「Seed of life」立ち上げ前夜。人には足を止め考える時期がある。平井かずみさん vol.1

 

 

ステイホームが続いた昨年から、
当たり前にできたことが、当たり前でないことを知りました。
「もっともっと」と背伸びすることが、いいことだと信じていたのに
「もっともっと」と伸ばしていた手を、自分の胸の上に置いたとき、
あれ? とスイッチが切り替わった気がしました。

今、ここにも、いいものがいっぱいあるじゃない!

今度は、この手にあるものを大事に成熟させながら、歩き出してみたい……。
そう感じるようになったけれど、
今度は、どう歩いて行ったらいいのか?
私にとって、新しい時代ってなんなのか?
まだその像がぼんやりとしていて、ピントがあっていない……。

そこで、このコンテンツでは、最近になって
新しい暮らし方、働き方を始めたばかりの人に、
ご自身の中で起きた変化について語っていただくことにしました。

第二回は、フラワースタイリストの平井かずみさんです。

 

 

「これはダリアで、こっちはフェンネル」
「これは朽ちたひまわりで、こっちはカシワバアジサイの咲き終わり」

出来上がったばかりの花のタブロイド「Seed of Life vol.0」を1枚1枚めくりながら
平井さんが、花の名前を教えてくれました。

昨年12月に、このタブロイドを発売。
実は、その少し前から制作中であることは聞いていました。
平井さんと知り合って15年ほど。
時にお茶を飲みながら語り合い、時においしいものをつつきながら笑い合って
互いの歩みを、ほどよい距離で見つめあってきた気がします。

そして今回。
いつもとは、ちょっと違うぞ!
と感じていました。

風の時代の扉をくぐって、新しい世界へ飛び込んだように、
このタブロイドは、平井さんにとっての新たな出発でもあるよう。

そこで、何がどう変わったのか、さっそくお話を聞きに伺いました。

 

 

 

そもそも、タブロイドを作ろうと思ったきっかけは、何だったのでしょう?

「実は構想は、2年前ぐらいからあったんです。
虎ノ門ヒルズでフワラーマートを開催したとき、
森岡書店の森岡督行さんに花の本を5冊、選書してくださいってお願いしたんです。
その1冊がスウェーデン人の女性の写真集でした。
それが、新聞サイズのタブロイドの形だったんです。
ほとんどの被写体は花で、新聞の大きなサイズで見るからか、ものすごく心を打たれたんですよね。
私も、いつかこんな風に心を弾ませるものを届けてみたい!と思ったんです」

と教えてくれました。
それから2年。
月日が経ってしまったのは、「自分の中で何を伝えたいかということが、固まっていなかったから」と平井さん。

そして、コロナウイルス感染症が猛威をふるった昨年。
たまたま9月に森岡書店で空いている枠があり、
「かずみさん、ここで何かできない?」と誘われ
「だったら、あのタブロイドを作って、展示販売しよう!」
とカチッとスイッチが入ったというわけです。

 

 

「最初は、イラストレーターの平澤まりこさんと、森岡さんの3人で
”妖精”をテーマにしたタブロイドを作ろうか?って話をしていたんです。
楽しそうで、結構盛り上がったんですが、
よくよく考えてみたら、いやいや待てよ!と思って……。
私は花のタブロイドが作りたかったんですよね。
それで、2人に頭を下げて言いました。
『純粋に、花のタブロイドを1人で作ってみたい』って。
やっぱり自分の中から、何かを生み出さないといけないって。
あの2人だったから、言えたんだと思います」

 

「違う」と思ったら、走り出していてもブレーキをかけられるのが平井さんのすごいところ。
デザイナーは、名古屋の「図録デザイン研究室」のデザイナー、鈴木孝尚さんに
お願いすることに決めました。
ところが……。

そこにどう命を吹き込むかがなかなか決まらない……。
「まずは、自分が何を伝えたいかっていことを、掘り起こさなきゃダメだって思ったんです。
ただ『きれいだね』っていうものを出しても、
誰の心にも残らないし、何も伝わらない…….
やっぱり人の心に何かを響かせるためには、自分が本気で作ったものじゃないとダメだと思って……」

 

 

 

何かを発信したいんだけど、
発信したい種は確かに胸にあるんだけれど、
それがいったい何なのかわからない……。

そういう思いは誰の中にもあるのではないでしょうか?
発信するまでいかなくても、
本を読んで感動したり、
誰かの言葉を聞いて、「なるほど」と書き留めたり……。

ふと気づくと、何度も心をかすめることがあって、
「それ」の前をあっちへこっちへと往復しながら考えたり、話をしたり。
すると、ふとある日
そんなすべてのことの根っこが、ひとつであることを感じる……。

それっていったいなに?
と立ち止まるのは、ある程度の「意志」が必要です。
いつもの生活のままに素通りしてしまったらラクだけれど、
すべての動きを一旦ストップし、
心を鎮めて、耳を澄ませてみる……。

誰にでも、そうやって「ほんとうのこと」を探す時期がやってくる……。
どうやら、平井さんにも、その周期がやってきているようでした。

いったい平井さんは「それ」をどうやって見つけたのか。
次回ゆっくり伺おうと思います。

 

撮影/近藤沙菜


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