過去と相手は変えられない! 鈴木尚子さん vol.5

「今日、こんな素敵な人に出会ってさあ」
自分が刺激を受けたこと、発見したことを、夫に話しても「ふ〜ん」。
ああ、こういうことは、やっぱり女友達に話さないとわかってもらえないよなあ〜。
とがっかりすることがあります。
いちばん近くにいるのに、自分の中で起こっている変化に共感してもらえない……。
ああ、夫婦ってなんなんだろう? と毎回思います。

いろいろな方に、夫婦についてのお話を伺うこのコンテンツ。
4人目は、ライフオーガナイザーの鈴木尚子さん。
第4話では、6年間をかけて部屋を片付け、新たに生まれ変わったお話を聞きました。

片付けを手がけるようになって、今まで感覚人間だったのに、
どんどん論理的になっていったそうです。

「この辺りから夫とちゃんと話ができるようになってきた気がします。
提案が上手になりましたね。
今までだったら『絶対にこうするべきだよ』という感じで話していたのに、
『ねえ、こういう風にしてみたらどうかな?』という『提案』という新しい形が、
私の中に入ってきたんです。
提案だから、相手が呑むかどうかはわからない。
相手が採用するかどうかは別として、
『私としてはこういうやり方もあるかと思うよ』と提案する方法にしたら、
ヒットの確率があがった気がするんです」。

つまり、最終決定権を相手に委ねた方が、望みがかなう確率があがるということ。
それは、相手に「気分よく手伝ってもらう」ということなのかもしれません。
「妻に言われたからやる」のと「自分で決めたからやる」のでは、
夫にとっての「気分」は違うはず。

他人だと、相手の気持ちを慮ることができるのに、
夫婦間になるととたんに「気持ちよく」という視点が抜け落ちてしまうのだと
我が身を反省しました。

「いつも夫に『君はタイミングが悪い』と言われていました。
会社から帰ってきたばかりで、疲れてお腹もすいているのに、
『あのさあ、今日さあ』と始まるのは論外だって。
私は、自分の感情を自分のタイミングでぶつけていたので、
その結果、せっかく作った料理を夫は一口も食べないてブスッと部屋に引きこもったりする。『なんて機嫌の悪い男なんだ!』ってそのときは思っていたけれど、
それは私のタイミングが悪かったんだな、ということがだんだんわかってきました。
それから、提案の仕方、タイミングを考えてものを言うようになりました」と鈴木さん。

そして、ご主人は少しずつ家事を分担して引き受けてくれるようになったのだといいます。
「最初にやってくれたのは、洗濯物をたたむことだったんですが、
『なんじゃこれ?』っていうたたみかたでした。
でも、それを指摘すればやってくれなくなる、と思って陰でたたみ直したりして……。
そのうち『干し方が悪いからたたみづらい』って言い出したので、
『このやろ〜!』と思いながらも、『私、確かに上手じゃなかったかも。
よかったら、干すところからやってくれると、めっちゃ嬉しいんだけどな〜』
って言いました。そうしたらやってくれるようになったんです。
干しているのを見て『わ〜、きれいに干すね〜。
あなたのやり方やっぱりすごいわ』って褒めまくりました」と笑います。

 

 

実はその頃、鈴木さんは、独学で心理学を学び始めていました。
そこで出会った言葉が「相手と過去は変えられない」。

「変えられるのは『自分』と『今』だけだということなんです。
ライフオーガナイザーの2級の講座に出たときに、
『あなたはどういう暮らしがしたいんですか?』と聞かれてとまどいました。
当時、私は家族とどう過ごしたいなんて考えもせず、
ただ部屋がきれいになっていればいい、と思っていたんです。

そして、『どうしてやってくれないの?』と家族に片付けを押し付けていた……。
そうか、私が望んでいるのは、
『家族で笑って気持ちよく過ごす』ことだった、とやっと気づきました。
そのためには、怒ってばかりではなく、まずは私自身が家族の役に立たないと、
と考えるようになったんです。
すぐ近くにいる人を幸せにできばければ、他人をしあわせにする仕事なんてできない。
だから、まずは『自分』と『今』を変えてみようと思ったんですよね」。

 

「スマートストレージ」を立ち上げてから、大忙しの日々。
その中で鈴木さんは、仕事へかける熱量と同じ熱量を家庭にも向けてきました。

夫、子供2人が、きちんと家のことができるよう、手をかけ時間をかけ、システムを構築。
それは、たとえば家中のものをどこに何があるか、
家族全員がわかる収納にすることだったり、
子供たちは小さな頃から、自分の持ち物はすべて自室で管理することだったり。
料理をするのは鈴木さんでも、配膳はセルフサービスで。
週末は夫に作ってもらったり、家族みんなで作りながら食べたり……。

 

「子供たちに、気持ち的に負担をかけてまで仕事をするというのは性に合わないので、
ママがいなくてもいつもの味が家にあるとか、
そういうことでケアできる部分があるんじゃないかと思ったんです。
夫でも子供たちでも『できる』『わかる』ということを大事に家の中を作ってきました。
だから、今はもう、みんながご飯が作れるし、どこに何があるかわかっています。
そういうところはすごく意識して整えてきましたね」。

仕事が順調で、どんどん忙しくなってもご主人はそのことに対して
文句は言われなかったのでしょうか?

「それは一度もないですね。あんなに『家にいろ!』って言っていた人なのに……。
それはきっと夫の中で何かが変わったから。
これから生きていく中で、『自分ひとりが家庭の経済を背負っていかなくちゃいけない、
という状況はもう古い』と思ったらしいです。
女性も自立して稼ぎを持った方が、お互いがラクだし、
何かあったときにも助け合えますからね。
そこは、夫に時代の流れに乗る柔軟性があったと思うし、
働いている私が楽しそう、というのもあったかと思います」

次回は、いよいよ最終回。最近の夫婦関係について伺います。

撮影/近藤紗菜

 

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「どうにもならなさ」が、夫婦で生きるといういことを、
面白くしているんじゃなかろうか? と思うようになりました。
自分と違う人間を自分の中に取り込むことで、
人生は太く奥深くなり、予想外の方向へと転がり出す……。
それが、ひとりでは得られない、共に生きるとおいうことの
味わいなのだと7人の方のジタバタが教えてくれた気がします。

「おわりに」より


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