伊藤まさこさんに、ビジネスの話を聞きました。vol.3

 

昨年ぐらいから、さまざまな状況が重なって、
「新しい暮らし方、働き方」について、少しずつ考えるようになりました。

今までひたすら「やりがいのある仕事ってなに?」と考えてきたけれど、
もしかしたら、その横に、ちょっと遠回りだけれど、もっとなだらかな道があり、
時間はかかるけれど、そこをテクテク歩いて登っていけば、
道端に咲く花を眺めたり、
眼下に広がる伸びかな風景に気づいたり、
吹く風の気持ちよさに深呼吸をしたり……。
そんな進み方ができるんじゃないか……。

そこで、今回「新しい暮らし方、働き方」というこのコンテンツで、
今までとは、ちょっと違う仕事の仕方、
日々の暮らし方を始めた人にお話を聞いてみることにしました。

そのトップバッターが伊藤まさこさんです。

3年前に新たに立ち上げた、ウェブショップ「weeksdays」についてお話を伺っています。
第二話では、1週間かけて、1つの商品について丁寧に説明するコンテンツづくりについて伺いました。

今「ほぼ日」では、編集者、生産管理、進行、デザイナーなど、合計10人ほどが、
このお店に関わっているそうです。
伊藤さんの役目はディレクター。

「金曜日から始まるエッセイは、これが欲しい理由とか、出会ったときのことなどを書いて、
『ふ〜ん、そうなんだ』と思ってもらって、実際にお買い物をするまでに準備期間があるんです。
3日目ぐらいに商品詳細が出て、値段も出して、いよいよ木曜日の11時に発売するっていう流れです」

いちばん最初に販売したのは、トリッペンとコラボした靴だったそう。
立ち上げ当初は、思ってもいないことが起こって、軌道にのせるまで苦労したことも。

「準備にも相当時間がかかります。
昨年末にはjinsと老眼鏡を作りましたが、そちらは構想3年以上!
今も、それくらいの時間をかけて動いている商品がいくつかあるんですよ」。

 

 

このお店を立ち上げるにあたって、それまで手がけてきた連載をきっぱりやめた、
というお話は、第一話でご紹介しました。

何かを始めるとき、何かを潔く手放す……。
伊藤さんの身軽さには、いつも驚かされます。

みんな、新しいことを始める時には、「うまくいくかな?」と不安になったり、怖かったり。
だからこそ、「もしうまくいかなかったときに……」と
それまで関わってきたものを、
「保険」として取っておいたりしたくなります。

そう思わない?と聞いてみました。

「ぜんぜん思わない!」と伊藤さんはきっぱり。

「結局、過去のものとこれからのもの、いろいろ手を出しているうちに、
何をしている人かわからなくなっちゃうから……。
もしね、私がアシスタントを雇うとするじゃないですか?(実際は雇わないけど)
そんなとき『なんでもやります!』っていう人より、『私は片付けが得意です!』って
言ってくれる人と一緒にやりたいと思うんです。
『なんでもやります。頑張ります!』っていう人がいるけれど、
そんな人は、いったい何を頑張るか自分で見えなくなっちゃうんじゃないかな?
仕事を頑張るのは、当たり前のことだと思うんですよね」

それにしても「きっと大丈夫」という確信は、どうやって持てるようになるのでしょう?

「それまで本を出しても必ず買ってくださる読者の方がいて、
それがあったからかもしれませんね。
25年以上スタイリストをやってきて、ちゃんと培ってきたものがあって、
そして『ほぼ日』という信頼できる、しかも自由に好きなことをさせてくれる場があって…….
だから、自信があるっていうとちょっと偉そうだけど、私は自分を信じているんだと思う」

カシミアのリバーシブルケープは13万円ほど。それでも、すぐに完売したのだとか。

「あのケープは、カシミアのリバーシブルで、前の歳に同じ素材でコートを作ったんです。
それが本当に軽くて気持ちがよくて……。
このケープが欲しい!と思って作ってもらいました。
ニットで厚手だと、コートに腕を通すのが大変じゃないですか? でもこれなら羽織るだけでラクチン。
それに、コートを何着も持っている人でも、
絶対に新鮮に映るなと思ったんです。着物に合わせてもかわいいんですよ〜」

 

 

そうやって、自分が選んだものが、みんなもきっと欲しいはず、という「勘」のようなものは、
若い時から持っていたのでしょうか?

「すごくたくさんいろんなものを見てきたっていうこともあるけれど、
何かを目の前にしたときに『これ!』って思えるように、
いつも自分を整えていると思う。
いつもきれいなものを見たり、よく眠ったり、おいしいものを食べたり、
好きな友達と会ったり。
自分を健やかな状態にしておくんです。
疲れているときって、車の運転も危ないじゃないですか?
そういうことだと思っています」

そんなお話を聞きながら、そうか!
伊藤さんには、「潔さ」によって生まれる「よき循環」があるのだと思いました。
新しいことをするなら、今までの連載をやめる。
きれいなものを見たいから、気が進まないお店にはいかない。
無理して頑張ることをやめて、よく寝て時間のゆとりをつくる……。

思い切って、何かを「やめる」ことで、自分の中に「すきま」をつくる。

「すきま」があるから、新しいことにピピっと反応できる

「いいもの」が判断できる

自分が選んだものを販売するとよく売れる

頑張りすぎなくても、働きすぎなくても、仕事がきちんと回る

といった具合です。

自分にとって本当に必要なことを見極めるということ。
それ以外を思い切って手放してみるということ。
そこから、新しい働き方、暮らし方が始まるのかも……。

はて? 私にとって「手放すもの」はなんだろう?
と点検し直したくなってきました。

 

次回、最終回は新たな働き方を手に入れた、伊藤さんの「今」について伺います。

 

 

撮影/近藤沙菜

 


特集・連載一覧へ