「夫婦って、なあに?」というお話を伺うこのコンテンツ。
3人目は、整理収納コンサルタントの本多さおりさんです。
第2話では、結婚して「自分がやりたいこと」を探し、
やっと整理収納の仕事にたどりついたのに、
家事がうまく回らなくなり、
夫に対してプチン!と切れてしまったところまで伺いました。
「結婚2年目のある夜、いきなり夫を揺り起こして、
『あ〜!なんで私ばっかり!』って大声出しちゃいました」と本多さん。
いつもお話する時には、穏やかで感情のアップダウンがないように見えるので、
え〜ほんと? びっくり!
「それまでは、時間的に余裕があったし、家事も好きだったので、
夫が手伝ってくれなくても、ま、いいか、と思っていました。
でも、料理は当時からキライで……。
どうして私ばかりが毎日ご飯を作らなくちゃいけないんだろう? って思っていたんです。
そして、仕事が軌道に乗り始めて、時間に余裕がなくなって……。
あの日夫は早々に寝ていたんですが、私は洗い物や残った家事をやりつつ、
メールも返さなくちゃ!などいろんなことをあれこれ考えていたら、
だんだんイライラしてきて、それまで溜まっていたものと一緒になって溢れ出し、
ドヒャ〜って出ちゃったんですよね。
寝ている夫を見た時に、ものすごく腹が立って……。
どうして私ばっかりが、家を回すことを考えてるの?って。
もうすぐ冷蔵庫の牛乳がなくなるとか、
明日は雨だから洗濯物は部屋干しだなとか、
生活って、考えなくちゃいけないことだらけじゃないですか?
2人で暮らしているのに、どうして私ばっかりがその運営を任されて、ひとりでやってるの?
これってすごくおかしいよね? と思ったことをダ〜ッと話しました。
そして、『考えて欲しい』って言ったんです。
『何曜日に何のゴミを出すかも頭に入っていないよね?
そんなことを何にも気にしないで生活が回っているなんて、あなたはおかしいよ!』って」。
きっと本多さんは、整理整頓がお得意だけに「現状の把握能力」がとても高いのだと思います。
そしてここに、本多さんの夫婦としての在り方の大きなポイントがあるような気がします。
それは、「自分の権利をきちんと正しく主張する」ということ。
「どうして、私ひとりで生活を回さなくちゃいけないの?」という疑問は、
「2人で暮らしているのだから、あなたにも生活を回す役目が半分あるはず」という主張とイコールです。
ただしそれは、現実に「半分手伝って」という意味ではなく、
「暮らしは勝手に回っているのではない、と気づいて」ということ。
そうやって、自分が本当に何を望んでいるかをきちんと分析し、声にできるのがすごい!
「ぶち切れた夜」から、ご主人は少しずつ変わっていったそうです。
「彼は基本的に素直なので、『はい、おっしゃる通りです』と聞いてくれました。
最初はご飯を食べたら、そのままソファーに寝転がる、
という昭和のお父さんみたいな感じだったんですが、少しずつ手伝ってくれるようになりました。
そうしたら、面白いことに、彼が『この部屋は、片付けたくなる部屋だったんだ!』と言うようになりました。
ものが行動に沿って配置されていたり、よく使うものはパッと取れるようになっているので、
『取って、使って、また戻す』のに負担がない、ということに初めて気づいたみたい。
私がやってきた整理整頓の仕事の意味を、やっと理解してくれたようで、嬉しかったですね」
ところが……。結婚して6年間は夫婦2人暮らしだったという本多さん。第一子を出産後生活が激変。
「子供を産んで一人の時間がなくなって、ソロ活動ができなくなることが、
想像以上の辛さで苦しみましたね。しかも保育園にすぐには入れなかったので、
1年間ずっと家で面倒を見ていて……。『赤ちゃん、かわいい〜!ああ幸せ〜』と浸れた日って、
実は一度もなかったかもしれません」
なんて正直な人なんだろうと思いました。
「これは無理」と思うことをちゃんと自分で認めることができる……。
その辛さをどうやって自分の中で消化したのでしょう?
「辛い理由を考えてみたんです。そうしたら、辛いのはひとりで育児をやっている時だと気づきました。
夫がいる休日や、母が来てくれているときには、辛くないんです。同じことをやっているのに……」
そこで、ご主人に協力を求めることに。でも……。
「夫の仕事はとにかく朝は早いし、夜は遅い。
子供が起きている時間はいないから、まったく戦力にならない状態でした」。
2人の子供のはずなのに、どうして私ばかりが子育てに責任を負わなくてはいけないんだろう?
それは、きっとどんなお母さんもが思うこと。
「保育園に入れたいと奔走していたときにもそうでした。
どうして私ばかりが保活をしなくちゃいけないのよ!って文句を言うと
『だって、おかあさんが働くために入れる場所でしょう?』って言うんです。
もうカチンときましたね。
『じゃあ、私のわがままで保育園に入れようとしているってこと?』ってつめよりました。
このままじゃ困るから、どんなにプロレスみたいな喧嘩をしても、私は私が言いたいことを伝えていましたね」。
さらに、一人目の子育ての辛さが解消されないまま第二子を出産。
次男が生後2か月半、長男が2歳の時に一緒に保育園に入れることができたそう。それでも辛い……。
ある日、乳腺炎で高熱が出て病院へ。
点滴を打ってもらいながら涙が止まらなくなり、ご主人に対する思いをラインに書いたのだと言います。
「本ちゃん(夫のこと)は、家から一歩出たら、もう子供のことは私の責任で、
自分がどうこうしなくても大丈夫という姿勢が本当に理解できない。
なんで当たり前にそうなの?
このままでは本ちゃんにどんどん不信感が募るし、育児が辛くなるし、
最悪の最悪は子供たちをかわいく思えないことにもつながりかねない」
このラインの文章を「夫への文句」だけで終わらせなかったのが本多さんのすごいところ。
その下には「して欲しいこと」が箇条書きになって続いていました。
・育児の責任は母、自分はサブという意識をやめてほしい。
・私が倒れた時になるべくすぐバトンタッチできるよう、普段から職場で話しておいてほしい。
・保育園のことにもっと積極的に関わってほしい。
この騒動の後、ご主人は毎日子供たちの朝食用にサンドイッチを作ってくれるようになったそうです。
「たぶん私は物理的なことではなく、
『当事者意識を持ってくれ』ということが伝えたかったんだと思います。
家にいてほしいけれど、それがとてもかなわない職場で……。
だったら妻の負担を軽くするには何ができるのか?
そういうことを自分で考えて行動してくれたら、それだけで救われるって思いました。
「何ができるか、今ここで考えて」って言ったら『じゃあ、朝ごはん作る』って彼が言ったんです。
それだけでもだいぶ違いますね」と本多さん。
結婚、出産と自分が身を置く環境が刻々と変わる中で、
自分がご機嫌に心地よく生きるためにはどうしたらいいか?
その解決法を、自分ひとりで考えるのではなく、
夫にも「わかって!」と言い続けたところが本多さんの素晴らしいところ。
誰もが「も〜、わかってくれなくて」とプリプリ怒り
「しょ〜がないよね」と諦めるのに、
どうして辛いかを説明し、理解してもらい、助けてもらう……。
そのためには、まず「自分がどうして辛いのか?」と分析しなくてはいけません。
そして、きちんと「自分のやってほしいこと」を主張する。
ものごとを、そして生活をよくするしくみづくりがそこにありました。
次回は、「それでも」と新たに歩き出した本多さんの「今」について伺います。
撮影/近藤沙菜
このコンテンツと同時進行で作っていた書籍「ムカついても、やっぱり夫婦で生きていく」
本日10月20日発売です!
今までご紹介した久保輝美さん、附柴彩子さんも、私自身のことを付け加えて
少し違う形で掲載しています。
もしよかったらぜひお手にとってみてください。