「はじめの一歩の踏み出し方。」 溝口奈々さん vol.2
「はじめの一歩の踏み出し方。」というテーマで連載をお送りしています。
前回から引き続きお話を伺っているのは、
埼玉県・さいたま市でカフェ「UP COFFEE」を営む溝口奈々さん。
Vol.2となる今回は、
溝口さんの「カフェと共に歩む人生」のはじまりを辿りながら
「一歩の踏み出し方」をさらに紐解いていきます。
社会人第一歩となるインテリアショップでの勤務を通して
「自分が本当に好きなのは“人”である」
「空間の居心地は“人”が作り出す」という気づきを得たそのとき。
次に働きたい場所として溝口さんの頭に浮かんだのが、
大学時代にアルバイトをしていた大手コーヒーチェーン店でした。
実は、そのアルバイトに至るまでも、熱い経緯があったのだそう。
大学3年生当時、キャンパス近くに新店がオープンしたのを目にし、
アルバイト募集は出ていないにも関わらず
電話で直談判して面接をお願いしたと言います。
「そのコーヒーチェーン店に初めて行ったのは中学生の頃。
目に飛び込んできたスタッフの笑顔や、
“歓迎されている”と全身にひしひしと感じられる雰囲気。
足を踏み入れた瞬間に私を包む空気感に心惹かれて・・・
それを作る側になりたいっていうのがそもそもの動機だったんですよね」。
いま答え合わせをしてみると、
実は心の奥底ではまさに「 “人”が雰囲気を作り出す」ことを
当時からしっかりと理解していたことがうかがえます。
さて、かつて働いたコーヒーチェン店の扉を再び叩いた溝口さんは、
契約社員として再入社しました。
「“人々の心を豊かで活力あるものにするために“という会社のミッションに
心から共感する日々でした。
お客様や仲間とコミュニケ―ションを重ねながらミッションを体現する面白さに、
ドハマりしていました」。
入社後1年ほど経つと社員に登用され、やがて店長という立場に。
ポジションが上がると、お客様との直接的な接点は減り、
また裏側で「モノ」を相手にする時間も増えていきそうですが・・・
そのあたりに葛藤やもどかしさはなかったのでしょうか?
「店舗管理業務は副店長に教えつつ“信頼して任せる”ことを意識していました。
副店長の育成もしっかり行いながら、
私自身は得意を生かした”人を相手に店に立つ”という時間も最大限持つことができる。
コーヒーというツールを通してお客様や仲間とつながり笑顔を生み出すのが
楽しくてたまらなかった!」
そんな“お店”や“空気”を創り上げる楽しさにどっぷりつかりつつも、
流れに身を任せるだけで良しとしないのが溝口さん。
「目標がないと使い物にならない」自分のために、
さらなる未来を見据えていました。
「正社員に登用されたときに、本気の目標を新たに定めました。
“いつか自分の店を持とう”という気持ちがグンと強くなったんです。
そこから毎月、財形貯蓄もスタートしたんですよ。
店長を6年務めた後に社内公募を使って広報に異動したのも
”独立に備えてブランディングやマーケティングを学べる”というのが一つの動機。
希望部署からいつ公募が出るかは全く分からなかったので、
それまでは自分なりに学んだマーケティング知識に基づいた店舗運営を行ったり・・・
チャンスが来たら絶対異動希望が通るように準備を積み重ねていましたね」。
新たな目標を見つけたら、
必ず自分にできる「アクション」をセットにしながら時と経験を重ねる―。
運頼みや他力本願になることなく
常に準備を重ね続けた溝口さんの姿がそこにありました。
努力の甲斐あって、ついに広報への異動という目標も叶った溝口さん。
そこから2年ほど経った頃、大きなターニングポイントになる出来事がやってきます。
「出産」です。
待望のお子さんだったそうですが、1年の産休・育休を経て広報に復職。
仕事をペースダウンして成長を近くで見守る、という選択肢はなかったのでしょうか?
「実は私、今振り返ると産後はかなり滅入っていたんです。
出産したその瞬間に、
24時間の過ごし方の主導権を握るのは“自分”ではなく“子ども”にガラリと切り替わる。
特に赤ちゃん自身の生活リズムが整ってくる産後数カ月までは
授乳もグズりも寝かしつけも、赤ちゃんだけが知るタイミングでやってきて、
その瞬間ごとに一生懸命対応するうちに気付けば夕方になって・・・。
“あぁ、洗濯物一枚すらたためなかった”と涙を流す日々。
正直、自分はもっとうまくこなせると思っていたのに、予想と現実は全然違いました」。
あぁ、わかる!私も二人の子供を持つ母親です。
「こんなに赤ちゃんが寝ないなんて聞いてなかったよね!!」と二人で大笑いしました。
未知の生き物への不安と、愛情を抱く故の必死さに揺れながら
どうやって「自分」を保ち続けていくかは多くの母親が出産後にぶつかる壁の一つ。
だからこそ、溝口さんの決断は―
「子どもは愛おしくてたまらないけれど・・・、
自分が“母親”という立場から離れる時間が
きっちりある方が子どもとの時間を大切にできると思い、職場復帰を選びました」。
とはいえ、いざ時短勤務で復職すると―
例えばプロジェクトメンバーの一員となっても夕方のミーティングに参加できず、
他のメンバーから追って内容をフィードバックしてもらったり・・・と、
できることの範囲が限られることにもどかしい思いが募っていったのだとか。
「自分の息子に“母ちゃん楽しそう!”という姿を見せたい、
そのためにはどんな働き方や仕事ができるだろう・・・って
強く、そして具体的に考え始めた時期でした」。
同時に、母になったからこそ
それまで思いもしなかった新たなイメージが
心の中で形になっていったと言います。
「私自身のしんどかった産後の期間を振り返って、
やっぱり“世の中の母ちゃんたちはすごいな!”って。
そんな母ちゃんたちを笑顔にできる場所を
今の私だからこそ作れるんじゃないか、と思い始めたんです。
たとえ子どもが泣きだしても温かく見守ってくれる空気の中、
お一人さまのママもお店のスタッフやお客様と気軽におしゃべりできて、
来た時よりも元気になれる。
外の空気を吸いたいと思った時すぐに気軽に立ち寄ることができる、
当時の私が本当に求めていたような場所―。
そんな考えを巡らせるうちに、
“やさしい空気が流れて、おいしいコーヒーで心がほどける、
そんな母ちゃんたちのための居場所を作りたい、作るべきだ”という思いが
止められなくなって・・・
広報の仕事は続けながら物件探しを始めました」。
ここでも、早速「アクション」がセットに。
溝口さんにとって、「目標をあたためる」ことは
「プランする」ことではなく「行動する」ことと同義なのかもしれません。
さぁ、母になったからこそ見えたカフェ像を
いよいよ具体的に描き始めた溝口さん。
次回は「UP COFFEE」がどのようにして生まれたのか、
その一歩のお話を深く伺っていくことにします。