サラリーマン生活の一歩外に出る、という選択 山本智さん、綾子さん vol.2

 

昨年からの世の中の流れの中で、
当たり前だったことが当たり前でなくなり、
改めて「私が歩いて行く道って、どこだったっけ?」と考える機会が増えました。

そこで、一足早く新たな道を見つけた方に
新しい暮らし方、働き方についてお話を伺うこのコンテンツ。

私のインタビューなどの文字起こしを手伝ってもらっていて、
このサイトでも、以前「きときとノート」を書いてくれていた、あやちゃんこと山本綾子さんと
夫の智(さとる)さんをご紹介しています。

長野県伊那市に、築150年の古民家を買い移住したというあやちゃん夫婦。
前回は、移住のきっかけが、智さんが仕事を辞める決意をしたことだ、というお話を伺いました。

では、智さんはどうして仕事が辞めたくなったのでしょう?

「大学を卒業して、入社した時から、仕事は辞めたかったですね」
と聞いてびっくり!

東京浅草育ちの智さん。
「おじいちゃんに連れられて、毎週近くの川に釣りに行ったり。
アウトドアが好きでしたね。
でも一方で両親に厳しく育てられて……。
算盤やピアノを習い、発表会には白いタイツに革靴で出たり……。笑
勉強して、いい子になることを求められて、ずっと素の自分が出せませんでした。
その反動が、50代になって出ちゃったかな」と笑います。

 

 

ふたりが結婚したのは、今から4年前のこと。
あやちゃんが33歳、智さんが49歳の時でした。
当初は東京23区内に住んでいましたが、もっとのんびり暮らしたいねとあきる野市に引っ越し。

「さっちゃんの仕事が新宿だったので、通勤時間が1時間ぐらいなら……
と探したら、ギリギリ都内で物件が見つかったのがあきる野市だったんです。
あきる野市なんて、全然知らなかったけれど、
家を見に行ってみたら、川が目の前で、一軒家なのに家賃も安くて……。
すぐに気に入って、見に行ってから1か月後には入居してました」とあやちゃん。

通勤は大丈夫だったんですか?と智さんに聞いてみると。

「通勤快速もあったり、大丈夫でした。
毎日、ちょうど中間地点の拝島駅で気持ちが切り替わるんです。
あそこから先は自然の中に入って行きますから。
帰り道、そこに着くとほっとしました。
逆に拝島から都心側は仕事モードです。演じる自分は拝島駅からでしたね」

自分たちがほっとできる場所。
自分らしくいられる場所。
その頃からご夫婦は、まだ見ぬどこかを探していたよう。
住む場所って大事なんだなあ、と改めて感じさせられました。

 

 

あきる野市に引っ越してから、畑を作り始めたふたり。
最初は庭ではじめ、知人から紹介してもらった耕作放棄地を
借りられることになってからは本格的に取り掛かりました。

「胸の高さまで草ボーボーで、2人で頑張って開拓しました。
あの時に、はじめてつなぎを着て、体を動かしたんですよね。
今思えば、本当にここにくるためのいい練習ができたなあって思います」とあやちゃん。

主に畑仕事を担当したのが智さん。
仕事が休みの週末はいつも畑で過ごしていたそう。
「さっちゃんは育てるのが上手なんです」とあやちゃん。

「あやちゃんからいろいろ知恵を授かって……。
自分ではあんまりやらないんですけど(笑)、
自然農法とか、有機栽培とか、そういうものがあるんだって教えてもらったんです
薬も肥料もやらないでやってみようと、『なんちゃって自然農法』を始めました。
最初はイボだらけの人参ができたり……(笑)
根菜って、ちゃんと耕さないと伸びていかないんですね。
図書館で本を借りたり、『野菜だより』っていう雑誌を年間購読して学びました」と智さん。

こうしてメキメキと腕を上げ、
玉ねぎやじゃがいも、空豆やオクラ、トマト、ナスなど
食べるのが追いつかないほど収穫できるようになったそう。

「丁寧に足を運んで、面倒を見てあげれば、結果はでますね」と智さん。
『私が寝ていても、朝早くからひとりで畑に行っていたもんね」とあやちゃん。

どうやら、この経験が、ふたりはまだ気づいてはいなかったけれど、
今回の移住の序章となっていたようです。

 

 

それにしても、仕事を辞めるというのは大きな決断だったはず……。

「どうかなあ?
今53歳なんですけれど、次の人生どうしよう?って考えたんです。
サラリーマンをやっていると、60歳近くなるとお払い箱で、
今は65歳まで働けますけれど、
いわゆる組織の歯車になって、演じながら、いい格好をしながら働かないといけない……。
この歳になると管理職にもなったりして、部下の生活も守らなきゃいけないし。
仕事自体は嫌いではなかったんですよ。
でも、常にこのままでいいのかな?っていう気持ちがあって‥‥」と智さん。

そんな智さんの思いと、専業主婦で家にいたあやちゃんの求めるものが
カチリとあったよう。
サラリーマン生活と家での生活。
ふたりの毎日の舞台は違ったけれど、
きっと「ここじゃない」という違和感と、
求めるものの先は一緒だったんだと思います。

ただし大きな問題は、移住してどうやって食べていくか……。
みんなそこが不安だから踏み出せません。

次回は、ふたりが、どうやって定期収入をもらう世界から
一歩外で出たのか、
そのお話を伺います。

撮影/近藤沙菜


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