互いが「男とは?」「女とは?」という自分の理想にハマッていなかった! 鈴木尚子さん vol.3

 

夫というのは、いちばん近くにいるのに、いちばんわからない存在……。
「あ〜あ、もう少し優しかったらいいのにな〜」
「ちっとも私の言うこと、わかっていないよな〜」
そうため息をつきたくなります。

夫婦って、なんなんだろう?
みんな、どうやって「夫婦をやって」いるのだろう?
そんなことを知りたくて始めたこの連載「夫婦って、なに?」。
3人目は、ライフオーガナイザーの鈴木尚子さんにお話を伺っています。

第2話では、自分以上にわがままな人がいたんだ!
と驚き、興味を惹かれた夫との出会いについて伺いました。

結婚後も、アパレル業界で仕事をバリバリとこなしていた鈴木さん。
ところが……。出産後、ほぼ専業主婦の状態になったとたん、
すべてがうまくいかなくなったそう。

「生まれた長男が、すごく手がかかる子だったんです。
電車に乗れば大声を出し、じっとしていないといけないときに走り回る。
どこへ行っても肩身が狭く、私はあやまってばかり。
今では、それが彼の特性だとわかりますが、その時は、なぜこうなの?
私の育て方が悪いの?と泣きたくなりました」

 

さらに、ちょうどその頃夫が転職。
「会社の事情だったので、本人は納得がいかなかったようで、
家に帰ってきても機嫌の悪さは半端がなかったですね。
経済的にもこのままだとどうなるか不安でした。
毎日喧嘩が絶えなくて、衝突しかなくて……。
子供とふたりっきりで家にいることにももう限界で、
家の中は常にとっ散らかっていました(笑)。」

でも、結婚する際に
「子供が20歳になるまでは、何があっても絶対に別れない」
と決めていたというから驚きです。
「お互いに個性が強いから、いろいろ問題が起こるだろうとは予測していました。
でも、子供には罪がないことだから、もし子供をつくるんだから、
その責任はお互い持たないといけないねって話していたんです。変わった夫婦ですよね〜」。

結婚して喧嘩が絶えなかったのは、
「価値観を押しつけあったから」と鈴木さんは分析します。

「夫は『女は家にいて、三歩下がって三つ指ついて』ぐらいの人でした。
義理の母がそういう人でしたから。でも、私はこういう人じゃないですか?(笑)
『そんなこと私に求めても無理よ』っていう感じでした。
そして、私は私で、『男は文句言わずにしっかり働いて、お金を持ってくる人』
っていうイメージがあったのに、夫は結婚してすぐに仕事が思い通りにいかなくて、
ずっとゴニョゴニョ文句言ってるし。『もう、しっかしりろ〜』って思っていました(笑)。お互いが『女とは』『男とは』という自分の理想にハマっていないことが、
喧嘩の原因だったと思います」

もしかしたら、「夫婦になる」ということは、
「男とは何か」「女とは何か」を、世の中の定義ではなく、
自分自身のために定義し直すことなのかもしれません。

毎日不機嫌で、夫と喧嘩をして、子育てもままならない。
そんな辛い日々から、どうしたら抜け出せるのだろう?
そう考えていた鈴木さんを救ったものこそ「片付け」でした。

「辛いから聞いてほしいのに、夫もいっぱいいっぱいだったから余裕がなくて。
私も自分で何かを変えなくてはと思っていたけれど、何をしたらいいかわからない。
だから顔を合わせると喧嘩しかしていなかった気がします。
『私は機嫌が悪いの!』ということを毎日全身で表現していました。
ドアをバンと閉めたり、ご飯をドンッて置いたり(笑)。

ある朝、前の晩にいつものように派手に喧嘩をして、
どんよりしたまま朝ごはんを食べている夫の姿を見て、
『私はいつまでこの不機嫌を続けていかなければいけないんだろう』って思ったんです。
その時、あれ?『いつまで続ける』っていう主語は『私』だよな、って気づいちゃった。
つまり『続けている』のは自分なんじゃないか?って。
えっ? 私が続けているの?
じゃあ、私が不機嫌を続けないって決めたらどうなるんだろう?って。
なぜかそこで思考の切り替えのスイッチが入ったんです。
それが、私の人生が変わる瞬間でした」。

 

このお話を聞いた時、なんだかすごく感動してしまいました。
人が、今まで見えていなかったものが見えるようになった瞬間。
そんな場面に立ち合わせてもらうことは、
インタビューにおいていちばんの喜びのような気がします。

そして、鈴木さんは
「不機嫌を続けないためには、何をしたらいいんだろう」と考えたそう。

「まずは何か行動を変えないとダメだ、と思って、
とりあえずものを突っ込んだままで開かなくなっていた引き出しを
片付けてみようと思ったんです。
今思えば、そこに入っていたものを形よく並べ直しただけだったので、
片付けや整理には程遠いものだったんですが、すごく気持ちがすっきりしたんですよね。
ずっと家事も育児も終わりがないって感じていて、
仕事をしていた頃のような達成感がなにもなかったんですが、
引き出し1個を片付けたら、確実に何かが『終わった』みたいな達成感があったんです。
そこから、6年間かけて家の中を片付けていきました」

ここで鈴木さんが選んだのが「相手を変える」ことではなく
「自分を変える」ということです。
よくよく考えてみれば、「相手を変える」ことは、とことん「不確定」です。
何を言えば変わるのかわからないし、
そもそも相手に「自分を変えよう」という意思がなければ変わらない。
なのに、なぜ変えたくなるのか……。
それは、そこに自分が欲しいものがあるかもしれないと思うから。
優しい言葉が欲しい、手伝って欲しい、わかってほしい。
でも、それって本当に「欲しい」と思っているのかな?と疑ってみたくなりました。

夫婦のお話を伺っていたはずなのに、
いつしか話は、自分自身の見つけ方に変わっていました。
でも、それが面白い!

どんな夫婦であるかって、どんな自分であるかってことでもあるのかも……。
そんな予感がしてきました。

次回は、家中を片付けながら「心の片付け」に着手したお話を伺います。

 

撮影/近藤紗菜

 

この連載をまとめた書籍「ムカついても、やっぱり夫婦で生きていく
も発売中です。

「どうにもならなさ」が、夫婦で生きるといういことを、
面白くしているんじゃなかろうか? と思うようになりました。
自分と違う人間を自分の中に取り込むことで、
人生は太く奥深くなり、予想外の方向へと転がり出す……。
それが、ひとりでは得られない、共に生きるとおいうことの
味わいなのだと7人の方のジタバタが教えてくれた気がします。

「おわりに」より

 

 

 


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