トマト鍋

仕事をしている時、よく思います。
「100年後、200年後、もっと1000年後とか、ずっと先の未来の人が、私の作ったうつわを土の中で見つけた時に、心躍るものであったらいいな」と。
私は現代に生きるうつわ作家なので、基本的に、今の暮らしに添ったうつわを考えながら作るのですが、こんな風に空想の世界に身を沈めている瞬間があり、その時、私はこの手の中にあるうつわがここではないどこか遠い場所へ運んでくれるような、なんというか、はるか未来へ連れて行ってくれるタイムマシン(うつわですが…笑)のようなものに思えてきたりして、ちょっと頭がクラクラして愉しくなってくるのです。
博物館や美術館で古いものを見るのが好きなのですが、時折、ずーっと昔に作られた焼き物に、作った人の指跡などを見つけることがあります。(そう、焼き物は時を超えて残るのです!)そんな時、背筋がゾクゾクして、私の心は一瞬にして、それを作った人にロックオン。「男の人?女の人?子供いたのかな?何食べていたんだろう?どんなところでこれを作ったの?….」聞きたいことは後から後から溢れてくるのですが、答を得る事は、できない…
でも、ひとつ確信することは「これが出来上がった時、とても幸せだったろうな」ということ。
これは、どんな時代であれ、どんな文化であれ、ものを作る人類共通の感覚だと思います。
そして、こんな風に時間を超えて、ここにやってきてくれてありがとう、と心の中でつぶやきます。

ある時、次女、風(17歳)が、私の作った小さな茶杯を手にとってふと言いました。
「こんなん、土の中から見つけたら、私、うれしいな」
私は、持っていたものを落としそうになるくらいびっくりしました!
そんなこと言ってくれるの、まるで、私の心を見透かしたみたいに….!
ほとんど泣きそうになるのを、こらえながら、
「私も未来の人がそんな風に思ってくれたらいいなあって、いつも思ってるよ」
なんとか絞り出すように答えました。

そういえば、風は小さい時、地面を掘って綺麗な石や陶片を見つけるのが好きだったな、、、
バケツとスコップを持って庭をうろうろし、ちょっと特別なものを掘り出した時は、「宝を見つけたー!」と大声で叫びながら見せに来てくれたっけ。

さてさて、話がいきなり飛躍しましたが、そんな彼女は小さい時からお鍋が大好き。
お鍋といえば、大人になったら冬は毎日食でもいいっていうくらいですが、どちらかというと子供には不人気なメニュー。でも、風は子供の頃から「今夜はお鍋やで」というと、(落胆する姉と妹をよそに)「やったー!」と、歓喜するちょっと変わった子でした。誕生日に何かご馳走を作ってあげようと張り切って、「何が食べたい?」と聞くと、「ポン酢のお鍋!」と即答する我が子をほとんど不憫にすら思った時もあったくらい(笑)

そんな風もいつの間にか大きく成長して、今年は受験生。もうすぐ家を出て行きます。
親元離れたら、好きなお鍋を食べる機会も減るだろう…と、せっせとお鍋を作る晩秋初冬の日々。
温かい鍋を家族4人でつついていると、すでに一人暮らし中の長女、花のことが急に気になりました。
一人じゃなかなか鍋もできないし、こんなに寒い夜にどうしてるんだろうって、ちょっとしんみりしたりして。
それで、先日帰省した時に、「食べたいものある?」と(当然「おなべ!」という答えを予想して)聞くと、「春巻き!」と即答。「それか〜」ってつっこみつつ、「つまらん心配して損した!」と、笑ってしまいました。

昆布出汁で野菜や薄切りのお肉をシャブシャブしてポン酢で食べるお鍋は永遠の定番ですが、今回は、大谷家で人気のちょっと洋風のトマト鍋を紹介します。〆はご飯を入れてリゾット風に。美味しいスープを最後まで楽しんでください〜

<材料>(4−5人分)(φ27cmの大谷哲也の平鍋で)

チキンスープ 2ℓ
トマト缶 1缶
ベイリーフ 2枚程度
塩胡椒 適量

好みの野菜
好みのお肉
ソーセージもあれば嬉しい

(〆用に)
ご飯 お茶碗に軽く2杯程度
パルメザンチーズ
胡椒

1. スープとトマト缶、ベイリーフを鍋に沸かし、ジャガイモやニンジン、タマネギなど火の通りにくいものから煮る。
2. 1の野菜が柔らかくなったら塩胡椒で味付けし、その他の野菜や肉などを煮えにくいものから順に入れていく。
3. 鍋の最後はご飯を入れて軽く煮立て、パルメザンチーズと胡椒をたっぷりかけて、美味しいスープの染み込んだリゾット風雑炊で〆てください。

*チキンスープは固形スープの素をお湯で溶いて使ってもいいですが、私はよく、近所のかしわ(鶏肉)屋さんに買い物に行った時に鶏ガラも買ってきて、野菜のヘタや昆布と一緒にスープをとります。少し時間はかかりますが、とても簡単で美味しいので、ぜひ、やってみてください。

鶏ガラを熱湯にくぐらせて洗い、大きめ鍋にクズ野菜と一緒に入れて全てがかぶるくらいの水を注ぎ、強火にかける。煮立ったら弱火で1時間くらいフツフツ煮る。途中アクが出てきたらすくう。ガーゼ布巾を敷いたザルで漉して出来上がり。

 

信楽の工房を囲む山が、赤オレンジ黄色のパッチワークが美しくなると、いよいよお鍋解禁!
ただ、こんなにカラフルな時は一瞬、ハラハラと散ってあっという間に冬木立へ早変わり。
そして、長い冬=本格的なお鍋の季節が始まります。

 

ある日の大谷家のトマト鍋の具材は、豚バラカルビ用に軽く塩胡椒したもの、ソーセージ、マッシュルーム、シメジ、キャベツ、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、ブロッコリー、ルッコラ。

 

鶏ガラスープ用の野菜のヘタ

 

熱湯にさっと通して洗った鶏ガラと野菜のヘタにかぶるくらいの水を入れて、仕事をしながらコトコトとスープをとります。

 

1時間半くらい煮出したもの。これをガーゼで濾して出来上がり。いろんなスープや煮物の元になります。

 

スープ(コンソメスープを溶いたものでもOK)にトマト缶とベイリーフを入れて温める

 

タマネギやニンジン、ジャガイモなど火の通りにくいものから煮る。急ぐ時は小さく切ると良い。

 

先に入れた野菜が柔らかくなったら、塩で味付けし、他の野菜も入れる。

 

最後にお肉やソーセージ、青い野菜を入れてテーブルへ。

 

〆は、煮詰まった濃厚スープにご飯を入れて少し煮立て、パルメザンチーズと胡椒をひいてリゾットに。

 

スープも残さず、美味しくいただきます!


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