を受けさせてもらうところからスタートしました」。
今の自分を客観的に観察し、必要であれば周りに働きかける。
ルールに縛られず、見栄を張らず、物怖じしない―
そんな小春さんの賢さを垣間見た気がします。
ところが―。
ほどなくして、お腹の中に赤ちゃんを授かりました。
「せっかく期待して私を選んでくれたであろうに、
申し訳ない・・・という気持ちがありました。
でも、通勤しやすい店舗への配属など、
会社はむしろ“おめでとう!”というムードで快く処遇を考えてくれて
本当にありがたかった」。
無事長男を出産後は、育児に悪戦苦闘しながらも、
周りのサポートを得ながら何とか職場復帰。
会社への感謝の思いを仕事で返したいという思いでいっぱいだったのだそう。
「16:30までの時短勤務という形で復帰しました。
私のために会議時間を前倒ししてくれたり、
店舗閉店後にやらざるを得ないテナントの入れ替えに立ち会えなくても
みんな嫌な顔を全くせずに引き受けてくれたり・・・
本当に恵まれた職場だったと思います。
でも、復帰の時の『役に立ちたい』という気持ちは全然結果にできなくて。
むしろ周りがやりにくいだろうなぁ、というジレンマがありました。
そんな葛藤を抱えながら仕事を続け一年が経とうとするころ、
再び妊娠したことがわかって・・・。
その先の未来を見たときに、ちょっと行き詰ってしまった。
当時夫は会社に加えて地元の団体にも所属し始め、真夜中まで不在の日々。
私はといえば土日祝日も出勤があって…
この状況の中、育児と仕事を両立していくというのがイメージできなくて」。
2人目の産休前から退職という選択肢がチラついていたものの、
「休みながら考えてみたら?」という職場からの寛容な提案もあり、
育休を取りながら自分の生活と気持ちを見つめなおす日々を迎えます。
「確かに、バリバリ働き続けるママ社員たちもいました。
例えば、保育園に迎えに行ったあと事務所に子連れで再出勤、という人。
放課後学童にいる区の子どもたちを、
バスがまとめてナイトステイ先に送っていく、という仕組みを活用している人。
その姿を見聞きして、本当に尊敬はしたけれど、
そこまでできるか?と自分に問いかけたときに、
経験不足の私には自信が持ちきれなかった。
しかも、私が住んでいる田舎町に、
そんな都会的なサービスがそもそも存在しない、という現実もありましたし」。
未来にかかった靄がスッキリ晴れることがなく、退職を選択した小春さん。
「なんだか、流されるままの人生でしょ?」と言いますが、
いやいや、実は私は「とても誠実で賢いなぁ」としみじみ考えていました。
というのも、とても冷静に「現実」を分析し、
「流れを見極める目」を持っていたから。
「その後正直しばらく専業主婦って思っていたものの・・・
自分がお金を稼がなくなった瞬間に
気が引けてスーパーで好きなプリンも買えなくなっちゃったんです!
専業主婦になってみて初めてわかる気持ちや
見える世界の変化がありました。
そんな中、制約のある中でも何かできたらとハローワークに通っていたら、
“社会保険労務士事務所”の事務職を紹介されたんです。
じゃぁせっかくなので・・・ってパートの面接に行ったら、
なんと採用してもらえて」。
そして、さらにここでも
小春さんの「現実と流れを見極める」力が発揮されます。
「夫は元々専業主婦を希望していたけれど、
それを望む本人が昼間も夜中も土日も家にいないわけだから、
私が家にいてもいなくても、
やることがきちんとできていればいいんじゃないか、って思ったんです。
採用してくれた事務所は
『夏休みは子供も連れておいで』と言ってくれるほど寛容で
保育園や幼稚園を活用すれば誰の手も借りずに済むのではって。
そんなわけで、夫には『私、仕事決まったから』って事後報告だったなぁ!」
確かに、筋が通っていて、反論の余地もありません!
そのたくましさと決断の速さに、思わず大笑い!
「とはいえ、実際は、子どもの発熱や病気で義母にたくさんお世話になったんですよ。
でも、その時は勢いで進んでみたんです。」
最初はいわゆる「雑用」からスタートした社労士事務所の仕事ですが、
「保険」や「年金」「扶養」など自分の生活に直結したことを扱うため、
知識を得るごとに会社や身の回りの仕組みがわかるようになり
仕事も面白みを増していったのだとか。
そうして徐々に小春さん自身も
いくつもの中小企業を担当する立場となっていきます。
多くの社長さんに頼られ、
就業規則の素案を作成したり給与計算をしたり、時には面接に立ち会ったり・・・。
充実したパート生活を続けながら、さらに三男も出産。
事務所に復帰したところで改めて今後について考え始めたと言います。
「ちょうどこの頃から、
自分はもう、この地から出ることはないし、
自家用車が重要な足になるような駅もないこの場所から
都心に出てバリバリキャリアを積むことは現実的ではないって、
再認識し始めたんです。
だったらワークじゃなくて、ライフを充実させよう!って。
三男を生んだころから育児を楽しめるようになってきたし、
もう一人子供が増えたら嬉しいなぁ、って考え始めました」。
現実に抗うのではなく、しなやかに新たな道を選び続ける小春さんは、
それから数年後、長女を出産することとなります。
次回は、4人のママになった小春さんが、
いよいよ醤油屋の女将になっていく様子をお届けしたいと思います。