「役に立たないこと」をやるから、自分の想像力以上のことが起こる!

このコンテンツ「もっと早く言ってよ!」は、ずっと前から知っている、と思っていたことなのに、
この年齢になって「あ、そうか!」とやっとわかった気がする体験を、50代の私が、20代だった私に伝えるつもりで綴っています。

ノリコさん、あなたは今「自分の仕事をつくる」ことに必死ですよね。どうしたら、ライターになれるかわからなくて、どうしたら仕事を増やすことができるかわからなくて、とにかくできることは片っ端からやってみる。そんな状態だと思います。だから、自分のことだけで精一杯。周りをみる余裕なんてないよね〜。

私もずっとそうでした。何かを「やるか、やらないか」の判断は、「仕事の役にたつか、たたないか」オンリー。仕事に直接関係ないことの前は目をつぶって通り過ぎ、寄り道、回り道をするなんてとんでもない! 仕事に直結することが、人生の優先順位第一位でした。人に誘われたパーティでも、「有名なあの人が来るらしい」と聞けば、「知り合いになれるかも」と顔を出したけれど、ただみんなが集まるだけだと行かなかった……。今から思えば、なんて窮屈な日々だったんだろうと思います。

ノリコさんの今の人生は、すべて自分のため。人のために何かをする、なんてなかなか思えないよね。「自分がちゃんと立ててもいないのに、人のことなんて……」と思っているでしょう? 気持ちの上では、「誰かの役に立ちたい」と思っていても、原稿の締め切りの真っ最中だったら、「ちょっと忙しいから……」と逃げてしまう。自分のことだけで精一杯で、毎日アップアップだから、それは仕方がないことなのかもね。

でもね、ノリコさん! 私はごく最近、「直接仕事に役に立たないこと」をやってみることにワクワクしているんです。きっかけは、緊急事態宣言で自粛生活を送っているときに、インスタライブをやったことでした。普段、取材でお世話になっている洋服のセレクトショップさんが、のきなみお店を閉じなくてはいけなくなった……。「大人になったら着たい服」のイベントも中止になって……。私は、ずっとおしゃれな店主のみなさんから、おしゃれのノウハウを教えてもらい、ショップに通い、おしゃべりし、撮影をお願いしたり、たくさんの時間を一緒に過ごしてきました。だからこそ、私で役に立つことないかな? と自然にそう思ったのでした。まずは「外の音、内の香」で、自分が洋服を着て、着心地やいいところを説明する、という「おうちでファッションショー」をやってみました。それが、インスタライブへと発展していった、というわけです。おかげでびっくりするぐらいたくさんの人が見てくれて、買ってくださいました。その時の嬉しかったこと!最初は、「おしゃれの達人でもない私が洋服を着て、みんなが欲しいと思うかな?」と思っていたけれど、やってみたら好評でこちらがびっくり!

 

結果が見えないことをやること。自分が儲からないことをやること。純粋に「誰かのために」とやること。それってこんなにワクワクするんだ、と初めて知りました。そして、それによって誰かが喜んでくれることがめちゃ嬉しい!
お恥ずかしながら、今まで私は本当に自分のためにしか生きてこなかった……。自分が作る雑誌が面白くなること、自分が書きたいことを書籍に書くこと。自分が見つけたことをこのサイトで書くこと。そればっかり考えてきた気がします。でも、そこを離れて「誰か」のために動いてみたら、ひたひたと心が満たされる喜びを味わいました。

 

そして……。あの恥ずかしさをかなぐり捨て、必死にやってみたインスタライブを見てくださった方が「あれ、よかったね〜」「あんな伝え方ができたらいいね」と言ってくださった。それは、私にとっても、新しい仕事の形を模索するきっかけとなったのでした。ひとつ新しい扉が開いた気がしています。

ノリコさん、私の周りには「役に立たないこと」をやっている素敵な大人たちがいっぱいいます。みんな、どうなるかわからないけれど、集まってマルシェを開いてみたり、バッグを作って被災地支援に充てたり、クリエイターたちは、売れるかどうかはわからないけどものを作ったり……。

 

「今」に役に立つことをやっても、今以上のことは起こりません。「役に立たないこと」って、そこから何が始まるかがまったくわからない……。だからこそ、自分の想像力以上のことが起こる……。自分の辞書にないことが始まるんですよね。そして、「誰かが喜んでくれること」の中には、人の心を動かす秘密が潜んでいる……。その秘密を知れるだけで、その体験は宝物になるんだと思います。

ノリコさん、今は自分のことで精一杯かもしれない……。でも、ちょっと肩の力を抜いて、「役に立たないこと」をぜひやってみて! 私はこのことに、もっと若い時期から気づいていればよかったと、悔やまれてなりません。世の中って、「役に立つこと」だけで回っているわけじゃない。「役に立たないこと」の中にあるパワーってきっとすごい!

私も、これから「自分」をちょっと離れて、すぐに結果がでないこと。何のため?と言えないこと、理解できないこと、をいっぱいやってみようと思っています。


特集・連載一覧へ