伊藤まさこさんに、ビジネスの話を聞きました。vol4

今までひたすら「やりがいのある仕事ってなに?」と考えてきたけれど、
もしかしたら、その横に、ちょっと遠回りだけれど、もっとなだらかな道があり、
時間はかかるけれど、そこをテクテク歩いて登っていけば、
道端に咲く花を眺めたり、
眼下に広がる伸びかな風景に気づいたり、
吹く風の気持ちよさに深呼吸をしたり……。
そんな進み方ができるんじゃないか……。

そこで、今回「新しい暮らし方、働き方」というこのコンテンツで、
今までとは、ちょっと違う仕事の仕方、
日々の暮らし方を始めた人にお話を聞いてみることにしました。

そのトップバッターが伊藤まさこさんです。

 

第一話では、「weeksdays」という新しいお店を立ち上げたお話を。
第二話では、「ちゃんと売れる」にはどうしたらいいか、というお話を。
第三話では、伊藤さんが意識してつくったという「よき循環」のお話を伺いました。

そして、今回いよいよいよいよ最終回です。

 

「これが好き」と確かな「選ぶ目」を持っている伊藤さん。
この連載を読んでくださっている読者の方々が、
そんなセンスを養うには、、どうしたらいいですか?と聞いてみました。

「本当に自分に正直に、自分の好きなものを選ぶ、ってことがいちばんじゃないかな?
私は結構今まで自腹を切ってきたから、それが勉強になったと思います。
自分のお金で買って、失敗すると悔しいじゃないですか?
そういうことを繰り返しながら『これ』って決められるようになってきたんじゃないかなあ」

若い頃から、仕事でも断るときには、きちんと断ってきたそうです。

「週3の連載と、週刊誌と、隔週の連載で、2日に1度締め切りがくる、みたいな時期があって、
その頃は、それ以外の仕事は一切断っていましたね。
『ほんのちょっとの、30分の取材ですから』って言われても、
その時間を捻出することはできても、
それをやっちゃったら、他の仕事を精一杯できなくなっちゃう。
それで、だんだん断り方を覚えていきました。
結局、あれもこれもやっていたら、全体のクオリティが落ちるっていうことになるから……」

ことし最初のweeksdaysの記事は、なんと女優の樋口可南子さんとの連載でした。

「対談をお願いするとき、断られてもいいから言ってみようと思って……。
でも、もしダメだったら、代わりに誰にしようってことは絶対にしないんです。
ダメだったら、別の何かを考えようって。
樋口さんの代わりは誰もいない……。
そういう気持ちでお願いすることが大事だって思っています」。

 

糸井重里さんしかり、伊藤さんの周りには、いつもそうそうたる人物が集まります。
そんな人から得るものも多いそう。

「この人の素敵だなというところは、「お手本」としてすぐに自分に取り入れる。
どんなに小さなことでも、それを繰り返していくと
すこーしずつですが「お手本」に近づけるような気がします。
逆に、日々過ごす中で、『これはちょっと違うな』と
違和感を感じる人に出会ったら、
その違和感を感じることに関して、自分はやめよう、と思う。
人の振り見て我が身を・・・ですね」

ここでも、真似すること、しないことの線引きはくっきりしています。

「毎年自分をバージョンアップしたいんです。
去年と同じで、何も面白いことはなかった……とは言いたくないから」

weeksdaysのスタッフや、取り込みを一緒にしているブランドにも、
思いははっきり伝えるそう。

「はっきり言うけれど、その言葉をみなさん理解してくれます。
このまわりの環境があるから、私が自由にものづくりを考えられるんです」

 

実は昨年11月、伊藤さんはご自身の会社を作りました。
「やっと軌道にのってきたし、楽しいし、しばらくはこの仕事を続けるつもりです」と伊藤さん。

軌道にのるってどういうこと?と聞いてみると……。

「心配事がなくなって、みんながそれぞれの位置で力を発揮できる状態かな」と教えてくれました。

 

 

このお話を伺って、後日伊藤さんがメールをくれました。

そこにはこんなふうに書いてありました。

「友人が、うちの娘と同じ学校へ息子さんを入学させることを考えていたんです。
でも、校風が合うかどうかを心配して迷っていて。
だから私は、『合わなかったらやめればいいんだから、ひとまず受験してみれば?』って言いました。
すると彼女は、この私の言葉で肩の荷が降りたんですって。
『そうか、やめればいいんだ』って。

自分を信じて突き進む。
その信じる勘を鈍らせないように、体も心も余裕をもたせる。

これ、すごくシンプルだけど、私のもっとも大切にしていることかもしれません」

 

「風の時代」と言われる今年。
新しい生活様式となり、価値観が大きく変化して……。
そんな「風」にのって、今までとは違う暮らし方、働き方をしてみたい、
と望んだとき、
いちばん必要なのは、自分を信じる強さなのだ
と伊藤さんに教えてもらった気がします。

でも、必要なものだけをその手に持って、
颯爽と歩く伊藤さんは、とても身軽でラクチンそうにも見えました。

心配だから、不安だからと、あれもこれも抱え込むと
返って体が重たくなって、不自由になる。
本当の強さを身につければ、生き方はもっと自由でラクになる……。
伊藤さんを見習って、私も無意識に握りしめていたものを、
ポイッと空に向けて投げ捨ててみたくなりました。

 

撮影/近藤沙菜


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