伊藤まさこさんに、ビジネスの話を聞きました。vol,2

 

 

昨年ぐらいから、さまざまな状況が重なって、
「新しい暮らし方、働き方」について、少しずつ考えるようになりました。

今までひたすら「やりがいのある仕事ってなに?」
「充実した日々ってどんなもの?」と考えてきたけれど、
それは、頂上を目指して険しい山道をひたすら登っているようなもので、
もしかしたら、ふと横を見たら、
ちょっと遠回りだけれど、もっとなだらかな道があり、
時間はかかるけれど、そこをテクテク歩いて登っていけば、
道端に咲く花を眺めたり、
眼下に広がる伸びかな風景に気づいたり、
吹く風の気持ちよさに深呼吸をしたり……。
そんな進み方ができるんじゃないか……。

そこで、今回「新しい暮らし方、働き方」というこのコンテンツで、
今までとは、ちょっと違う仕事の仕方、
日々の暮らし方を始めた人にお話を聞いてみることにしました。

そのトップバッターが伊藤まさこさんです。

3年前に、「weeksdays」という「ほぼ日」とコラボしたウェブ上のお店を立ち上げた伊藤まさこさん。
それは、伊藤さんの「働き方」がガラリと変わった転機でもあったよう。

第一話では、全部で7つほどあった雑誌の連載をすべてやめて、
新しいお店立ち上げに着手した、というお話を伺いました。

「雑誌で私が着ているものとか、使っているものへの問合せも多かったので、
何かお店ができればいいなあって、ここ数年ずっと考えていたんです」と伊藤さん。

それにしても、今までは出版業界で働いていたのに、物販に挑戦するとは……。

「出版のお仕事って、いつも主語が『私』じゃないですか?
糸井重里さんとか、皆川明さんとか、私が出会ったビジネスの世界で仕事をバリバリしていらっしゃる人って
みんな『僕たちは』って言いますよね。それっていいなあと思って……。
チームで動けたら、もっと楽しいだろうし、
仕事の幅も広がるんじゃないかって思ったんです。
私は会社に属したこともなかったので、みんなで働くってどんなだろう?と興味もありました」。

 

この話を聞いて、私はちょっと意外でした。
伊藤さんは、いつも一人でさっと行動し、グループ行動は得意じゃないと思っていましたから……。

「グループ行動は、全然得意じゃないです(笑)。
何でだろうなあ? 一人でできることに、限界を感じ始めていたのかも。
若い時は、本を作るにしても、写真選びからレイアウト案を作ることまで、全部自分でやっていたんだけれど、
あるときから、『そうだ! 人に任せられるんだ!』って気づいたんです。
私の本をよくお願いしているデザイナーの渡部浩美ちゃんは、「こうしたら?」といつも的確なアドバイスを
してくれるから、『そっか、デザイナーとかカメラマンとか、
その分野の信頼できる人に任せればいいんだ!』ってことがわかってきた。
私が全部をやっちゃうと、みんながそのイメージに引っ張られて、それ以上のことができないんですよね。
本づくりも、小さなチームだけれど、それでもやっぱり自分の本だから、主語が『私』になっちゃう。
そうじゃない何かができないかなってずっと考えていました。
好きなことをして、でもやるならちゃんと売れないと嫌だと思っていたかな」

私も同じ出版業界にいて、主語が「私」になりがちな仕事が多いので、
この気持ちはとてもよくわかります。
でも、「何か違うことができるんじゃないか?」と薄々感じていることと、
そこから「じゃあ」と立ち上がることは、まったくの別物!
「お店ができるんじゃないか?」
と行動を起こした伊藤さんはすごい!

でも、よくよく聞けば、そうやって悶々と考えていた時期は
ずいぶん長かったのだといいます。
「何か違うことができるかも?」
その思いを失わず、「思い続ける」ことで、ふとした出会いに行動ができるようになるのかもしれません。

 

 

それにしても、どうやったら「ちゃんと売れる」の? と聞いてみました。

「weeksdaysを立ち上げる前に、『ほぼ日』で、不定期で『白いお店』というのをやっていたんです。
この肌触りのタオルで、タオルケットがあったらいいね、って思ったら、それを作りました。
3万円近くするんだけど、ちゃんと説明すれば売れるんだってことがわかったんです。
それでも高いじゃないですか?(笑)
でも、『毎日頑張ってるし、これに包まれて眠りたいんだ、私は!』っていう気持ちを
正直に原稿に書いたら、『そうだよね、私も自分のために買う!』っていうお客様が結構いらして……。
そっか、『これがトレンドですよ』とか、そういうのじゃない売り方が
できるんじゃないかと思ったんです」

本音でいくってこと? とさらに聞いてみると。

「本当に好きな理由をちゃんとコンテンツにすれば売れるってことかな」。

こうして、伊藤さんは糸井重里さんに相談に行きます。
「お店をやりたい。毎日コンテンツをアップしたい。毎日違うものを売りたい!って最初言ったんです。
さすがにそれは無理じゃない?って言われて(笑)
確かにそうだなあと思って、スタッフのみんなでああだこうだと言いながら、
じゃあ、週イチで木曜日発売にして、その前の一週間はコンテンツ(記事)をアップしよう、
ってことになったんです」

今、weeksdaysでは、毎週金曜日に、新作アイテムについての伊藤さんのエッセイでスタート。
土曜日は「LOOK BOOK」として、写真でアイテムを見ることができます。
商品詳細の発表は月曜日。
そして、日曜日と、火曜日、水曜日は、いろいろな方のエッセイなど読み物コンテンツを。
そして、いよいよ木曜日に発売というわけ。
目指しているのは「毎日なにか変化があるお店」なのだとか。

 

 

なるほど〜。
その丁寧なお店の作り方に、改めて「そうなんだ〜」と感心させられました。
ウェブショップといえば、あれもこれもと、アイテム数を増やして売ることばかりを考えがちなのに、
たったひとつのアイテムを、1週間かけて丁寧に説明する。
しかも、伊藤さん自身が、どうしてこれが欲しかったかを、
いちばん最初にきちんと明確にする。

このわかりやすいさ、正直さ、潔さが、
どうやら、伊藤さんのビジネスの原型のよう。

次回は、そんな伊藤さんの「新しい暮らし方、働き方」について伺います。

写真/近藤沙菜


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