「この人」と決めたのは、わがままだと思っていた自分以上にわがままだったから。鈴木尚子さん vol.2

夫というのは、いちばん近くにいるのに、いちばんわからない存在……。
「あ〜あ、もう少し優しかったらいいのにな〜」
「ちっとも私の言うこと、わかっていないよな〜」
そうため息をつきたくなります。

夫婦って、なんなんだろう?
みんな、どうやって「夫婦をやって」いるのだろう?
そんなことを知りたくて始めたこの連載「夫婦って、なに?」。
3人目は、ライフオーガナイザーの鈴木尚子さんにお話を伺っています。

第一話では、ちょうど取材依頼をしたときに、
鈴木さんは病院のベッドにいらした……。そんなお話を紹介しました。

今日はいよいよ、夫婦について伺います。

まずは、ご主人と出会った頃のことを聞いてみました。

「26歳頃に、仕事の関係で知り合いました。
初めて会ったときから『私はこの人と結婚するな』って思ったんです。
結婚願望はそんなになかったし、他に付き合っている人もいたんですが」と鈴木さん。

今まで付き合っていた人と、ご主人は何がどう違ったのでしょう?

「夫と出会ったとき、今まで私の周りにいた人とは、
まったく違ってすごく大人な感じに思えたんです。
3歳年上でした。私ね、めちゃくちゃ直感タイプなんですよ(笑)」

結婚してみてその直感は正しいと感じたのでしょうか?

「う〜ん………。正しかったと思います。
3年間付き合って、その間『これはちょっと……』と感じたことも多々あったんですが。
とにかくちょっと変わった人なんです。
デートをしていても、途中で機嫌が悪くなると、いつの間にか帰っちゃったりして。
とにかく超マイペース。待ち合わせに2時間ぐらい来なかったり」。

 

え〜! と思わずのけぞりました。
私がブログの中で知っている鈴木さんは、自分をしっかり持っている方。
失礼ながら2時間も相手を待つ人には見えません。

「わがままだって思っていた自分よりわがままな人がいてびっくりしたんです(笑)。
それまで私は『地球は自分のために回っている』って思っていたけれど、
もしかしたら、地球はこの人のために回っているんじゃないか?
そう感じさせてくれた初めての人だったんですよね。
私が強いタイプなので、それまでつきあってきた人は、
優しくて私に巻かれている人が多かったんです。
でも、夫の場合は私のペースに一切乗ってこなかったので、そこがすごく面白かったんです。
あれ? どうして今突然機嫌悪くなったんだろう?って知りたくなっちゃう」。

結婚する時に、自分と感性が似た人を選ぶケースもあれば、
自分にはないものを求めて正反対の人を選ぶ場合もあります。
「似た人」を選んだ方が断然ラクです。
「正反対の人」は、刺激はもらえるし、自分を変える起爆剤にはなるけれど、
相手を理解するにも、自分にその刺激を取り入れるにも、体力、気力が必要になります。
生涯の伴侶の選び方は、
チャレンジャーの鈴木さんならではだったのだろうなあと思いました。

「こいつ、面白い!」と感じる人は、つきあっている間はいいけれど、
結婚して日常生活が始まると大変なことが多いもの。
それでも結婚したのは「犬猫がやたら彼によっていく」からと
「彼のご両親が素晴らしかったから」なのだとか。

実は鈴木さんはお母様との関係で長年苦しい思いをしたそうです。

「うちの母はものすごく厳しくて、いわゆる『教育ママ』でした。
幼い頃から、母の『こうするべし』ということが、生きていく上での最優先で、
常にそれに流されている自分がいたんです。
ところが、義理の母は正反対で、3人の子供を育てたおおらかで、
ちょっとやそっとのことでびくともしない骨太の人。
たとえば、誰かが遊びにくるとしたら、
うちの母なら部屋も料理も完璧に整えてからなのに、
義母は「え?ここに人を呼んでいいの?」と思う状態でも
『どうぞどうぞ』って、ざっくばらんに誰でも家にあげてしまうタイプ。
こんな世界があるんだって、びっくりしたんです。
私にも母にもない、飾らない感じにすごく惹かれて。
結婚して、何が嬉しかったって、実母から解放されて、
新しい世界が始まった、と感じられたことですね」。

 

こうして26歳で結婚。わまがまま三昧だったご主人との新婚生活が始まりました。
「変人だから(笑)、突然不機嫌になったりはしょっちゅうで、
うちの両親からも『なんだあの人?』って言われていました。
普通は義理の両親に対して一応気を使うじゃないですか?
うちはその逆で、両親が夫に対して気を遣っていましたね。
母なんかは『どうして私たちが、ご機嫌伺わなくちゃならないのかしら!?』
って怒っていましたから」と笑います。

そして、新居には休みになると友人たちがたくさんやってきました。
「彼はわがままだけど、人との関係はとても大切にするんです。
だから、いつも誰かしらが家にいて、泊まったり、一緒にご飯を食べたり。
彼は自宅をそんなふうにみんなが気軽に集まれる場にしたかったみたい。
そこは私も共感できたので、新婚だけど毎週末、他人が家にいる生活でした。
みんなのためにご飯を作ったりすることは、全然苦じゃななかったんです」。

 

一方で結婚後もアパレル業界で、デザイン、企画、人材育成までを任されて、
バリバリと働き続けました。
ところが……。29歳で出産すると事態は一変します。
「母が『子供は絶対3歳までは自分の手で育てるべし』という考えの持ち主でしたし、
夫も私が無理をして働くことには否定的でした。
さらに当時住んでいた鎌倉近くは保育園が全然なくて。
結局在宅で少し仕事は続けましたが、ほぼ専業主婦の状態に。
いい母、いい妻を目指したんですが、これがまったく思うようになりませんでした」。

 

とにかく、最初から「いい夫婦」をやっていくには前途多難。
でも、そこには鈴木さんならではの視点がありました。
「今まで会ったことないタイプ」の夫と義父母。
「安定」を求めるのではなく、そこに、何があるのか見てみたい、知りたい……。

私が鈴木さんと会ったり、ブログを読んでいつも感じるのは、
絶えず進化をし続けているということ。
昨日の殻を脱いで、明日また新しくなる……。
そんな魅力の一端を、「夫婦のはなし」でも見せていただいた気がします。

次回は第一子を出産後の鈴木さんの「暗黒の時代」について伺います。

 

 

撮影/近藤沙菜

この連載をまとめた書籍「ムカついても、やっぱり夫婦で生きていく
も発売中です。

「どうにもならなさ」が、夫婦で生きるといういことを、
面白くしているんじゃなかろうか? と思うようになりました。
自分と違う人間を自分の中に取り込むことで、
人生は太く奥深くなり、予想外の方向へと転がり出す……。
それが、ひとりでは得られない、共に生きるとおいうことの
味わいなのだと7人の方のジタバタが教えてくれた気がします。

「おわりに」より

 

 

 


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